【ITニュース解説】2人のエンジニアがほぼ同時期に似た動機で同じ技術を発明した件について
2025年09月08日に「Zenn」が公開したITニュース「2人のエンジニアがほぼ同時期に似た動機で同じ技術を発明した件について」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
2人のエンジニアが、Rustでの面倒なコード記述を楽にしたいという同じ動機から、互いに知らずに非常によく似たライブラリをほぼ同時期に開発した。同じ課題には同様の解決策が生まれやすいことを示す事例となる。
ITニュース解説
プログラミングの世界では、異なる場所にいる開発者が同じ課題に直面し、驚くほど似通った解決策をほぼ同時に生み出すという現象が時折発生する。これは、技術的な課題が普遍的であり、論理的な思考を重ねた結果、優れた解決策が一点に収束することを示唆している。近年、安全性と高いパフォーマンスで注目を集めるプログラミング言語Rustのコミュニティにおいて、まさにこのような出来事が起こった。
事の発端は、Rustにおける「委譲(Delegation)」という設計パターンの実装に関する課題であった。委譲とは、ソフトウェアを構成する部品(オブジェクト)が、自身の持つべき機能の一部を、内部に持つ別の部品に処理を任せる手法である。これにより、コードの重複を避け、部品の再利用性を高めることができる。例えば、ある多機能な部品Aを作りたいが、その機能の一部は、既に存在するシンプルな部品Bが完璧にこなせるとする。この場合、部品Aの内部に部品Bを組み込み、関連する処理の要求が来たら、そのまま部品Bに処理を「丸投げ」する。これが委譲の基本的な考え方であり、ソフトウェアを効率的かつ整理された構造に保つための重要なテクニックである。
しかし、Rust言語でこの委譲を実装するには、定型的でありながら煩雑なコードを大量に手で記述する必要があった。Rustには「トレイト(trait)」という、部品が備えるべき機能の仕様書のような仕組みがある。ある部品が別の部品に処理を委譲する場合、委譲元は委譲先が実装しているトレイトの関数を、一つひとつ自分の関数として定義し直し、その内部で委譲先の関数を呼び出す、という記述を全関数分行わなければならなかった。この手作業は、単に面倒であるだけでなく、記述ミスを誘発しやすく、機能の追加や変更があった際のメンテナンス性を著しく低下させるという問題を抱えていた。
この共通の課題に対し、二人のRustエンジニアが、互いの存在を知らぬまま、独立して解決策の開発に取り組んだ。彼らがたどり着いた答えは、Rustが持つ強力なメタプログラミング機能である「マクロ」を利用することだった。マクロとは、コードを生成するためのコードであり、コンパイル時に定型的なコードを自動で展開する仕組みである。これを使えば、開発者が手作業で行っていた退屈な委譲コードの記述を完全に自動化できる。開発者は、どの部品のどの機能を委譲したいかという簡単な指示を記述するだけで、マクロが必要なすべての定型コードを裏側で生成してくれる。これにより、開発者は本来集中すべきロジックの実装に専念でき、コードの可読性や保守性も大幅に向上する。
二人のエンジニアは、このマクロを実装したライブラリ(Rustでは「クレート」と呼ばれる)をそれぞれ開発していた。そして、一人のエンジニアが自身のクレートを完成させ、コミュニティに公開しようとしたまさにその時、もう一人のエンジニアが、驚くほど酷似した機能を持つクレートを、わずか数日前に公開していたことを発見した。クレートの名前さえもtrait_delegateとdelegate_traitという、単語の順序が違うだけの非常に似通ったものであった。
この偶然の一致は、単なる驚きで終わらなかった。通常、このような状況では競合関係が生まれることもあるが、オープンソースソフトウェアの世界では協力という道が選ばれることが多い。今回もその例に漏れず、後からクレートを公開しようとしたエンジニアは、先に公開したエンジニアに連絡を取った。そして、二つのプロジェクトを統合し、より良い一つのライブラリを作り上げるために協力することになったのである。自身のアイデアや実装を、先行するプロジェクトに貢献(コントリビュート)するという形で合流し、一つの優れた解決策を共に磨き上げていく道を選んだのだ。
この一連の出来事は、システム開発におけるいくつかの重要な側面を浮き彫りにしている。第一に、優れたエンジニアは、言語や環境が抱える本質的な課題を正確に見抜き、同様の合理的かつ美しい解決策にたどり着くということ。第二に、オープンソースコミュニティにおける協力の精神である。個人の成果を競うのではなく、共通の目的のために知識や技術を持ち寄り、コミュニティ全体にとってより価値のある成果物を生み出すという文化が、技術の発展を加速させている。この事例は、プログラミングという行為が単なるコードの記述ではなく、普遍的な問題解決のプロセスであり、開発者間の協力によって成り立っていることを示す象徴的な出来事と言えるだろう。