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【ITニュース解説】How RSS beat Microsoft

2025年09月08日に「Hacker News」が公開したITニュース「How RSS beat Microsoft」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

Webサイトの更新情報を配信する技術で、シンプルな「RSS」とマイクロソフトが推す企業向け規格「ICE」が競合。クローズドで複雑なICEに対し、誰でも使えるオープンなRSSが多くの開発者に支持され、コンテンツ配信の標準として広く普及した。

出典: How RSS beat Microsoft | Hacker News公開日:

ITニュース解説

インターネットの世界では、ウェブサイトやサービスが互いに情報をやり取りするための共通のルール、すなわち「プロトコル」が不可欠である。1990年代後半、ウェブが爆発的に普及し始め、サイト間でコンテンツを効率的に共有・配信する必要性が高まる中で、二つの対照的なプロトコルが登場した。一つは巨大ソフトウェア企業マイクロソフトが主導した「ICE」、もう一つは草の根的に広がった「RSS」である。この二つの技術の興亡は、今日のシステム開発においても重要な教訓を示している。

まず、マイクロソフトが提唱したICE(Information and Content Exchange)について解説する。ICEは、企業間の大規模なコンテンツ配信と同期を目的として設計された、非常に野心的なプロトコルだった。例えば、大手ニュースメディアが作成した記事を、提携している複数の地方メディアサイトへ自動的に配信し、その利用料を管理する、といったビジネスモデルを想定していた。そのため、ICEの仕様は極めて多機能かつ複雑だった。単にコンテンツを渡すだけでなく、配信スケジュールの管理、購読者情報の管理、コンテンツへのアクセス制御、さらには課金処理に関する情報まで含んでいた。また、企業間の信頼性が重要な取引で使われることを前提としていたため、通信内容の正当性を保証するためのデジタル署名といった高度なセキュリティ機能も盛り込まれていた。しかし、この多機能性と複雑さが、ICEの普及を阻む最大の要因となった。システムにICEを実装するためには、その膨大な仕様を深く理解し、複雑なロジックを組み込む必要があり、開発者にとって非常に高い技術的ハードルとなっていたのである。

一方、ICEとほぼ同時期に登場したのがRSS(Really Simple Syndication)である。その名の通り、RSSは「本当にシンプルな配信」を目的としたプロトコルだ。元々はNetscape社が自社のポータルサイトでニュースの見出しを表示するために開発した技術が原型となっている。RSSの目的はただ一つ、ウェブサイトの「更新情報」を配信することに特化していた。ブログの記事タイトル、簡単な要約、そして元記事へのリンクといった、必要最小限の情報だけで構成される極めてシンプルなXMLフォーマットだった。このシンプルさこそが、RSSの最大の強みだった。仕様が単純明快であるため、個人開発者や小規模なチームでも容易に理解し、自身のウェブサイトにRSS配信機能(RSSフィード)を実装することができた。また、そのRSSフィードを読み込んで一覧表示する「RSSリーダー」と呼ばれるソフトウェアも、比較的簡単に開発することが可能だった。

結果として、この二つの技術の競争は、RSSの圧勝に終わった。ICEはほとんど使われることなく忘れ去られ、RSSはブログやニュースサイトの更新情報を購読するための標準的な技術として、世界中に普及した。なぜこのような結果になったのか。その理由は三つの点に集約できる。第一に、「シンプルさの力」である。ソフトウェア開発の世界では、一つのことをうまくやる、という哲学が重要視されることがある。RSSは「更新情報の配信」という一つの課題に焦点を絞り、それを最も簡単な方法で解決した。対照的に、ICEはあまりに多くの問題を一度に解決しようとしたため、誰もが気軽に使える技術にはなれなかった。第二に、「時代のニーズとの合致」である。2000年代初頭は、個人が手軽に情報発信できる「ブログ」が爆発的に普及した時代だった。多くのブロガーは自分の記事が更新されたことを読者に知らせたいと考え、読者は好きなブログの更新を効率的にチェックしたいと考えていた。RSSは、この個人の情報発信・受信という巨大なニーズに完璧に適合した。ICEが想定していた企業間のコンテンツ取引という市場は、当時はまだ限定的だった。第三に、「オープンなエコシステムの形成」である。RSSは特定の企業によって厳格に管理されることなく、オープンな規格として発展した。これにより、世界中の開発者が自由にRSSに関連するツールやサービスを開発し、その結果、RSSを利用するユーザーがさらに増えるという好循環が生まれた。特定の企業が主導するトップダウンの技術よりも、コミュニティが支えるボトムアップの技術が勝った典型的な例と言える。

このRSSとICEの物語は、システムエンジニアを目指す者にとって示唆に富んでいる。優れた技術とは、単に機能が豊富で高性能なものを指すのではない。それが解決しようとしている課題が明確であり、開発者にとって導入しやすく、そして利用者のニーズに合致しているかどうかが、その技術が広く受け入れられるための鍵となる。複雑な問題を解決するために、必ずしも複雑な解決策が必要なわけではない。時には、最もシンプルで直接的なアプローチこそが、最も強力な解決策となり得るのである。

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