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【ITニュース解説】J-Link RTT for the Masses using Semihosting on ARM

2025年09月15日に「Hacker News」が公開したITニュース「J-Link RTT for the Masses using Semihosting on ARM」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

ARM組み込みシステム開発向けに、J-Link RTTとSemihostingを組み合わせ、プログラムのリアルタイム情報出力やデバッグを効率化する方法を解説。これにより、PCとの連携で開発中の挙動把握が容易になり、多くのエンジニアが手軽に利用できる。

ITニュース解説

システムエンジニアを目指す初心者が組み込みシステム開発の世界に足を踏み入れる際、必ず直面するのが「デバッグ」という作業である。デバッグとは、作成したプログラムが意図通りに動作しない場合に、その原因を見つけ出して修正する工程を指す。特に、冷蔵庫や洗濯機、自動車の制御装置など、特定の目的のために設計された小さなコンピュータである「マイクロコントローラ」を用いた組み込み開発では、パソコンのような豊富なリソースや多機能なOSがないため、デバッグはより一層工夫が必要となる。

プログラムのデバッグにおいて、非常に重要な役割を果たすのが「ログ出力」である。ログ出力とは、プログラムの実行中に特定の情報(変数の値、処理の経過、エラーメッセージなど)を外部に出力することだ。このログを見ることで、開発者はプログラムの内部で何が起きているのかを把握し、問題の原因を特定する手がかりを得る。従来の組み込み開発におけるログ出力にはいくつかの課題があった。例えば、UART(Universal Asynchronous Receiver-Transmitter)と呼ばれるシリアル通信を使って、マイクロコントローラからパソコンへ文字を送る方法が一般的だ。しかし、この方法は通信速度が比較的遅く、大量のログを出力するとプログラムの実行が中断されたり、処理時間が大幅に伸びたりする可能性がある。また、通信設定の手間や、ログを受信するPC側の準備も必要となる。さらに、フラッシュメモリにログを書き込む方法もあるが、書き込み速度の遅さやメモリの書き換え回数に制限があるという制約も存在する。

これらの課題を解決するために登場した強力なツールの一つが、「J-Link RTT(Real-Time Transfer)」である。J-Link RTTは、組み込みシステムのデバッグプローブとして広く使われているSEGGER社のJ-Linkと連携して動作する機能だ。この技術の最大の特徴は、ターゲットとなるマイクロコントローラにほとんど負荷をかけずに、非常に高速にログデータをホスト側のパソコンへ転送できる点にある。J-Linkデバッガは、ターゲットのマイクロコントローラに接続され、CPUのデバッグインターフェースを介してメモリ内の特定の領域(RTTバッファと呼ばれる)から直接データを読み出す。これにより、マイクロコントローラはデータの送信のために特別な通信処理を行う必要がなくなり、その分のCPUリソースを本来の処理に専念させることができる。結果として、プログラムの実行にほとんど影響を与えず、リアルタイムに近い形で大量のログ情報を取得することが可能になる。これは、時間的な制約が厳しいリアルタイムシステムや、大量のデータ処理を行うアプリケーションの開発において、非常に大きなメリットとなる。

しかし、J-Link RTTを最大限に活用するには、通常、SEGGERが提供する特定のライブラリやツールチェーンを使用することが推奨される。オープンソースのツールチェーン、例えばGNU ARM Embedded Toolchainなどを使っている開発者にとっては、これらの専用ライブラリを組み込むのが難しい場合や、別の方法を模索したいと考える場面がある。そこで今回の記事が注目する技術が、「Semihosting」を応用してJ-Link RTTのような高速ログ出力を実現する方法である。

Semihostingとは、ARMアーキテクチャのデバッグ機能の一つで、ターゲットとなるマイクロコントローラ上で動作するプログラムが、デバッガを通じてホスト側のパソコンの機能(例えば、ファイルの読み書きやコンソールへの出力など)を利用できるようにするための仕組みである。これは、特定の「SVC(Supervisor Call)」命令と呼ばれる特殊な命令を使用することで実現される。通常、Semihostingはデバッグ目的で非常に便利だが、ホストとのやり取りが発生するため、処理速度が遅いという欠点がある。そのため、製品版のコードには組み込まれないことが多い。

今回の記事の核心は、このSemihostingの仕組みを「J-Link RTTの高速ログ出力」に応用することにある。具体的には、通常SemihostingがホストPCへのデータ転送に使用するSVC命令をフックし、その命令が呼び出された際に、本来の遅いホスト通信処理を行う代わりに、J-Link RTTのバッファに直接ログデータを書き込むように改造する。つまり、Semihostingの呼び出し規約を利用しながらも、そのデータの最終的な転送先をホストPCのファイルシステムやコンソールではなく、J-Link RTTが監視しているメモリ上のバッファに変更するわけだ。

このアプローチの最大の利点は、オープンソースのツールチェーンを使用している場合でも、手軽にJ-Link RTTの高速性を享受できる点にある。開発者は、特別なRTTライブラリを組み込む手間を省きながら、既存のSemihosting用のコード(例えばprintf関数など)をほぼそのまま利用して、非常に効率的なログ出力を実現できる。これにより、従来のUART出力のような速度制約やリソース消費を気にすることなく、より多くのデバッグ情報を、より速く、より簡単に取得できるようになる。組み込みシステム開発において、デバッグ情報の取得は開発期間を短縮し、品質を向上させる上で極めて重要であるため、この技術はシステムエンジニアを目指す初心者にとっても非常に価値のある知識となるだろう。マイクロコントローラの限られた環境下で、いかに効率よく問題を解決するかという視点は、今後の技術者にとって不可欠なスキルとなる。

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