【ITニュース解説】Modern Exploit Development with ROP (Return Oriented Programming

2025年09月08日に「Medium」が公開したITニュース「Modern Exploit Development with ROP (Return Oriented Programming」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

メモリ攻撃を防ぐDEPなどのセキュリティ技術が進む中、ROP (Return Oriented Programming) は、プログラム内の既存コードを悪用し、防御策をすり抜ける現代の攻撃手法だ。

ITニュース解説

コンピュータのメモリは、プログラムが実行される命令と、その命令が扱うデータが格納される場所だ。古くから、このメモリの特性を悪用し、悪意のあるプログラムコードを送り込んで実行させる「メモリベースの攻撃」という手法が存在した。例えば、プログラムがデータを保存するために確保した領域よりも多くのデータを送り込むことで、メモリ上の別の場所にまでデータがデータが溢れ出し、本来意図しないコードが実行されてしまう「スタックオーバーフロー」などがその典型的な例である。これにより、攻撃者はメモリに不正なコードを書き込み、それを実行させることでシステムを乗っ取ろうとした。

このようなメモリベースの攻撃を防ぐため、セキュリティ技術は進化を遂げてきた。その代表的な防御機構として、DEP(Data Execution Prevention)とASLR(Address Space Layout Randomization)という二つが挙げられる。

DEPは、簡単に言えば「データとして扱うべきメモリ領域からは、プログラムの命令を実行させない」という仕組みだ。コンピュータのメモリは、実行されるプログラムの命令コードを格納する場所と、その命令が処理するデータを格納する場所に明確に区切られている。DEPが有効になっている場合、たとえ攻撃者がデータ領域に悪意のあるコードを送り込んだとしても、そこが「データ領域」としてマークされている限り、CPUはその内容を命令として実行しようとしない。これにより、従来のスタックオーバーフロー攻撃のように、送り込んだ悪意のあるコードをデータ領域から直接実行させる手法は非常に困難になった。

次にASLRは、「メモリ上の重要な場所のアドレスを、プログラムが起動するたびにランダムに配置する」という仕組みだ。通常、プログラムがメモリ上のどこに配置されるか、どのシステムライブラリがどこにロードされるかといった情報は固定的な場合が多かった。しかし、ASLRが有効になると、これらのアドレスはプログラムが起動するたびに、あるいは再起動するたびに異なる位置にランダムに配置される。攻撃者は悪意のあるコードを実行させるために、特定の命令やデータがメモリ上のどこにあるのかを知る必要があるが、ASLRはこの「どこにあるのか」という情報を予測不可能にすることで、攻撃者が狙いを定めることを極めて難しくした。これにより、特定のメモリ位置を直接指定して攻撃する手法は効果を失った。

DEPとASLRは、メモリベースの攻撃に対する強力な盾として機能し、多くのシステムを保護してきた。しかし、攻撃者は常に新たな手法を模索し続ける。そこで登場したのが、ROP(Return Oriented Programming)という攻撃手法である。ROPは、DEPとASLRという現代的な防御機構を巧妙にすり抜け、現代のシステムにおいても悪意のある操作を可能にするための技術として注目されている。

ROPは、悪意のあるプログラムコードを直接メモリに注入して実行するのではなく、既存のプログラムがもともと持っている正規の命令の断片を組み合わせて、あたかも新しい悪意のプログラムが実行されているかのように見せかける点が特徴だ。これらの命令の断片は「ガジェット」と呼ばれる。ガジェットは通常、短い数行の命令と、最後にret(リターン)命令で構成される。ret命令は、関数から戻る際に、スタックに保存されている次の実行アドレスを読み取り、そこに制御を移す役割を持つ。

ROP攻撃では、まずスタックオーバーフローのような脆弱性を利用して、プログラムのスタック領域を攻撃者が制御できる状態にする。通常の関数呼び出しでは、関数から戻るべき次の命令のアドレス(戻りアドレス)がスタックに積まれ、関数終了時にそのアドレスに戻る。しかしROPでは、この戻りアドレスを上書きし、攻撃者が指定する最初のガジェットのアドレスに書き換える。最初のガジェットが実行され、その中のret命令が実行されると、スタックの次の位置に書き込まれた、次のガジェットのアドレスへとプログラムの制御が移る。この繰り返しによって、攻撃者はスタック上にガジェットのアドレスを連鎖的に並べ(これをROPチェーンと呼ぶ)、次々とガジェットを実行させることで、任意の複雑な処理を組み立てて実行できる。これはまるで、既存のプログラムの命令をレゴブロックのように組み合わせて、新しい機能を作り出すかのようなイメージだ。

DEPはデータ領域からのコード実行を禁止するが、ROPは既存のプログラムコード、つまり「コード領域」に元から存在している命令の断片を利用する。したがって、ROPが利用するガジェットは、CPUから見れば正規のコードとして扱われるため、DEPの防御機構は発動しない。これが、ROPがDEPを効果的に回避できる理由である。

ASLRについても、ROPは回避策を持っている。ASLRはメモリ上のアドレスをランダム化するが、多くのプログラムには、ASLRによってランダム化されたアドレスの一部を外部に漏らしてしまう「情報漏洩(Information Leak)」の脆弱性が存在する。この情報漏洩は、例えば、プログラムがエラーメッセージの一部としてメモリ上の特定のアドレス情報を含んでしまったり、未初期化のメモリ内容を外部に公開してしまったりする形で発生する。攻撃者はこの情報漏洩を利用して、実行中のシステムのメモリレイアウトの一部を推測する。例えば、あるシステムライブラリのベースアドレス(開始アドレス)が何らかの形で攻撃者に知られてしまったとする。そのライブラリの中にROPで利用できるガジェットが存在する場合、ライブラリ内のガジェットのアドレスはベースアドレスからの相対的なオフセットで決まっているため、攻撃者はそのベースアドレスから計算することで、必要なガジェットの絶対アドレスを特定できる。一度、システム内のどこか一つのモジュールのアドレスが判明すれば、その後のROPチェーンの構築が可能になるわけだ。

ROPチェーンを構築するためには、標的となるプログラムやライブラリの中から、目的の処理を実現するための適切なガジェットを一つ一つ見つけ出し、それらを正しい順序で連結する必要がある。これは非常に高度な技術と、システムの内部構造に関する深い理解を要する作業だ。しかし、この複雑さを乗り越えることができれば、DEPやASLRといった現代的な防御機構が導入された環境下でも、攻撃者はシステムを乗っ取ることが可能になる。

したがって、ROPは、現代のソフトウェアセキュリティにおいて、攻撃と防御の両面から理解しておくべき非常に重要な概念である。システムエンジニアを目指す者としては、このような高度な攻撃手法が存在することを認識し、自身の開発するシステムがいかにしてこのような攻撃から身を守るべきかを常に考える必要がある。メモリの安全性、情報漏洩のリスク、そして既存のコードを悪用される可能性など、多角的な視点からセキュリティを考慮することが、安全なシステムを構築するための第一歩となる。単に機能を実現するだけでなく、その機能がどのような脆弱性を持ちうるか、どのような攻撃にさらされる可能性があるかを深く理解することが、現代のシステム開発には不可欠だ。

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