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【ITニュース解説】Splitting a Monolith Sounds Cool — Until You Try It

2025年09月14日に「Medium」が公開したITニュース「Splitting a Monolith Sounds Cool — Until You Try It」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

巨大なシステム「モノリス」を小さなサービスに分割する作業は、現代的な開発手法として魅力的だ。しかし、実際にシステムを分割する作業は複雑で、多くの課題を伴うため、想像以上に難しい。事前の計画と深い理解が成功の鍵となる。

ITニュース解説

システム開発における初期段階では、多くの機能を一つの大きなプログラムとして構築することが一般的である。これを「モノリシックアーキテクチャ」、あるいは単に「モノリス」と呼ぶ。モノリスは、全ての機能が密接に結合され、一つの実行ファイルやアプリケーションとして動作する。例えば、ユーザー管理、商品管理、注文処理といった異なる機能が、全て同じコードベースの中に存在し、同じプロセスで動く状態である。開発の初期段階では、構造がシンプルで理解しやすく、開発チームも小さければ連携が取りやすいため、開発効率が良いというメリットがある。また、デプロイ(システムを実際に動かす環境に配置すること)も、一つの塊を配置するだけで済むため、比較的容易である。

しかし、システムが成長し、機能が増え、ユーザー数が増加するにつれて、モノリスは様々な課題に直面する。まず、コードベースが非常に大きくなるため、特定の機能に修正を加える際、意図しない場所で問題が発生するリスクが高まる。これにより、開発の速度が低下し、バグの発生リスクも増加する。また、特定の機能だけ高いパフォーマンスが必要な場合でも、モノリスではシステム全体をスケールアップ(性能を向上させること)するしかなく、リソースの無駄が生じやすい。例えば、Webサイトで商品検索機能だけが頻繁に使われるとしても、その機能だけを強化することは難しく、Webサイト全体を強化する必要がある。さらに、新しい技術やプログラミング言語を導入しようとしても、既存の巨大なコードベースとの整合性を保つことが難しく、技術的な刷新が困難になるという問題がある。大規模な開発チームでは、多くのエンジニアが同じコードベースにアクセスするため、コードの競合やマージ(変更を統合すること)の複雑さが増し、開発プロセスが非効率になることも珍しくない。

このようなモノリスの課題を解決する手段として、「マイクロサービスアーキテクチャ」という考え方が注目を集めるようになった。マイクロサービスアーキテクチャでは、システムを小さく独立したサービスに分割する。各サービスは、特定のビジネス機能に特化し、それぞれが独立して開発、デプロイ、そしてスケールできる。例えば、先ほどの例で言えば、ユーザー管理サービス、商品管理サービス、注文処理サービスがそれぞれ独立したプログラムとして動作し、互いに通信しながら連携する形になる。この分割によって、各サービスは特定の技術スタック(プログラミング言語、フレームワーク、データベースなど)を選択できる柔軟性を持ち、開発チームもサービスごとに独立して開発を進められる。これにより、開発速度の向上、障害発生時の影響範囲の限定(一つのサービスが停止しても、他のサービスは動き続ける)、特定の機能のみを効率的にスケールできるといった、多くのメリットが期待される。

モノリスからマイクロサービスへの移行、つまり「モノリス分割」は、こうした魅力的なメリットから、多くのエンジニアにとって非常に魅力的な目標として映る。システムをより現代的で、柔軟で、スケーラブルな形に変革することは、エンジニアリングの観点から「かっこいい」挑戦のように聞こえる。

しかし、このモノリス分割は、言葉で語るほど単純なものではなく、実際に試みると非常に困難な挑戦であることが明らかになる。記事のタイトルが示唆するように、「やってみなければ分からない」落とし穴が数多く存在するのだ。

最大の困難の一つは、システムの複雑性の増加である。モノリスでは単一のプロセスで完結していた処理が、マイクロサービスでは複数のサービス間の通信を介して行われるようになる。これにより、データの整合性をどのように保つか、サービス間でどのように安全かつ効率的に通信を行うか(例えば、APIの設計、メッセージキューの利用など)、分散トランザクションをどのように扱うかといった、新たな種類の複雑性が生まれる。一つの処理が複数のサービスをまたがるため、どこかで問題が発生した場合の原因特定やデバッグも格段に難しくなる。

移行戦略の策定と実行も大きな壁となる。既存のモノリスを一度に全てマイクロサービスに書き換える「ビッグバンリライト」は、膨大な時間とコストがかかり、失敗のリスクが非常に高いため、現実的な選択肢ではないことが多い。代わりに、既存のコードベースを少しずつ改善していく「リファクタリング」や、「ストラングラーパターン」と呼ばれる手法が用いられる。ストラングラーパターンでは、新しいマイクロサービスを既存のモノリスの周りに構築し、徐々にモノリスの機能を置き換えていくことで、リスクを抑えながら移行を進める。しかし、どの部分から分割を始めるか、どのようにサービス境界を適切に定義するか、既存のモノリスとの並行稼働をどう管理するかなど、多くの戦略的な判断が必要となる。サービス境界の定義を誤ると、結局はモノリスと同じような密結合なシステムになってしまい、分割のメリットを享受できないばかりか、複雑性だけが増してしまうことになる。

データの分割と管理も非常に困難な課題である。モノリスでは一般的に一つの大きなデータベースを共有しているが、マイクロサービスでは各サービスが自身のデータストアを持つことが理想的とされる。これは、サービス間の独立性を高め、特定のデータベース技術に依存しない柔軟性をもたらすためである。しかし、モノリスからデータを切り離し、複数のデータベースに分散させる作業は、データの整合性を損なわずに進める必要があり、極めて繊細な作業となる。例えば、顧客情報と注文情報が密接に関連している場合、それらを異なるデータベースに分割した上で、両者の整合性を常に保つ仕組みを構築しなければならない。

さらに、運用・監視の複雑化も顕著である。モノリスであれば、一つのアプリケーションのログやメトリクスを監視すればよかったが、マイクロサービスでは数百、数千もの独立したサービスを監視し、それぞれの健康状態を把握する必要がある。障害が発生した場合、どのサービスで何が起きているのかを迅速に特定し、復旧させるための高度なツールと体制が求められる。サービス間の通信が増えることで、ネットワークの遅延や障害のリスクも高まるため、それらを考慮した堅牢なインフラ設計も不可欠である。

組織的な課題も無視できない。モノリス中心の開発では、一つのチームが全体を担当することが多いが、マイクロサービスではサービスごとに独立したチームを編成するのが一般的である。これにより、チーム間のコミュニケーションや連携の方法が変わり、新しいスキル(分散システム設計、コンテナ技術、オーケストレーションなど)の習得も必要となる。

結局のところ、モノリス分割は、単に技術的な課題だけでなく、組織の文化、開発プロセス、運用の全てに影響を及ぼす大規模な変革である。安易に「マイクロサービスが流行っているから」という理由だけで分割に着手すると、かえってシステムの開発効率や保守性を低下させ、組織に大きな負担をかける結果になりかねない。本当に分割が必要か、そのメリットが移行にかかる莫大なコストとリスクを上回るのかを慎重に評価し、段階的かつ計画的に進めることが成功の鍵となる。この一連の経験を通じて、分散システムの設計原則、運用上の課題、そして複雑なシステムを段階的に改善していくための戦略について、エンジニアは深い理解と貴重な知見を得ることになる。だからこそ、モノリス分割は多くのエンジニアにとって、苦難を乗り越えることで成長を促す「通過儀礼」のようなものだと考えられているのである。

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