【ITニュース解説】Python has had async for 10 years – why isn't it more popular?

2025年09月03日に「Hacker News」が公開したITニュース「Python has had async for 10 years – why isn't it more popular?」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Pythonの非同期(async)は通信等の待ち時間に他の処理を進める強力な機能。しかし、概念や書き方が難しく、既存ライブラリとの連携も複雑なため、10年経っても広く使われていない。特定の用途では有効だが、導入には学習コストが伴う。

ITニュース解説

Pythonには、プログラムの処理を効率化するための「非同期処理」という機能が10年以上前から存在している。これは特にネットワーク通信などを多用するプログラムにおいて、性能を劇的に向上させる可能性を秘めているが、スレッドやマルチプロセスといった他の並行処理技術に比べて、その普及は限定的である。この背景には、非同期処理が持つ特有の複雑さや課題が存在する。

まず、非同期処理の基本的な考え方を理解する必要がある。一般的なプログラムは「同期処理」で書かれており、これは一つの命令が終わるまで次の命令の実行を待つという、直線的な処理方式である。一方、「非同期処理」は、ある処理が完了するのを待っている時間、例えばネットワークの応答待ちやファイルの読み書き待ちといったCPUが待機状態になる時間(I/Oバウンドな時間)を有効活用し、その間に別の処理を進める仕組みである。これにより、プログラム全体としてのスループットを向上させることができる。Pythonでは、この非同期処理をasyncawaitという専用のキーワードを用いて記述する。この構文の導入により、非同期コードは見た目上、同期コードに近い形で書けるようになり、可読性は向上した。また、PythonにはGIL(グローバルインタプリタロック)という、一度に一つのスレッドしかPythonのバイトコードを実行できないという制約があるが、非同期処理は単一スレッド内でタスクを切り替えるため、このGILの影響を受けにくいという大きな利点がある。

しかし、このような利点がありながらも普及が進まない第一の理由は、学習コストの高さである。非同期プログラミングは、従来の同期的な考え方とは根本的に異なる。「イベントループ」がタスクを管理し、「コルーチン」と呼ばれる中断・再開可能な関数を実行するという、新たな概念をいくつも理解しなければならない。これらの概念は初心者にとって直感的ではなく、習得するには相応の努力が求められる。

第二に、「色付き関数」問題と呼ばれる構造的な制約がある。asyncキーワードを付けて定義された非同期関数は、awaitキーワードを使って呼び出す必要がある。そして、このawaitは非同期関数の中でしか使用できない。つまり、一度でも非同期関数を利用すると、その呼び出し元も非同期関数でなければならず、この制約がプログラム全体に連鎖していく。これにより、プログラムの設計段階で同期的に書くか、非同期的に書くかという大きな選択を迫られることになり、既存の同期的なコードベースに非同期処理を部分的に導入することが非常に困難になる。

第三の課題は、ライブラリのエコシステムが分断されている点だ。Pythonの豊富なライブラリの多くは、同期処理を前提として作られている。非同期プログラムの中からこれらの同期ライブラリをそのまま呼び出すと、処理がブロックされてしまい、非同期処理のメリットである「待ち時間の有効活用」ができなくなってしまう。そのため、HTTP通信やデータベース接続など、I/O処理を行うライブラリは非同期専用のものが別途必要となる。この非同期対応ライブラリのエコシステムは、同期ライブラリに比べてまだ成熟しておらず、選択肢が限られる場合がある。さらに、非同期処理を実行する基盤(ランタイム)にも、標準のasyncio以外にTrioなどの選択肢があり、ライブラリが特定のランタイムに依存していると互換性の問題が生じることもある。

第四に、デバッグの難しさも障壁となっている。非同期プログラムでエラーが発生した際に出力されるスタックトレースは、イベントループ内の様々なタスクの状態が入り混じり、非常に長く複雑になりがちである。そのため、エラーの根本的な原因がどこにあるのかを特定するのが、同期プログラムに比べて格段に難しくなる。

これらの理由から、Pythonの非同期処理は、その性能上の利点にもかかわらず、誰でも気軽に使える技術とはなっていない。しかし、FastAPIのような最新のWebフレームワークなど、大量のネットワークリクエストを効率的に捌くことが求められる特定の分野では、その採用が積極的に進んでいるのも事実である。したがって、非同期処理は万能薬ではなく、その特性と課題を正しく理解し、プロジェクトの要件に合致する場合に選択すべき強力なツールであると言える。