【ITニュース解説】We Rarely Lose Technology (2023)

技術は常に進化し、新しいものが次々と生まれている。この様子を見ていると、古い技術は新しい技術に取って代わられ、やがて消えていくものだと考えがちである。しかし、実際には人類が一度獲得した技術が完全に失われることは極めて稀である。技術は失われるのではなく、層のように積み重なり、社会の中に存在し続けるという性質を持っている。

歴史上、「失われた技術」と呼ばれるものがいくつか存在する。例えば、古代の驚異的な建造技術や、特定の武器の製法などが挙げられる。だが、これらの多くは本当に「失われた」わけではない。多くの場合、その技術は意ితో的に秘匿されたり、社会の変化やコストの問題から使われなくなったり、あるいは、より効率的で優れた代替技術が登場したために表舞台から姿を消したに過ぎない。つまり、技術そのものが消滅したのではなく、特定の時代や状況において、その技術が選ばれなくなったというのが実情である。技術の喪失が起こるのは、社会全体が崩壊し、知識を伝達する仕組みそのものが機能しなくなるような、非常に例外的な状況に限られる。

特に現代社会においては、技術が失われる可能性は過去と比較して格段に低くなっている。その最大の理由は、情報を記録し、伝達する手段が飛躍的に進歩したことにある。インターネットを通じて、世界中の誰もが瞬時に情報へアクセスできるようになった。書籍、論文、設計図といった情報はデジタル化され、複数の場所に複製して保存されている。これにより、特定の地域や集団が知識を失ったとしても、他の場所でその知識が生き残り、再発見される可能性が非常に高い。また、ソフトウェアの世界ではオープンソースという文化が根付いている。これは、プログラムの設計図であるソースコードを広く一般に公開する考え方であり、特定の企業や個人に知識が独占されることを防ぎ、技術が永続的に利用可能であり続けるための強力な仕組みとなっている。

この「技術は失われにくい」という原則は、IT業界においても明確に見ることができる。例えば、COBOLというプログラミング言語は1959年に開発された非常に古い言語だが、今なお世界中の金融機関や政府機関の基幹システムで現役として稼働している。新しい言語が次々と登場する中でCOBOLが使われ続けているのは、これらのシステムが社会の根幹を支えており、極めて高い信頼性と安定性が求められるからである。長年の稼働実績があるシステムを、莫大なコストとリスクをかけて新しい技術で作り直すよりも、既存のシステムを維持し続ける方が合理的だと判断されているのだ。また、物理的なサーバーを自社で管理するオンプレミスという形態も、クラウドコンピューティングが主流となった今でもなくならない。高いセキュリティや特定の法規制への準拠が求められる場面では、オンプレミスが最適な選択肢となることがある。このように、新しい技術が古い技術を完全に置き換えるのではなく、それぞれの長所を活かし、適材適所で共存するのが現実である。

システムエンジニアを目指す者にとって、この事実は重要な示唆を与えてくれる。最新の技術トレンドを追いかけ、新しいスキルを習得することはもちろん重要である。しかし、それと同時に、なぜ古い技術が今も使われ続けているのか、その背景にある理由を理解することも極めて大切である。社会を支える多くのシステムは、長年使われてきた枯れた技術の上に成り立っており、その保守や運用はエンジニアの重要な責務の一つとなる。このようなレガシーシステムを扱う仕事は、一見すると地味に思えるかもしれないが、システムの安定稼働を支えるための深い知識と経験が求められる専門性の高い領域である。技術を選定する際には、単に新しいか古いかという一面的な基準で判断するのではなく、その技術が持つ特性、コスト、安定性、そして将来性などを総合的に評価し、課題解決に最も適したものを選択する能力がエンジニアには求められる。

技術の歴史は、上書き保存されるファイルではなく、次々と追記されていくログファイルのようなものである。一度社会に根付いた技術や知識は、たとえ主流でなくなったとしても、何らかの形でその価値を保ち、必要とされる場面で利用され続ける。新しい技術は、過去の技術という土台の上に築かれる。これからITの世界で活躍する人々は、技術が持つこの累積的な性質を理解することで、表面的な流行に惑わされることなく、より長期的で本質的な視点からシステムや社会の仕組みを捉えることができるようになるだろう。