【ITニュース解説】Zero Documentation Living Code
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「Zero Documentation Living Code」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
古くなりやすいドキュメント作成をやめ、コード自体をドキュメントとする「Living Code」を提唱。分かりやすい命名やシンプルなロジックでコードの可読性を高め、Gitの変更履歴を活用する。これにより、ドキュメントは常に最新に保たれ、保守の手間も削減できる。
ITニュース解説
ソフトウェア開発の世界では、コードの仕様や使い方を説明するドキュメントの作成が不可欠とされてきた。しかし、このドキュメントには常に一つの大きな課題がつきまとう。それは、時間とともに内容が古くなり、実際のコードと一致しなくなってしまうという問題である。コードは日々修正され機能が追加されていくが、その変更にドキュメントの更新が追いつかず、やがて誰も信頼しない形骸化した情報となってしまう。この問題を解決するために提唱されているのが、「ゼロ・ドキュメンテーション」、すなわち「リビングコード(生きているコード)」という考え方だ。これは、ドキュメントを別に作成するのではなく、コードそのものがドキュメントとして機能することを目指すアプローチである。
従来の開発プロジェクトでは、プロジェクトの概要を記したREADMEファイル、APIの仕様書、環境構築の手順書など、様々なドキュメントが作成されるのが一般的であった。これらのドキュメントは、プロジェクトに参加したばかりの開発者が概要を把握するためには役立つ。しかし、開発が進むにつれてコードの仕様が変更されると、関連するすべてのドキュメントを手動で修正する必要が生じる。この作業は非常に手間がかかり、開発者の負担となる。結果としてドキュメントの更新は後回しにされがちで、コードとドキュメントの間にズレが生まれる。このズレは、誤った情報を開発者に与え、バグの原因になったり、開発の効率を著しく低下させたりする。
リビングコードの哲学では、このような静的なドキュメントへの依存から脱却し、コード自体を唯一の信頼できる情報源と位置づける。これを実現するための最も基本的な実践方法が、「自己文書化コード」を書くことである。自己文書化コードとは、その名の通り、コード自体がその機能や意図を説明しているような、可読性の高いコードのことを指す。例えば、processData のような曖昧な関数名ではなく、fetchUserById のように、具体的な処理内容がわかる名前をつける。引数名も id だけでなく userId とすることで、何を表すIDなのかが一目瞭然となる。また、一つの関数に多くの機能を持たせるのではなく、一つの役割に特化した小さな関数に分割することも重要である。これにより、各関数のロジックが単純明快になり、他の開発者がコードを読んだだけでその動作を容易に理解できるようになる。処理の流れを説明するための詳細なコメントを書く代わりに、コードの構造そのものを分かりやすくすることで、コメントがなくても意図が伝わる状態を目指すのだ。
コードが「何を」しているかは自己文書化コードで表現できるが、「なぜ」そのような変更が加えられたのかという背景や文脈を伝えることも同様に重要である。この役割を担うのが、バージョン管理システムであるGitのコミット履歴だ。一つ一つのコミットに、「バグ修正:ユーザーIDが空の場合にクラッシュする問題を修正」や「機能追加:CSVエクスポート機能を追加」といった具体的なメッセージを記述する。さらに、なぜその修正や追加が必要になったのか、どのような課題を解決しようとしたのかといった背景情報を含めることで、コミット履歴そのものがプロジェクトの変遷を物語るドキュメントとなる。git log コマンドを実行すれば、コードがどのような経緯で現在の形になったのかを時系列で追跡できる。これは、特定時点の情報を切り取った静的なドキュメントでは決して得られない、動的で価値のある情報源だ。
リビングコードのアプローチでは、開発者が新しいツールやライブラリの使い方を学ぶ方法も変わる。従来のように分厚いマニュアルを読むのではなく、実際のコードがどのように使われているかを発見することに重きを置く。例えば、記事で紹介されているcultureのような専用ツールを使えば、プロジェクト内で特定の関数やコンポーネントが実際にどのように呼び出されているか、最近どのような変更が加えられたかを即座に調べることができる。これにより、開発者は机上の理論ではなく、生きた実例から直接学ぶことが可能となる。これは、師匠の仕事を見て弟子が技術を習得していくプロセスに似ている。コードが師匠となり、開発者はその弟子として、コードを読み、その動きを体験することを通じて理解を深めていくのだ。
この「ゼロ・ドキュメンテーション」というアプローチは、開発プロセスに多くのメリットをもたらす。まず、コードが常にドキュメントであるため、情報が古くなるという問題が起こらない。情報源がコードに一本化されるため、開発者は複数のドキュメントを参照して混乱することがなくなる。そして何より、ドキュメントを作成し、維持するために費やしていた膨大な時間と労力を削減し、そのリソースをコードの品質向上という本質的な活動に集中させることができる。新しいメンバーがプロジェクトに参加した際も、理論的なドキュメントを読み解くよりも、実際のコードとその歴史から学ぶ方が、はるかに早く、そして深くプロジェクトを理解できるだろう。結論として、「ゼロ・ドキュメンテーション」とは、単にドキュメント作成を放棄することではない。それは、ドキュメントがなくても誰もが理解できるほどに、明快で質の高いコードを書くことを目指すという、より高度な目標を掲げた開発哲学である。システムエンジニアを目指す者にとって、読みやすく、意図が伝わるコードを書く技術は不可欠であり、この考え方はそのための優れた指針となるだろう。