双方向通信 (ソウホウコウツウシン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
双方向通信 (ソウホウコウツウシン) の読み方
日本語表記
双方向通信 (ソウホウコウツウシン)
英語表記
Bi-directional communication (バイディレクショナル・コミュニケーション)
双方向通信 (ソウホウコウツウシン) の意味や用語解説
双方向通信とは、データが二つの通信主体間を行き来する、すなわち送信と受信の両方向でデータのやり取りが行われる通信方式の総称である。これは、データが一方向のみに流れる片方向通信と対比される概念であり、現代のあらゆる情報システムにおいて不可欠な基盤となっている。例えば、Webブラウザがサーバーから情報を取得し、同時にユーザーの入力データをサーバーへ送信する、スマートフォンがクラウドサービスと情報を同期する、あるいはオンラインゲームで複数のプレイヤーがリアルタイムに操作情報を交換するといった場面はすべて双方向通信によって成り立っている。この通信方式は、システムの対話性や応答性を飛躍的に高め、ユーザーエクスペリエンスやシステム運用の効率性を向上させる上で決定的な役割を担っている。 双方向通信は、さらにその実現方法によって「半二重通信(ハーフデュプレックス)」と「全二重通信(フルデュプレックス)」に分類される。これらを理解するには、まず基本的な通信の方向性について把握する必要がある。 片方向通信、または単方向通信(シンプレックス)は、データが常に一方向へしか流れない方式である。ラジオ放送やテレビ放送がその代表例であり、放送局から視聴者へ一方的に情報が送られるだけで、視聴者から放送局へ情報を送ることはできない。これは、単純な情報伝達には適しているが、インタラクティブなやり取りは不可能である。 これに対し、双方向通信の一種である半二重通信は、データが両方向に伝送可能であるものの、送信と受信を同時に行うことはできない方式を指す。つまり、ある時点で一方の通信主体がデータを送信している間、もう一方の通信主体はデータを受信することしかできず、送信を開始することはできない。データの送受信は時間的に排他的に行われる。トランシーバーがその典型的な例である。話す人が「どうぞ」と言って送信を終えると、聞く人が送信を開始するといった具合に、交互に通信を行う。コンピュータネットワークにおいては、初期のイーサネットや、ハブを用いたネットワーク環境の一部で採用されていた。半二重通信では、同じ伝送路を共有するため、同時に送信しようとするとデータ衝突(コリジョン)が発生し、通信が中断される可能性がある。このため、衝突を検知し、通信を再試行するメカニズムが必要となる。この方式は、伝送路の設計が比較的単純で済むという利点がある一方で、通信効率やリアルタイム性が犠牲になるという欠点がある。 もう一つの双方向通信である全二重通信は、データが両方向に同時に伝送可能な方式である。これは、送信と受信が完全に独立した経路で行われるか、あるいは異なる周波数帯域を利用するなどして、同時にデータの送受信が行われる。電話での会話がその最も身近な例であり、相手が話している最中でも、自分が同時に話すことが可能である。コンピュータネットワークにおいては、現代のほとんどのイーサネット通信(スイッチを用いた環境)や、モデムを介したインターネット接続などで広く採用されている。全二重通信では、送信と受信が互いに干渉しないため、データ衝突が発生する心配がなく、原理的に通信の効率が大幅に向上する。これにより、高いスループット(単位時間あたりのデータ転送量)が実現され、リアルタイム性が要求されるアプリケーション(ビデオ会議、オンラインゲーム、ライブチャットなど)において不可欠な技術となっている。 システムエンジニアが扱う多くのシステムにおいて、双方向通信、特に全二重通信は基盤技術として機能している。クライアントサーバーモデルにおけるWebアプリケーションでは、クライアントからのリクエスト(送信)とサーバーからのレスポンス(受信)が連続的に行われる。データベース操作では、データの参照(受信)と更新・追加・削除(送信)が頻繁に発生する。IoTデバイスはセンサーデータをサーバーへ送信し(送信)、同時にサーバーからの制御コマンドを受信して(受信)動作する。これら全てにおいて、迅速かつ信頼性の高い双方向のデータ交換が求められる。 技術的には、TCP/IPプロトコルスタックが双方向通信を実現する上で中心的役割を果たす。TCP(Transmission Control Protocol)は、データの信頼性の高い双方向通信路を確立し、データの順序保証や再送制御を行うことで、欠落や破損のないデータ転送を可能にする。アプリケーションは、このTCPの上にソケットと呼ばれる抽象化された通信エンドポイントを介して、データの送受信を行う。API(Application Programming Interface)を介したサービスの利用も、内部ではこの双方向通信の仕組みに依存している。 双方向通信の重要性は、情報システムがより高度化し、リアルタイム性とインタラクティブ性が重視される現代においてますます高まっている。ユーザーがシステムに対して何か働きかけ、その結果がすぐに返ってくるという対話的な体験は、双方向通信なしには実現不可能である。システム全体の応答性、信頼性、そしてユーザーの利便性を向上させるために、双方向通信の原理と種類を理解することは、システムエンジニアを目指す上で極めて重要となる。これは単なるデータ伝送の技術的な側面に留まらず、システム設計の根幹をなす考え方であり、どのようなシステムを構築する上でも常に考慮すべき要素である。