LCR(エルシーアール)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

LCR(エルシーアール)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

最小コストルーティング (サイショウコストルーティング)

英語表記

LCR (エルシーアール)

用語解説

LCRはLeast Cost Routingの略称であり、日本語では「最安経路選択」と訳される。これは、通信を行う際に、複数の利用可能な経路の中から最も料金が安価なものを自動的に選択し、接続するための技術や機能全般を指す。主な目的は通信コストを削減することにあり、特に企業などの組織において、電話料金やデータ通信費を最適化するために広く利用されてきた。利用者は通信先や利用する回線を意識することなく、システムが自動的に最も経済的なルートを選んでくれるため、コスト削減と利便性の向上を両立させることができる。この概念は、主に電話網の世界で発展してきたが、IPネットワークやデータ通信の分野でも同様の考え方が応用されている。

LCRの仕組みをより詳細に解説する。LCRを実現する装置、例えば企業の構内交換機であるPBXや、ネットワークを中継するルーターなどには、宛先情報とそれに対応する通信経路、そして各経路の料金情報が設定されたテーブルが保持されている。ユーザーが電話を発信したり、データを送信したりすると、装置はまずその宛先情報を参照する。例えば、電話であれば相手先の電話番号、データ通信であれば宛先のIPアドレスなどが該当する。次に、装置はその宛先情報と内部の料金テーブルを照合し、利用可能な複数の通信経路のうち、どれを使えば最もコストが低く抑えられるかを判断する。この判断基準には、単純な通信単価だけでなく、時間帯や曜日によって変動する料金プラン(例:平日の昼間、夜間、休日料金など)も考慮されることが一般的である。最も安価な経路が特定されると、装置は自動的にその経路を選択して通信を接続する。例えば、あるオフィスから携帯電話へ発信するケースを考える。このオフィスが、従来の固定電話回線と、より安価なIP電話回線の両方を契約しているとする。LCR機能を持つPBXは、発信先の番号が携帯電話であることを識別すると、あらかじめ設定された料金情報に基づき、固定電話回線経由よりもIP電話回線経由の方が安価であると判断し、自動的にIP電話回線を選択して発信する。これにより、利用者は特別な操作をすることなく、通話料金を節約できる。

LCRは、特に電話網の分野でACR(Automatic Carrier Routing)やARS(Automatic Route Selection)といった名称で呼ばれる機能として実装されてきた。これらは、複数の通信事業者(キャリア)の中から、発信先の番号や時間帯に応じて最も料金の安い事業者の回線を自動的に選択する機能であり、LCRの具体的な実現方法の一つである。かつては、特定の番号を電話番号の先頭に付加することで割安な通信事業者を選択するサービスが存在したが、LCR機能はこれを自動化し、利用者の手間を省く役割を果たした。近年では、従来の電話網とIP電話網を連携させるVoIPゲートウェイやIP-PBXにおいてもLCRは重要な機能となっている。これにより、社内間の通話は無料のIP網を使い、社外への通話は宛先に応じて最も安価な公衆回線を選択するといった、より柔軟なコスト管理が可能になる。

データ通信の領域においても、LCRの概念は応用されている。複数のインターネット回線(ISP)を契約している企業が、通信のトラフィックに応じて最適な回線を使い分ける場合などがこれにあたる。ただし、データ通信における経路選択は、コストだけでなく、通信速度、遅延時間、信頼性、セキュリティといった多様な要素を総合的に評価して行われることが多い。そのため、単純なコスト最小化を意味するLCRという言葉よりも、より広範なポリシーに基づいて経路を制御するポリシーベースルーティングといった用語が使われる。また、近年のSD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)技術では、アプリケーションの種類を識別し、例えば基幹業務の通信は高品質な専用線へ、Web会議の通信は低遅延なインターネット回線へ、といったように、トラフィックの特性に応じて最適な経路を動的かつ自動的に振り分ける。これも、通信の費用対効果を最大化するという点で、LCRの思想を発展させた技術と捉えることができる。

LCRを導入する最大のメリットは、言うまでもなく通信コストの大幅な削減である。しかし、いくつかの注意点も存在する。第一に、設定と維持管理の複雑さである。通信事業者の料金プランは頻繁に変更されるため、LCRが正確に機能するためには、装置内部の料金テーブルを常に最新の状態に保つ必要がある。このメンテナンスを怠ると、もはや最安ではない経路が選択され続け、コスト削減効果が得られなくなる可能性がある。第二に、品質とのトレードオフである。最も安価な経路が、必ずしも最も通信品質が高いとは限らない。特に、安価なIP電話回線やインターネット回線では、音声の遅延や途切れ、データ転送速度の低下といった問題が発生する可能性がある。そのため、コスト削減を追求するあまり、業務に支障をきたすほどの品質低下を招かないよう、コストと品質のバランスを考慮した経路選択ポリシーを設計することが重要となる。システムエンジニアとしては、LCRの仕組みを理解するだけでなく、こうした運用上の課題や品質要件を考慮に入れたシステム設計や設定を行う能力が求められる。

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