MRP(エムアールピー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
MRP(エムアールピー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
資材所要量計画 (シザイショヨウリョウケイカク)
英語表記
MRP (エムアールピー)
用語解説
MRP(資材所要量計画:Material Requirements Planning)とは、製造業において、製品を生産するために必要な資材や部品を、必要な時に、必要な量だけ調達・生産するための計画手法、あるいはその計画を支援する情報システムである。その主要な目的は、在庫の最適化と生産の効率化にあり、具体的には在庫過剰によるコスト増大や、在庫不足による生産ラインの停止といった問題を解決することを目指す。これは現代の生産管理システムの基礎を形成する重要な概念であり、システムエンジニアを目指す者にとって、製造業向けシステムの理解の第一歩となる。
MRPの基本的な思想は、製品の生産計画を基に、それを構成する部品の所要量を逆算していく点にある。この考え方は、独立需要品と従属需要品という二つの需要の性質を理解することから始まる。独立需要品とは、市場の動向などによって直接的に需要が決まる最終製品のような品目を指す。一方、従属需要品とは、独立需要品が生産されることで間接的に需要が決まる、製品を構成する部品や原材料のような品目を指す。MRPは、この従属需要品の管理に特化しており、最終製品の生産計画に基づいて、いつ、どれだけの部品が必要になるかを正確に算出する。
MRPの計画プロセスは、主に三つのインプット情報を必要とする。一つ目は「基準生産計画(MPS:Master Production Schedule)」である。これは、特定の最終製品を「いつ」「どれだけ」生産するかを示す、MRP全体の出発点となる計画情報である。二つ目は「部品構成表(BOM:Bill of Material)」である。これは、製品がどのような部品で構成されているか、それぞれの部品がいくつ必要か、そしてそれらの部品がどのような階層構造になっているかを示す情報である。製品を分解していけば、どの部品がどれだけ使われているか、その関係性をツリー構造で表現したものと理解できる。三つ目は「在庫ファイル(Inventory Record File)」である。これは、現在手元にある部品の在庫数、すでに発注済みで今後入荷予定の部品数、部品の調達にかかるリードタイム(発注から入荷までの期間)、安全在庫の設定値など、個々の部品に関する詳細な在庫情報を含む。
これらのインプット情報を用いて、MRPは以下のような計算ロジックで資材所要量を計画する。まず、基準生産計画(MPS)に基づいて最終製品の生産計画が確定すると、その計画を起点として部品構成表(BOM)を参照しながら、製品を構成する上位部品から下位部品へと必要な部品の種類と量を段階的に展開していく。この展開は「品目展開」と呼ばれ、製品の生産スケジュールに沿って、各部品がいつ、どれだけ必要になるかという「総所要量」を算出する。次に、算出した各部品の総所要量に対し、在庫ファイルから現在の在庫数や発注残数を差し引くことで、実際に不足する量、すなわち「正味所要量」を計算する。この正味所要量が、実際に発注したり生産したりする必要のある量となる。最後に、各部品のリードタイムを考慮し、正味所要量分の部品が生産ラインに間に合うように、いつ発注を開始すべきか、いつ生産を開始すべきかという「計画手配」の情報を時間軸に沿って算出する。これにより、部品の調達や生産の最適なタイミングが決定される。このプロセスでは、発注ロットサイズ(一度に発注する最小単位)や安全在庫(不測の事態に備えて最低限確保しておく在庫)などのルールも考慮される。
MRPシステムが生成するアウトプット情報は、主に以下の二つである。一つは「生産指示」であり、これは社内の製造部門に対して、いつ、何を、いくつ生産すべきかを示す作業指示となる。もう一つは「発注指示」であり、これは外部のサプライヤーに対して、いつ、何を、いくつ発注すべきかを示す情報となる。これらの指示は、計画に基づいて自動的に生成されることで、手作業による計画ミスや遅延を防ぎ、スムーズな生産活動を支援する。さらに、現在の計画が遅延しそうである場合や、逆に前倒しが可能である場合など、納期調整に関する情報も提供され、計画の柔軟な見直しを可能にする。
MRPを導入することによるメリットは多岐にわたる。最も大きなメリットは、在庫コストの削減である。必要な資材を必要な時に必要なだけ調達・生産するため、過剰な在庫を抱える必要がなくなり、保管コストや廃棄ロスの削減につながる。同時に、欠品による生産ラインの停止や納期遅延も防止できるため、生産効率が向上し、顧客への納期遵守率も高まる。また、計画がシステムによって自動的に行われるため、計画業務の負荷が軽減され、計画の精度が向上することもメリットである。
しかし、MRPにはいくつかの課題も存在する。MRPの計画精度は、インプットとなる基準生産計画、部品構成表、在庫ファイルのデータの正確性に大きく依存する。これらのマスターデータに誤りがあると、誤った計画が生成され、かえって生産現場に混乱を招く可能性がある。また、初期のMRPシステムは、生産設備の能力や人員配置などを考慮しないため、計画通りに生産できないといった問題が発生することがあった。これらの限界を克服するために、MRPは「MRP II(製造資源計画:Manufacturing Resource Planning)」へと発展し、さらに企業のあらゆる資源を統合的に管理する「ERP(企業資源計画:Enterprise Resource Planning)」へと進化していった。しかし、それらのより高度なシステムの根幹には、常にMRPの思想が息づいており、その基本的な理解は、現代のITシステム、特に製造業向けシステムの設計・開発に携わるシステムエンジニアにとって不可欠である。