QAM(キューエイエム)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
QAM(キューエイエム)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
直交振幅変調 (ちょっこうしんぷくへんちょう)
英語表記
Quadrature Amplitude Modulation (クワドラチャアンプリチュードモジュレーション)
用語解説
QAMは、直交振幅変調(Quadrature Amplitude Modulation)の略であり、デジタルデータをアナログ信号として効率的に伝送するための変調方式の一つである。この技術は、限られた周波数帯域内でより多くの情報を送ることを目的としており、現代の高速通信において不可欠な役割を果たしている。QAMは、信号の「振幅(Amplitude)」と「位相(Phase)」という二つの異なる特性を同時に変化させることで、情報を多重に表現する。
デジタルデータは0と1のビット列で構成されるが、これをそのまま長距離伝送することは難しい。そのため、搬送波と呼ばれる特定周波数のアナログ信号に情報を乗せて送る「変調」というプロセスが必要となる。従来の変調方式には、信号の振幅のみを変化させるASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移変調)や、位相のみを変化させるPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)などがある。QAMは、これらの変調方式の良い点を組み合わせ、振幅と位相の両方を独立して制御することで、一つの信号でより多くのビット情報を表現することを可能にする。
詳細には、QAMが情報を表現する仕組みは、それぞれの「シンボル」が特定の振幅と位相の組み合わせに対応している点にある。シンボルとは、複数のビットをまとめた情報単位である。例えば、1ビットは2通りの状態(0か1)しか表現できないが、2ビットであれば4通り(00, 01, 10, 11)の情報を表現できる。QAMでは、この複数のビットで構成されるシンボルを、搬送波の特定の振幅と位相の組み合わせに割り当てる。受信側では、受け取った信号の振幅と位相を解析することで、どのシンボルが送られてきたかを判断し、元のデジタルデータに復元する。
QAMの特徴である「直交」という概念は、互いに90度異なる位相を持つ二つの搬送波(直交する成分)を用いて、それぞれに独立した振幅変調を行うことを指す。具体的には、In-phase(同相)成分とQuadrature-phase(直交相)成分と呼ばれる二つの信号ストリームに分けて、それぞれASK変調を行い、それらを合成することで振幅と位相の両方が変化した一つのQAM信号を生成する。これにより、二つの異なる情報経路を一つの周波数帯域内で同時に利用しているような効果が得られ、情報伝送効率が飛躍的に向上する。
QAMには様々な種類があり、代表的なものとして、4-QAM、16-QAM、64-QAM、256-QAMなどがある。これらの数字は、一つのシンボルで表現できる異なる状態の数を表している。例えば、4-QAMでは4通りの振幅・位相の組み合わせがあり、それぞれが2ビット(2^2=4)の情報を表現する。16-QAMでは16通りの組み合わせがあり、1シンボルで4ビット(2^4=16)を、64-QAMでは64通りの組み合わせで6ビット(2^6=64)を、256-QAMでは256通りの組み合わせで8ビット(2^8=256)を表現できる。この数字が大きくなるほど、1シンボルでより多くのビットを伝送できるため、データ転送速度(データレート)が向上する。
しかし、QAMの数字を大きくすることにはトレードオフが存在する。シンボルで表現できる状態の数が増えるということは、それぞれのシンボルに対応する振幅と位相の組み合わせが、より互いに接近することになる。これは、受信側が各シンボルを正確に識別するための「マージン」が小さくなることを意味する。結果として、信号にノイズや歪みが少しでも加わると、受信側が誤って別のシンボルとして判断してしまう可能性が高まる。したがって、高次のQAM(例えば256-QAM)を利用するには、より高い信号対雑音比(SNR)と、非常に良好な通信環境が求められる。逆に、通信環境が悪い場合やノイズが多い環境では、誤り率を低減するために低次のQAM(例えば16-QAMや64-QAM)に切り替えるなどして、通信の安定性を確保する必要がある。
QAMは、多岐にわたる通信技術で広く利用されている。具体的には、無線LAN(Wi-Fi)のIEEE 802.11acや802.11ax規格では、高速化のために高次QAM(最大1024-QAM)が用いられている。ケーブルテレビのインターネット接続サービス(DOCSIS)や、デジタル放送(DVB-C、ATSC)でも、限られた周波数帯域で高画質の映像や大量のデータを伝送するためにQAMが採用されている。また、携帯電話の移動体通信規格であるLTEや5Gにおいても、QAMは高速データ通信を実現する重要な基盤技術となっている。
システムエンジニアを目指す上でQAMの理解は極めて重要である。QAMは、ネットワーク設計における帯域幅の効率的な利用や、スループットの最大化を検討する際に基礎となる知識である。また、通信品質の問題が発生した際、変調方式の特性を理解していれば、それがノイズによるものか、信号強度の不足によるものか、あるいは利用しているQAMの次数と通信環境のミスマッチによるものかといった原因究明に役立つ。高次QAMが使用されている環境で通信速度が出ない場合、低次QAMへの切り替えや信号品質の改善策を検討するといった判断も、QAMの特性を理解していればこそ可能となる。このように、QAMは現代の通信システムを理解し、その性能を最大限に引き出すために不可欠な技術要素である。