【ITニュース解説】第180回 2020年代前半のウェブデザインと今後のトレンド[前編]
2025年09月16日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第180回 2020年代前半のウェブデザインと今後のトレンド[前編]」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
2020年代前半(2020-2024年)に取り上げられたウェブデザインの要素を分析し、これまでのデザイントレンドが何だったのかを考察する。そして、今後のウェブデザインがどのような方向へ進むのかを予測する。本記事はその前編だ。
ITニュース解説
ウェブデザインのトレンドとは、単に見た目の流行のことだけではない。ユーザーがウェブサイトやアプリケーションを利用する際に感じる体験や、その背景にある技術の進化、社会からの要請など、さまざまな要素が複雑に絡み合って形成される、課題解決の「手段」や「方法論」なのだ。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、デザインのトレンドを理解することは、ユーザーが何を求めているのか、そしてそれをどのように技術で実現していくべきかを知る上で非常に重要となる。
2020年代前半、具体的には2020年から2024年にかけてのウェブデザインは、いくつかの明確な方向性を示していた。この時期に特に重視されたのは、ウェブサイトの「高速化」と「誰もが利用できるアクセシビリティの向上」である。ユーザーは情報を速く、スムーズに手に入れたいと強く願っており、ウェブサイトの表示が遅いとすぐに離れてしまう傾向がある。このため、Googleが提唱する「Web Vitals」という指標、具体的にはページの読み込み速度を示すLCP(Largest Contentful Paint)、ユーザーが操作できるまでの応答性を示すFID(First Input Delay、現在はINP: Interaction to Next Paintに移行中)、そしてページの視覚的な安定性を示すCLS(Cumulative Layout Shift)といった項目が、ウェブサイトの品質を測る上で非常に重要視されるようになった。システムエンジニアは、これらの指標を改善するために、コードの最適化、画像の圧縮、サーバーの応答速度向上など、さまざまな技術的な対策を講じる必要がある。
また、アクセシビリティの向上も大きなテーマだった。これは、障がいのある人や高齢者など、多様なユーザーがウェブサイトを問題なく利用できるようにする取り組みのことだ。例えば、キーボードだけで操作できること、色覚多様性のある人でも情報が識別できるように色のコントラストを考慮すること、音声読み上げソフトウェアが内容を正しく解釈できるようなHTML構造にすることなどが挙げられる。これは単なる配慮ではなく、より多くのユーザーに情報やサービスを届けるための、ウェブサイトの「品質」を根本から高めるための重要な要素となる。エンジニアは、WAI-ARIAなどの技術を用いて、デザインの意図をアクセシブルな形で実装する役割を担う。
ユーザーとの「インタラクション」を深めることも、この時期のトレンドの一つだった。例えば、ボタンをクリックした時にわずかに色が変化したり、読み込み中に楽しいアニメーションが表示されたりする「マイクロインタラクション」は、ユーザーに操作が受け付けられたことを伝えたり、待機時間を退屈させないようにしたりする効果がある。これらはユーザーに安心感や心地よさを提供し、全体のユーザー体験を向上させる。これを実現するためには、CSSアニメーションやJavaScriptを使った動的な表現のスキルが求められる。また、デザインと開発の効率化のために、再利用可能なUI部品(ボタン、フォーム、カードなど)を体系的に管理する「コンポーネント指向」のアプローチが広く普及し、デザインシステムという形で開発現場に定着していった。これは、一貫性のあるユーザーインターフェースを効率的に構築し、変更にも強くする上で不可欠な考え方である。
ビジュアルデザインの面では、ミニマリズムやフラットデザインといった、シンプルで情報伝達を重視するスタイルが引き続き主流であった。一方で、透明感のある素材感を表現する「グラスモーフィズム」や、立体感を表現する「ニューモーフィズム」といった新しい表現も登場したが、これらは一過性のトレンドとして落ち着いていった。また、企業やブランドの個性を強く打ち出すための「ブランドアイデンティティ」をウェブサイトのデザイン全体で表現することがより重視された。背景に大きな画像や動画を用いたり、独自のタイポグラフィ(文字のデザイン)を使ったりすることで、記憶に残る体験を提供しようとする動きも見られた。特に、ユーザーの目の疲労を軽減し、バッテリー消費を抑える効果もある「ダークモード」は、多くのウェブサイトやアプリケーションで採用される、定番の機能となっていった。
技術的な側面では、HTML、CSS、JavaScriptといったウェブ技術の進化はもちろんのこと、「プログレッシブウェブアプリ(PWA)」の普及も大きな流れだった。PWAは、ウェブサイトでありながらスマートフォンのアプリのように動作し、オフラインでの利用やプッシュ通知の送信を可能にする技術である。これにより、ウェブの利便性とアプリの体験が融合し、ユーザーにさらに豊かな体験を提供できるようになった。また、様々なサービスやデータの連携を可能にする「API(Application Programming Interface)」の活用も進み、外部サービスとの連携やデータ取得が容易になり、ウェブサイトの機能拡張性が飛躍的に向上した。ノーコード・ローコードツールの台頭も注目に値する。これらは、プログラミングの知識がなくてもウェブサイトやアプリケーションを開発できるツールであり、より多くの人がウェブコンテンツを作成・公開する手助けとなった。しかし、複雑なシステムや高度なカスタマイズが必要な場面では、依然としてエンジニアの専門的な知識とスキルが不可欠である。
今後のウェブデザインのトレンドの方向性としては、ユーザー一人ひとりに最適化された「パーソナライゼーション」がさらに進化していくと予想される。AI技術の発展により、ユーザーの行動履歴や好みに合わせて、コンテンツの表示順序やデザイン、おすすめ情報を動的に変化させるようなウェブサイトが一般的になるだろう。これにより、ユーザーは自分にとって最も価値のある情報に、より早くたどり着けるようになる。また、環境への配慮や倫理的な側面に重きを置く「サステナビリティ」も重要なテーマとなる。ウェブサイトのデータ転送量を減らし、電力消費を抑える「エコデザイン」の考え方が広がり、プライバシー保護やデータのセキュリティもこれまで以上に厳しく問われるようになる。さらに、メタバースやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)といった「没入型体験」を提供する新しい技術の登場は、ウェブインターフェースのあり方を大きく変える可能性を秘めている。システムエンジニアは、これらの新しい技術に対応できるよう、常に学習し、進化し続ける必要がある。
このように、ウェブデザインのトレンドは、単に流行の色やフォントが変わるという表面的な変化だけでなく、その背後にある技術やユーザーのニーズ、社会の動きと密接に結びついている。システムエンジニアとして、これらのトレンドを理解し、最新の技術を習得することで、デザイナーが描く未来のウェブ体験を、確かな技術力で実現できるようになるだろう。