【ITニュース解説】How We Built AI That Prevents Cloud Incidents Before They Happen
2025年09月12日に「Dev.to」が公開したITニュース「How We Built AI That Prevents Cloud Incidents Before They Happen」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
クラウドの予期せぬ出費やセキュリティ問題に悩むエンジニア向けに、AIシステム「PolicyCortex」が開発された。これは機械学習でクラウドの異常を事前に予測・検知し、インシデントを未然に防ぐ。結果、トラブルが減り、コスト削減や作業負担軽減に貢献する。
ITニュース解説
クラウド環境でのシステム運用は、現代のITシステムにとって欠かせない基盤となっている。しかし、その便利さの裏側には、予期せぬ高額な請求、セキュリティ上の脆弱性、法規制や企業方針への違反(コンプライアンス違反)など、さまざまなトラブルが潜んでいる。これらは「クラウドインシデント」と呼ばれ、一度発生すると、システムダウンによるビジネス損失、顧客からの信頼失墜、復旧作業によるエンジニアの大きな負担など、計り知れない損害をもたらす可能性がある。
従来のクラウド監視システムは、多くの場合、何かが壊れたり、問題が発生したりした「後」にアラートを発する「事後対応型」であった。つまり、システムに異常が発生し、それが目に見える形になった時点で初めて問題が発覚するため、対応が常に後手に回りがちだった。真夜中にアラートが鳴り響き、エンジニアが急遽対応に追われるといった状況は、クラウド運用現場では日常茶飯事であったと言える。このような状況を根本的に改善し、問題を「事前に予測し、未然に防ぐ」という「事前予防型」の新しいアプローチが求められていた。
この課題を解決するために開発されたのが、AIを活用した「PolicyCortex」というシステムである。PolicyCortexの目標は、クラウドインシデントを未然に防ぐことで、エンジニアが問題の火消しに追われる時間を減らし、より本来の業務に集中できる環境を整えることにある。
PolicyCortexがどのようにして事前予防を実現しているのか、その技術的なアプローチを見ていこう。このシステムは、大きく分けて三つの技術を組み合わせている。一つ目は「機械学習(ML)」、二つ目は「Policy-as-Code(ポリシーをコードで定義する手法)」、三つ目は「軽量テレメトリー(最小限のデータ収集)」である。
機械学習は、大量のデータからパターンやルールを自動的に学習し、未来を予測したり、異常を検知したりする技術である。PolicyCortexでは、この機械学習をクラウドのさまざまな側面に応用している。
まず「コスト」の面では、クラウドサービスの利用履歴や料金データを時系列で分析するモデルを用いる。これにより、通常の利用パターンから大きく外れた支出の兆候を早期に捉えたり、将来的な利用料の急増を予測したりすることが可能になる。例えば、あるサービスが急に大量のデータを処理し始め、それが原因で翌月の請求額が跳ね上がる前に、その傾向を検知して警告を発するのだ。
次に「セキュリティ」の面では、クラウド環境の設定情報を継続的に分析する。これにより、誤った設定や、時間の経過とともに安全性が低下するような変更(ドリフト)を自動で発見する。例えば、通常はアクセスが制限されているはずのデータベースに、誤って不特定多数からのアクセスが許可されている設定変更が行われた場合、PolicyCortexはそれをセキュリティリスクとして検知し、インシデント化する前に修正を促す。
「コンプライアンス」への対応も重要である。組織が定めるセキュリティポリシーや、業界の規制、個人情報保護法などの法的要件にクラウド設定が適合しているかを自動でチェックする。PolicyCortexは、ルールエンジンとドリフト検知を組み合わせることで、これらの規定に違反する可能性のある設定変更や、時間とともに違反状態になってしまう設定を、本番環境に適用する前に見つけ出し、違反を未然に防ぐ。
さらに「パフォーマンス」に関しても、システムの応答速度の遅延、リソースの飽和、エラーの発生率といった、サービスの品質低下につながる初期の兆候を早期に捉える。これにより、ユーザー体験に影響が出る前に、性能に関する問題を特定し、解決策を講じることが可能になる。
これらのAIによる分析を支えるのが「Policy-as-Code」と「軽量テレメトリー」である。Policy-as-Codeとは、セキュリティルールやコンプライアンス要件といったポリシーを、人間が読み書きできるコードとして記述することである。これにより、ポリシーの管理や変更が容易になり、自動化されたチェックプロセスに組み込みやすくなる。軽量テレメトリーは、システムの状態を把握するために必要最小限のデータを効率的に収集する技術で、データ収集自体のコストやシステム負荷を抑えつつ、AIによる分析に必要な情報をタイムリーに提供する。
PolicyCortexの内部的な仕組み(アーキテクチャ)をもう少し詳しく見てみよう。 このシステムは、まず「使用量とコストパターンの時系列予測」を行う。過去のデータから将来のトレンドを予測し、異常な利用パターンを見つける。次に「セキュリティ態勢とアクセスドリフトの異常検知」がある。システムの設定やアクセス権限の変更履歴を監視し、危険な変更や逸脱を自動的に特定する。そして、「ポリシーやコンプライアンスのガードレール(防護柵)」としての「ルールエンジン」をデプロイ前と実行時の両方で動作させる。これにより、システムが本番環境に展開される前や、運用中にポリシー違反が発生しないように常に監視し、違反をブロックする。
さらに、日々大量に発生するアラートの中から、本当に重要で対応が必要なものを判別し、似たようなアラートをまとめて意味のある「ストーリー」として提示するために、「自然言語処理(NLP)による優先順位付け」も行われる。これは、騒がしいアラートのノイズの中から、エンジニアがすぐに対応すべきアクションを明確にする役割を果たす。
PolicyCortexは、これらのプロアクティブな(事前予防的な)チェックと、「ゲート付きデプロイメント」という仕組みを組み合わせる。ゲート付きデプロイメントとは、システムに変更を加える際に、特定のチェック項目を全てクリアした場合のみ、その変更が本番環境に適用されるようにする仕組みである。これにより、危険な変更が誤って本番環境にデプロイされてしまうことを未然に防ぐ。万が一、何らかの理由で問題が本番環境に滑り込んでしまった場合でも、PolicyCortexはシステム内の通信経路を視覚的に分かりやすく示す「フローマップ」や、コストを抑えつつ要点がまとめられた「ログビュー」を提供し、エンジニアが迅速かつ効率的に問題の原因を特定し、解決できるよう支援する。
PolicyCortexのようなAIシステムがクラウド運用にもたらす価値は大きい。まず第一に、エンジニアは深夜に呼び出されるといった事後対応の負担から解放され、より戦略的な開発業務に時間を割けるようになる。第二に、クラウド費用の無駄遣いや誤設定を早期に発見・修正できるため、企業は大幅なコスト削減を実現できる。第三に、予防的なコントロールを導入することで、監査対応がよりスムーズになり、セキュリティやコンプライアンスへの取り組みの信頼性を高めることができる。そして何よりも、ノイズの少ないクリアな情報と、次に取るべき行動が明確になることで、開発チーム全体のストレスが軽減され、より幸福で生産的な職場環境が構築されるだろう。
PolicyCortexは、クラウド管理のあり方を「インシデント発生後の対処」から「インシデントの事前予防」へと変革することを目指している。このような技術の登場は、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、今後のクラウド運用の未来がより安全で効率的になる可能性を示していると言える。