【ITニュース解説】Avail acquires Arcana, Ethereum’s UX Roadmap, Ethereum’s On-Chain Volume Hits A Four-Year High, and Etherspot’s AA/ChA overview

Web3の世界では、新しい技術やサービスが次々と生まれているが、まだ一般のユーザーにとっては使いづらいと感じる部分も多い。特に、ブロックチェーンの複雑な仕組みや、異なるブロックチェーン間の連携の難しさは、その普及を妨げる大きな要因となっている。しかし、このような課題を解決し、Web3をもっと身近で使いやすいものにするための重要な動きが今、活発に進んでいる。

まず、イーサリアムのメインネットワークとその上で動く補助的なネットワーク（レイヤー2、L2と呼ぶ）間の連携をスムーズにし、ユーザー体験（UX）を大幅に向上させるためのロードマップが発表された。これは、ユーザーがWeb3サービスを使う際に直面する「やりにくさ」を減らすための具体的な計画だ。この計画では、主に三つの方向性で開発が進められている。一つ目は「Open Intents Framework (OIF)」という仕組みで、これはユーザーが「何をしたいか」という意図を、より柔軟かつ効率的に実現するための基盤となる。まるで、ユーザーがやりたいことを伝えるだけで、裏側で最適な方法が選ばれ、実行されるようなイメージだ。この仕組みは、さまざまな構成要素を組み合わせて使えるモジュール式で、例えば、取引の開始から決済、資産の再調整まで、必要に応じて信頼レベルの異なるコンポーネントを交換できるよう設計されている。すでに利用可能なスマートコントラクトの実装も進んでおり、今後さらに発展していく見込みだ。

二つ目は「Ethereum Interoperability Layer (EIL)」で、これは異なるL2間で資産や情報をやり取りする際に、まるで単一のチェーン内で操作しているかのように感じさせることを目指す技術だ。現在、L2間のやり取りは複雑で、ユーザーが複数のステップを踏む必要があることが多い。EILは、この複雑さを解消し、間に誰かの信頼を必要とせずに安全に取引を行えるようにする。これにより、ユーザーはどのL2を使っているかを意識することなく、シームレスにサービスを利用できるようになる。これは、ウォレット（口座）の操作を柔軟にする「アカウント抽象化」の技術を開発したチームが主導しており、将来的にWeb3の利用を大きく変える可能性を秘めている。

三つ目は、開発者がL2間でのアプリケーション開発をより容易にするための「クロスチェーン標準」の策定だ。これには、異なるL2間で共通して使えるアドレスの形式や、複数の操作を一度に実行できる仕組み、ユーザーの意図を標準化するプロトコル、共通のメッセージングインターフェースなどが含まれる。これらの標準が整備されることで、開発者はL2間の連携を考慮したアプリケーションを、より少ない労力で開発できるようになり、結果としてユーザーはより速く、より安価にWeb3サービスを利用できるようになるだろう。

次に、マルチチェーン環境でのスケーラビリティ、つまり複数のブロックチェーンが連携して効率的に処理を行う能力を加速させるための大きな動きとして、AvailによるArcanaの買収が発表された。Availは、さまざまなブロックチェーン間での連携と実行を担う「Nexus」という技術基盤を構築しているが、Arcanaの技術を取り込むことで、このNexusの能力をさらに強化する狙いだ。Arcanaは、ユーザーが複数のブロックチェーンを意識することなく使えるようにする「チェーン抽象化」のプロトコルを開発しており、そのウォレット技術、認証システム、セキュリティを強化する技術などをAvailに統合する。Arcanaはすでに多くの開発チームに利用され、数百万のウォレットとトランザクションを処理してきた実績があり、ユーザーが異なるチェーン間で残高をまとめて見たり、ガス代（手数料）を意識せずに取引を行ったり、チェーンを切り替える手間なくサービスを使えるような機能を提供してきた。この買収により、Availはより包括的なプラットフォームへと進化し、開発者にとってはブリッジ（異なるチェーンをつなぐ技術）を意識しないスムーズな開発が可能になり、ユーザーにとっては複数のチェーンにまたがるサービス利用が格段に簡単になることが期待される。また、経済的な側面でも、ArcanaのトークンがAvailのトークンに統合され、Availのトークンが複数のチェーンにわたる流動性や実行、アクセスを調整する中心的な役割を果たすことになる。

イーサリアムネットワーク自体の活動も活発化している。最近のデータによると、イーサリアムの月間調整済みオンチェーントランスファーボリューム、つまりブロックチェーン上で行われた取引の総額が3,200億ドルを超え、過去4年間で最も高い水準を記録した。これは、2021年中旬以来の高水準であり、イーサリアムネットワークの経済活動が非常に活発になっていることを示している。この活動の活発化にはいくつかの要因がある。一つは、イーサリアム現物ETF（上場投資信託）への関心の高まりだ。これにより、イーサリアムの取引や決済フローがブロックチェーン上で増加した。もう一つは、最近行われた「Dencun（デンクン）」というアップグレードだ。このアップグレードにより、L2ネットワークでのデータ処理コストが大幅に削減され、その結果、L2のガス代が安くなった。これにより、ユーザーはより頻繁にL2上で取引を行うようになり、ネットワーク全体の活動が押し上げられたと考えられている。この高水準の取引量は、イーサリアムネットワークが健全な流動性を持ち、多くのアプリケーションで利用されていることを示唆している。もしL2の採用やETFからの資金流入が今後も続けば、この活発な経済活動はさらに継続し、ウォレットの使いやすさ向上やアカウント抽象化、チェーン抽象化といった新しい技術への需要がさらに高まるだろう。

このような背景の中で、「アカウント抽象化（AA）」と「チェーン抽象化（ChA）」という技術が、単なる技術的なバズワードから、具体的な製品価値を提供する段階へと進化している。Etherspotという企業は、これらの抽象化技術がWeb3開発チームにどのような価値をもたらすかについて解説している。アカウント抽象化とチェーン抽象化は、ユーザーがWeb3サービスを利用する際に感じるさまざまな不便さ、例えば面倒な初期設定、複数のトランザクションを承認する手間、そして異なるブロックチェーン間を移動する際のブリッジングという複雑な操作などを解消する。これらの技術は、既存のシステムを根本から作り直すことなく、ユーザー体験を劇的に改善できる可能性を秘めている。

抽象化という言葉は少し難しく聞こえるかもしれないが、これはブロックチェーンそのものを消すのではなく、ユーザーの「精神的な負担」を取り除くことを意味する。つまり、ユーザーはどのネットワークを使うべきか、ガス代をどう用意するか、複数のステップをいつ承認するか、といったことを意識する必要がなくなる。代わりに、アプリケーションがユーザーの指示を受けて、裏側で最適なルートを選び、必要な処理を自動的に実行するようになる。これにより、ユーザーはより多くのサービスを継続して利用するようになり、Web3アプリケーションの利用者が全体的に増えることが期待される。

Etherspotは、このアカウント抽象化とチェーン抽象化を開発者が自身のアプリケーションに導入するための具体的な方法を三つ提示している。一つは自社で全てを開発する方法、二つ目は既存のツールを組み合わせて使う方法、そして三つ目はEtherspotのようにすぐに使えるプラットフォームを利用する方法だ。特に、迅速かつ信頼性の高い開発が求められる現代において、統合されたツールキットを利用することは開発者にとって大きなメリットとなる。Etherspotが提供する具体的なソリューションとしては、「Skandha Bundler」と「Arka Paymaster」がある。これらは、複数のトランザクションをまとめて処理したり、ユーザーがガス代を意識せずに取引を行えるようにしたり、異なるブロックチェーン間でのブリッジ操作を抽象化してクロスチェーンスワップを可能にしたりする。さらに、一般的なソーシャルアカウントを使ったログイン機能も提供し、Web3への新規ユーザーの参入障壁を低くしている。Etherspotはまた、分散化と検閲耐性を維持するために、アカウント抽象化の共通のトランザクション待機場所（メンプール）にも参加している。

これらの最新の動向は、Web3がより多くの人々にとって身近で使いやすいものになるための重要な一歩を示している。システムエンジニアを目指す人にとって、このようなユーザー体験を改善する技術や、異なるブロックチェーン間の連携をスムーズにする技術は、今後のWeb3開発において不可欠な知識となるだろう。ユーザーの「やりたいこと」をいかにシンプルに実現するか、そしてその裏側で複雑なブロックチェーン技術をいかに効率的かつ安全に動かすか、という視点がますます重要になってくる。これらの進展は、Web3が本格的な普及期に入るための土台を着実に築いていることを示している。