【ITニュース解説】GoogleがML KitにGemini Nanoを導入、新しいオンデバイスGenAI APIを提供

2025年09月02日に「InfoQ」が公開したITニュース「GoogleがML KitにGemini Nanoを導入、新しいオンデバイスGenAI APIを提供」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

GoogleはML KitにGemini Nanoという小型AIモデルを組み込み、新しいGenAI APIを提供した。これにより、Androidアプリ開発者は、インターネット不要でAI(要約、校正、画像説明など)をデバイス上で直接利用できる。アプリの機能が豊かになる。

ITニュース解説

Googleが提供する「ML Kit」というツールキットに、新たに「Gemini Nano」という最新のAIモデルが組み込まれ、Androidアプリ開発者が生成AIの機能をより簡単に、そして効率的に利用できるようになるというニュースが報じられた。この進展は、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、今後のアプリ開発の可能性を大きく広げる重要な一歩と言えるだろう。

まず、「ML Kit」とは何かを理解しよう。これはGoogleが提供している、モバイルアプリ開発を支援するための機械学習(Machine Learning、略してML)向けのソフトウェア開発キット(SDK)だ。SDKとは、特定の機能やサービスをアプリに組み込むために必要なツールやライブラリ、サンプルコードなどをまとめた一式のこと。ML Kitを使うと、開発者は機械学習に関する深い専門知識がなくても、アプリに顔の検出、文字の認識(OCR)、バーコードのスキャン、画像ラベリングといった高度なAI機能を簡単に追加できる。これまでは主に、与えられた情報から特定のパターンを認識したり、分類したりする機能が中心だったが、今回のGemini Nano導入で、その能力は大きく向上する。

次に「Gemini Nano」について解説する。Googleは近年、大規模言語モデル(Large Language Model、略してLLM)と呼ばれる、人間のような自然な言語を理解し、生成するAIモデルの開発に注力しており、「Gemini」はその最先端をいくシリーズの一つだ。「Nano」という名前が示す通り、Gemini Nanoは、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイス上での動作に最適化された、軽量かつ効率的なモデルを指す。大規模なAIモデルは通常、強力な計算能力を持つサーバー上で動作するが、Gemini Nanoは限られたデバイスのリソースでもスムーズに動作するよう設計されている点が大きな特徴だ。

このGemini NanoがML Kitに導入されることで、新たに「オンデバイスGenAI API」が提供されることになった。「GenAI」とは「Generative AI(生成AI)」の略で、与えられた情報をもとに、新しいテキストや画像、音声などを生成するAIの総称だ。例えば、文章の要約や校正、書き換え、さらには画像の内容を説明するキャプションの生成などが生成AIの代表的な機能である。そして「API」(Application Programming Interface)とは、異なるソフトウェア同士が情報をやり取りするためのルールや窓口のようなもので、開発者はこのAPIを通じて、Gemini Nanoの生成AI機能を自分のAndroidアプリに組み込むことができるようになる。つまり、開発者は複雑なAIモデルの内部構造を理解しなくても、決められた手順でAPIを呼び出すだけで、高度な生成AI機能を利用できるようになるわけだ。

最も重要な点の一つが、「オンデバイス推論」という概念だ。AIが「推論」を行うとは、与えられたデータに対して学習済みのモデルを使って判断や予測を行うことを指す。これまでの多くのAI機能は、ユーザーのデバイスからインターネットを通じてクラウド上のサーバーにデータを送り、そこでAIモデルが推論を行い、結果をデバイスに返すという「クラウド推論」方式が主流だった。しかし、オンデバイス推論では、AIモデル自体がユーザーのスマートフォンなどのデバイス内部に存在し、そこで推論処理が行われる。

このオンデバイス推論には、いくつかの大きなメリットがある。まず、高速性だ。データをサーバーに送って処理し、結果を受け取るというネットワーク通信の往復が不要になるため、処理が格段に速くなる。ユーザーはよりリアルタイムに近い感覚でAI機能を利用できるようになる。次に、プライバシー保護の強化だ。ユーザーのデータ(例えば、校正したい文章や説明してほしい画像など)がデバイスの外に出ることがないため、個人情報や機密性の高い情報が第三者に漏洩するリスクを低減できる。これは特に、プライバシーを重視する現代のアプリ開発において非常に重要な要素となる。さらに、オフライン動作が可能になる点も大きい。インターネット接続がない環境でもAI機能が利用できるため、利用シーンが広がる。そして、開発者にとっては、クラウドサーバーの利用にかかるコストを削減できる可能性もある。サーバーリソースの消費が減るため、運用費用を抑えることができるのだ。

今回のML KitへのGemini Nano導入は、Androidアプリ開発の世界に大きな変革をもたらすだろう。開発者は、要約、校正、書き換え、画像説明といった生成AIの高度な能力を、低遅延、高いプライバシー、オフライン対応、そしてコスト効率の良い形でアプリに組み込めるようになる。これにより、例えば文章作成を支援するアプリでは、ユーザーが入力した文章をその場で瞬時に校正したり、より適切な表現に書き換えたりできるようになる。写真アプリでは、撮影した写真に写っているものをAIが認識し、自動で説明文を生成するといった機能が考えられる。これらの機能は、これまでクラウド上の強力なAIサービスを利用しなければ実現が難しかったが、オンデバイス化されることで、より多くのアプリで手軽に利用可能になる。

システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この技術はモバイルアプリ開発の未来を考える上で欠かせない要素となる。これからは、単に機能を実現するだけでなく、「いかにAIを効果的に活用してユーザー体験を向上させるか」という視点がますます重要になるだろう。ML KitとGemini Nanoの組み合わせは、そのための強力な土台を提供するものであり、今後どのような革新的なAndroidアプリが生まれてくるのか、非常に期待される。このニュースは、単なる技術のアップデートではなく、モバイルアプリが提供できる価値そのものを大きく変える可能性を秘めている。