【ITニュース解説】「HashiCorp Vault」に脆弱性 - 複雑なJSON処理でDoS状態に

2025年09月08日に「セキュリティNEXT」が公開したITニュース「「HashiCorp Vault」に脆弱性 - 複雑なJSON処理でDoS状態に」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

APIキー等の機密情報を管理するツール「HashiCorp Vault」に、システムが応答しなくなるサービス拒否(DoS)の脆弱性が発見された。特殊なデータ処理が原因で発生する。利用者は提供されているアップデートを適用し対策する必要がある。

ITニュース解説

企業のシステム開発や運用において、パスワードやAPIキー、証明書といった機密情報を安全に管理することは非常に重要である。これらの機密情報は「シークレット」と呼ばれ、まるで金庫のように厳重に保管する必要がある。このシークレット管理を専門に行うためのツールとして広く利用されているのが「HashiCorp Vault」である。Vaultは、シークレットへのアクセスを一元管理し、誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録することで、セキュリティレベルを大幅に向上させる役割を担っている。今回、この重要な役割を持つVaultにおいて、サービスが停止してしまう可能性のある脆弱性が発見され、開発元から修正版が公開された。

この脆弱性は、「サービス拒否(DoS: Denial of Service)」を引き起こすものである。サービス拒否とは、攻撃者がサーバに対して大量の処理要求を送りつけたり、サーバが処理しきれないような特殊なデータを送りつけたりすることで、サーバのリソースを枯渇させ、正常なサービス提供を妨害する攻撃手法である。この攻撃を受けると、サーバは新しいリクエストに応答できなくなり、一般の利用者はサービスを利用できなくなってしまう。今回のVaultの脆弱性は、悪意のある第三者が特定のデータを送りつけることで、意図的にVaultのサービスを停止させることが可能になるという問題である。

今回の脆弱性の原因は、Vaultが「JSON」形式のデータを処理する方法にあった。JSON(JavaScript Object Notation)は、システム間でデータをやり取りする際に広く用いられるデータ形式で、人間にとってもコンピュータにとっても理解しやすい構造を持っている。データは「キー」と「値」のペアで構成され、階層構造を持つことができる。問題となったのは、この階層構造が非常に深く、複雑になった場合の処理である。具体的には、JSONオブジェクトが何重にも入れ子(ネスト)になっているような、特殊な構造のデータをVaultが受け取った際に、この脆弱性が顕在化する。

Vaultは、受け取ったJSONデータを解析する際、内部で再帰的な処理を行う。再帰処理とは、ある処理の途中で自分自身を呼び出す手法で、入れ子構造のようなデータを扱う際に効率的である。しかし、今回の脆弱性では、攻撃者が意図的に作成した極端に深いネスト構造を持つJSONデータを送りつけることで、この再帰処理が過剰に繰り返される状況が発生する。その結果、VaultサーバはCPUやメモリといった計算資源を過剰に消費し、最終的にはリソースを使い果たして応答不能な状態、つまりサービス拒否の状態に陥ってしまう。この問題は、Vaultが内部で利用しているプログラミング言語「Go言語」の標準ライブラリ「encoding/json」に存在した既知の課題に起因するものであった。

この脆弱性が悪用された場合、Vaultのサービスが完全に停止するリスクがある。Vaultは多くのシステムにおいて認証情報や設定情報などを提供する中心的な役割を担っているため、Vaultが停止するとその影響は広範囲に及ぶ。例えば、アプリケーションサーバがデータベースに接続するためのパスワードをVaultから取得している場合、Vaultが応答しなければアプリケーションはデータベースに接続できず、サービス全体が停止してしまう可能性がある。このように、Vaultに依存する多数のシステムが連鎖的に機能不全に陥ることも考えられる。今回の脆弱性は、機密情報そのものが外部に漏洩するタイプの問題ではない。しかし、システムの「可用性」、つまりいつでも正常に利用できる状態を維持するという観点からは、極めて深刻な問題であると言える。

この脆弱性に対して、開発元であるHashiCorpは既に対策を施した新しいバージョンのVaultをリリースしている。具体的には、バージョン1.17.0、1.16.4、および1.15.9が修正版として提供されている。システム管理者は、現在運用しているVaultのバージョンを確認し、これらの修正版よりも前のバージョン(1.17.0未満、1.16.4未満、1.15.9未満の各系統)を利用している場合は、速やかにアップデートを適用することが強く推奨される。ソフトウェアのアップデートは、発見された脆弱性というシステムの弱点を修正し、攻撃のリスクを低減するための最も基本的かつ効果的な対策である。

今回明らかになったHashiCorp Vaultの脆弱性は、特殊なJSONデータの処理に起因してサービス拒否状態を引き起こすものであった。シークレット管理というシステムの根幹を支えるツールが停止することは、それに依存する多くのサービスに連鎖的な影響を及ぼす可能性がある。幸い、開発元から迅速に修正プログラムが提供されているため、利用者には速やかなアップデートの適用が求められる。どのようなソフトウェアにも脆弱性が発見される可能性は常にある。システムの安定性と安全性を維持するためには、日頃からセキュリティ情報を注視し、ソフトウェアを常に最新の状態に保つという基本的な運用を徹底することが不可欠である。

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