【ITニュース解説】Kefir: Solo-developed full C17/C23 compiler with extensive validation
2025年09月09日に「Hacker News」が公開したITニュース「Kefir: Solo-developed full C17/C23 compiler with extensive validation」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
Kefirは、個人で開発されたC言語の最新規格C17/C23に完全対応したコンパイラだ。C言語のプログラムをコンピュータが実行できる形に変換する重要なツールで、徹底的な検証により高い品質と信頼性を持つ。
ITニュース解説
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、コンピュータがどのようにプログラムを理解し、実行するのかという仕組みは、避けて通れない重要なテーマだ。今回注目するKefirという新しいコンパイラの発表は、まさにその核となる部分、プログラムが生まれる過程に深く関わるものだ。
コンパイラとは、私たちが書いたプログラムのソースコード、例えばC言語で書かれたテキストを、コンピュータが直接理解して実行できる「機械語」という形式に変換する特別なプログラムのことだ。人間が理解しやすいプログラミング言語と、コンピュータが理解できる機械語の間に立つ「翻訳者」のような役割を果たす。このKefirは、まさにこの翻訳者として新しく登場したもので、一人の開発者によって作られたという点がまず驚きだ。コンパイラは非常に複雑なソフトウェアであり、そのすべてを一人の人間が設計し、実装することは、尋常ではない努力と高い技術力を必要とする偉業と言える。
KefirはC言語の最新の標準規格であるC17やC23に対応している。C言語には、その使い方や文法、機能などを定めた「標準規格」というルールブックがあり、新しい技術やアイデアが生まれるたびに更新されていく。C17やC23というのは、そのルールブックの新しいバージョンを指し、Kefirが最新のC言語の機能や仕様に対応していることを意味する。これは、現代のソフトウェア開発でC言語を使う上で、非常に重要な要素となる。
このKefirコンパイラの最大の特徴は、その「広範なバリデーション」、つまり検証の徹底ぶりにある。バリデーションとは、プログラムが正しく意図通りに動作するかどうか、問題がないかを確認する作業のことだ。Kefirは、コンパイルするC言語のプログラムが潜在的に抱える問題、特に「未定義動作(Undefined Behavior、略してUB)」を極めて高い精度で検出することに注力している。
未定義動作とは、C言語の標準規格が「こう動作すべき」と明確に定めていない、プログラムの特定の振る舞いのことだ。例えば、配列の範囲外にアクセスしようとしたり、初期化されていない変数の値を読み取ろうとしたりするコードは、未定義動作を引き起こす可能性がある。このような未定義動作を含むプログラムは、あるコンピュータでは問題なく動いたとしても、別のコンピュータや別のコンパイラで動かすと、予期せぬ結果になったり、プログラムがクラッシュしたり、場合によってはセキュリティ上の脆弱性につながったりすることがある。未定義動作は、プログラマーにとっては頭を悩ませる厄介な問題であり、デバッグが非常に難しい。
Kefirは、この未定義動作を積極的に見つけ出すことで、より安全で信頼性の高いソフトウェア開発を支援することを目指している。従来のコンパイラでは見過ごされがちだったり、実行時にしか発見できなかったりするような問題を、コンパイルの段階で検出しようとするのだ。これは、プログラムが実行される前に多くの問題を解決できるため、開発の効率化と品質向上に大きく貢献する。Kefirの開発者は、静的解析ツールや動的解析ツール、さらには形式手法といった、高度なソフトウェア検証技術に匹敵するレベルの保証を提供することを目指していると述べている。静的解析はプログラムを実行せずにコードを分析する方法、動的解析はプログラムを実行しながら動作を監視する方法、形式手法は数学的な厳密さでプログラムの正しさを証明する方法だ。Kefirは、これらのような高度な検証が提供する品質保証に、コンパイラレベルで到達しようとしている。
さらにKefirは、独自の「リンカー」も開発している。リンカーとは、コンパイラが生成した複数の機械語の部品(オブジェクトファイルと呼ばれる)を一つにまとめ上げ、最終的な実行可能なプログラム(実行ファイル)を作り出す役割を担うソフトウェアだ。通常、コンパイラとは別に既存のリンカーを利用することが多いが、Kefirが独自のリンカーを持っているということは、コンパイルから最終的な実行ファイルの生成まで、開発者がすべてをコントロールし、最適化や検証の可能性を広げていることを意味する。
Kefirが現状ターゲットとしているのは、x86-64アーキテクチャを持つLinuxシステムだ。x86-64というのは、現在私たちが一般的に使っているPCのCPUの多くが採用している命令セット(CPUが理解できる命令の種類の集まり)を指し、Linuxは広く使われているオペレーティングシステムの一つだ。つまり、Kefirは一般的なPC環境で動作するLinuxアプリケーションを作成するために設計されているということだ。
このKefirは、現状ではクローズドソース、つまりソースコードが公開されていない形で提供され、主に商用利用を想定している。高い品質保証と未定義動作の検出能力は、特に高い信頼性が求められるエンタープライズシステムや組み込みシステム開発において、大きな価値を持つだろう。将来的にはオープンソース化も視野に入れているとのことだが、まずはその高い技術的価値をビジネスで展開していく方針のようだ。
Kefirの登場は、C言語によるソフトウェア開発に新たな選択肢をもたらし、特に品質と信頼性を重視するプロジェクトにおいて、その価値を大きく発揮する可能性がある。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、コンパイラの仕組みや未定義動作の重要性を理解することは、より良いプログラムを書き、安定したシステムを構築するために不可欠な知識となる。Kefirのような革新的なツールが、どのようにソフトウェア開発の未来を形作っていくのか、今後の動向に注目していきたい。