【ITニュース解説】npmにサプライチェーン攻撃、Chalk、debug、ansi-stylesなど18個のnpmパッケージにマルウェアが注入
2025年09月09日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「npmにサプライチェーン攻撃、Chalk、debug、ansi-stylesなど18個のnpmパッケージにマルウェアが注入」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
JavaScriptの開発で広く使われるnpmで、Chalkなど人気の18パッケージにマルウェアが仕込まれるサプライチェーン攻撃が報告された。これは正規のプログラム部品に不正なコードを混ぜ込む攻撃で、広範囲に影響が及ぶ可能性がある。
ITニュース解説
2025年9月8日、JavaScriptのエコシステムを支えるnpmにおいて、深刻なセキュリティインシデントが発生した。これは「サプライチェーン攻撃」と呼ばれる手法によるもので、世界中の開発者が利用する18個の人気パッケージに悪意のあるコード、すなわちマルウェアが注入されたことが明らかになった。この事件は、現代のソフトウェア開発の根幹を揺るがすものであり、システムエンジニアを目指す者にとって、その仕組みと対策を理解することは極めて重要である。
まず、この事件の背景を理解するために、npmとパッケージについて説明する必要がある。npm(Node Package Manager)は、サーバーサイドJavaScript実行環境であるNode.jsのパッケージ管理システムだ。現代のWebアプリケーションやシステム開発では、すべての機能をゼロから自分で作ることは稀であり、多くの場合、特定の機能を持つプログラムの部品である「パッケージ」や「ライブラリ」を組み合わせて開発を進める。npmは、これらの便利なパッケージをインターネット上のリポジトリから簡単に探し、自分のプロジェクトにインストールし、管理するためのツールである。今回被害にあった「Chalk」は、コンソールに表示される文字に色を付けるためのパッケージ、「debug」は開発中のデバッグ作業を効率化するためのパッケージであり、どちらも非常に多くの開発プロジェクトで利用されている基本的なツールだ。
次に、今回の攻撃手法である「サプライチェーン攻撃」について解説する。ソフトウェア開発におけるサプライチェーンとは、アプリケーションが完成するまでの一連の流れ、つまり、開発者が利用するプログラミング言語、フレームワーク、ライブラリ、開発ツールなど、すべての構成要素を指す。サプライチェーン攻撃は、この供給網のいずれかの段階で悪意のあるコードを混入させる攻撃だ。例えば、多くの開発者が信頼して利用している公開パッケージにマルウェアを仕込むことができれば、攻撃者はそのパッケージを利用するすべての開発者、さらにはその開発者が作成したソフトウェアの利用者にまで、広範囲に影響を及ぼすことが可能になる。信頼されている正規の部品に偽装して侵入するため、検知が非常に困難であるという特徴を持つ。
今回の事件では、攻撃者は何らかの方法で「Chalk」や「debug」といった人気パッケージの管理者権限を不正に取得し、マルウェアを仕込んだ新しいバージョンをnpmの公式リポジトリに公開したとみられる。開発者は、普段通りにパッケージを新規インストールしたり、既存のパッケージを更新したりするだけで、知らず知らずのうちにこのマルウェアに感染してしまう危険性があった。この攻撃が特に深刻なのは、npmパッケージが持つ「依存関係」の性質によるものである。あるパッケージが、機能を実現するために別のパッケージを利用していることは一般的だ。例えば、AというパッケージがBというパッケージを利用し、そのBがさらにCというパッケージを利用するというように、依存関係は複雑なツリー構造を形成している。「Chalk」のような基本的なパッケージは、直接利用していなくても、自分が使っている別のパッケージが間接的に利用しているケースが非常に多い。そのため、一つの人気パッケージが汚染されると、その影響は依存関係の連鎖を辿って、爆発的に拡散する可能性があるのだ。
このようなサプライチェーン攻撃から身を守るために、開発者はいくつかの対策を講じる必要がある。第一に、依存関係のバージョンを固定することの重要性を認識することだ。プロジェクトのルートディレクトリにあるpackage-lock.jsonやyarn.lockといったファイルは、インストールする各パッケージの正確なバージョンを記録している。これにより、チーム内の開発者全員が同じバージョンのパッケージを利用できるだけでなく、意図せず危険な新しいバージョンがインストールされるのを防ぐ防波堤の役割を果たす。第二に、脆弱性スキャンツールを積極的に利用することだ。npm auditというコマンドを実行すると、プロジェクトが利用しているパッケージに既知の脆弱性がないかを自動的にチェックしてくれる。このようなツールを開発プロセスに組み込み、定期的に実行する習慣が不可欠である。そして最後に、開発者自身のセキュリティ意識の向上も欠かせない。安易にパッケージを最新版に更新するのではなく、変更内容を確認する、npmやGitHubなどの開発関連サービスのアカウントでは必ず多要素認証(MFA)を設定して乗っ取りを防ぐなど、日々の業務の中でセキュリティを常に意識することが求められる。
今回のnpmサプライチェーン攻撃は、現代のソフトウェア開発が、コミュニティによって維持される無数のオープンソースパッケージへの信頼の上に成り立っているという事実と、その構造的な脆弱性を改めて浮き彫りにした。便利さの裏には常にリスクが存在することを理解し、適切な知識とツールを用いて自らの開発環境を守ることは、これからのシステムエンジニアにとって必須のスキルと言えるだろう。