【ITニュース解説】Why Rust Still Struggles With Enterprise Adoption

プログラミング言語「Rust」は、多くの開発者から絶大な支持を集めている。技術情報サイト「Stack Overflow」の年次調査では、長年にわたり「最も愛されている言語」の首位を維持しており、その性能や安全性も高く評価されている。しかし、これほどの人気と技術的優位性にもかかわらず、多くの企業、特に大企業での本格的な採用は、他の主要な言語に比べて遅れているのが現状である。この背景には、Rustが持つ特有の課題がいくつか存在する。

まず、Rustの最大の魅力であり、同時に最も高い壁となっているのが、その厳格なメモリ管理の仕組みである。従来のC言語やC++といった高性能言語では、メモリ管理を開発者が手動で行う必要があり、これがメモリリークや不正アクセスといった深刻なバグの原因となりやすかった。一方で、JavaやPythonのような言語は、「ガベージコレクション」という仕組みで不要になったメモリを自動的に解放し、開発者の負担を軽減するが、その分、実行速度やメモリ使用量で不利になることがある。Rustは、この両者の利点を両立させることを目指した言語である。「所有権」「借用」「ライフタイム」という独自の概念を導入し、プログラムのコンパイル段階でメモリに関する問題を厳しくチェックすることで、ガベージコレクションなしでメモリの安全性を保証する。これにより、C++に匹敵するほどの高速な実行性能と、高い安全性を同時に実現している。

しかし、この革新的な仕組みは、開発者にとって急な学習曲線を意味する。特に「所有権」の概念は他の多くの言語にはないため、たとえ経験豊富なプログラマーであっても、習得には相当な時間と努力を要する。企業から見れば、これは開発者のトレーニングコストの増加や、プロジェクト初期の開発速度の低下に直結する。すぐに成果を求められるビジネス環境において、チーム全体の生産性が一時的にでも落ちるリスクは、新しい技術を採用する上で大きな障壁となる。

次に、コンパイル時間の長さも実用上の課題として挙げられる。Rustのコンパイラは、前述のメモリ安全性を保証するために、ソースコードに対して非常に詳細かつ厳格なチェックを行う。この徹底した検証プロセスのおかげで、実行時のエラーが大幅に削減されるという大きなメリットがある一方、プログラムをビルドして実行可能な形式に変換する「コンパイル」に時間がかかるという副作用を生む。小規模なプログラムでは問題になりにくいが、コードベースが巨大化する大規模な企業システムでは、わずかな修正を確認するたびに長いコンパイル時間を待たされることになり、開発者の生産性を著しく低下させる可能性がある。

また、言語を取り巻く「エコシステム」の成熟度も重要な要素である。エコシステムとは、開発を助けるライブラリ（便利な機能をまとめた部品）やフレームワーク（開発の土台となる骨組み）、ツール群のことを指す。PythonにはデータサイエンスやWeb開発のための豊富なライブラリが揃っており、Go言語はネットワーク関連のツールが充実している。これらに比べると、Rustのエコシステムはまだ発展途上にあると言える。もちろん、WebAssemblyとの親和性の高さや、特定領域での強力なライブラリは存在するが、企業が求める多種多様な要件すべてに対応できるほど、ライブラリやツールが網羅されているわけではない。必要な機能がライブラリとして提供されていない場合、開発者はそれを自前で実装する必要があり、開発期間の長期化とコスト増につながってしまう。

さらに、人材確保の難しさも見過ごせない。Rustの人気は高いものの、実務経験が豊富で、複雑な企業システムを構築できる熟練したRustエンジニアの数はまだ限られている。企業がRustでのプロジェクトを立ち上げようとしても、適切なスキルを持つ人材を見つけることが困難な場合が多い。加えて、多くの企業はJavaやC#などで構築された巨大な既存システムを長年運用している。Rustで開発した新しい機能をこれらの既存システムと円滑に連携させることは、技術的に複雑でコストがかかる作業であり、全面的な移行に踏み切れない一因となっている。

これらの課題は、Rustが決して劣った言語であることを意味するものではない。むしろ、その多くは、言語が比較的新しく、まだ成長段階にあることに起因している。Rustコミュニティは非常に活発であり、コンパイル時間の改善やエコシステムの拡充に継続的に取り組んでいる。その技術的な優位性は明らかであり、時間と共にこれらの課題が解決されていけば、今後はより多くの企業でその採用が加速していく可能性は非常に高い。