エアギャップ(エアギャップ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

エアギャップ(エアギャップ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

エアギャップ (エアギャップ)

英語表記

air gap (エアギャップ)

用語解説

エアギャップとは、コンピュータやネットワークを、インターネットをはじめとする他のネットワークから物理的に隔離するセキュリティ対策である。その名称は、保護対象のシステムと外部ネットワークとの間に「空気の隙間(Air Gap)」を設けるという概念に由来する。外部からのサイバー攻撃の多くはネットワーク接続を介して行われるため、物理的に接続を遮断することで、不正アクセス、マルウェア感染、情報漏洩といった脅威からシステムを根本的に保護することを目的とする。これは、ファイアウォールやアクセス制御といったソフトウェア的な対策とは異なり、攻撃経路そのものを存在させないという、非常に強力で原理的な防御手法である。

エアギャップを具体的に実現するには、対象となるコンピュータやシステムからLANケーブルなどの物理的な配線をすべて取り外し、接続を遮断する。また、Wi-FiやBluetooth、携帯電話網への接続といった無線通信機能も、デバイスドライバレベルで無効化するだけでなく、可能であれば物理的に通信モジュール自体を取り外すことで、意図しない接続の発生を防止する。この対策の重要性は、その防御能力の高さにある。近年のサイバー攻撃は高度化・巧妙化しており、ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)といった多層的なセキュリティ対策を施していても、未知の脆弱性を突かれて突破される可能性がある。しかし、エアギャップが適用されたシステムは、そもそも外部のネットワーク上に存在しないため、インターネット経由で攻撃者が侵入を試みる経路が原理的に存在しない。この物理的な断絶が、最も確実性の高い防御策の一つとして評価される理由である。

このような強力なセキュリティ対策は、万が一システムが停止したり、情報が漏洩したりした場合に、人命や社会経済に甚大な影響を及ぼすような、極めて機密性や可用性が求められるシステムで採用される。具体的な例としては、原子力発電所、電力網、ダム、ガスパイプラインといった重要インフラを制御する産業用制御システム(ICS/SCADA)が挙げられる。また、国家の安全保障に直結する軍事システムや防衛システム、金融機関における顧客の資産を管理する勘定系システムの中核部分、あるいは大量の暗号資産をオフラインで安全に保管するためのコールドウォレット管理システムなどもエアギャップの適用対象となる。これらのシステムでは、業務上の利便性よりも、システムの安全性や情報の機密性を確保することが最優先される。

完全に隔離された環境では、外部とのデータのやり取りが必要になった場合に課題が生じる。例えば、システムの動作に必要な定義ファイルの更新、ソフトウェアのアップデート、外部で作成したデータの取り込み、あるいは内部で生成されたログデータの持ち出しなどである。エアギャップ環境でこれを実現するには、USBメモリ、CD/DVD、外付けハードディスクといった物理的な記憶媒体(リムーバブルメディア)を利用して、人間が手動でデータを移動させる必要がある。このプロセスは厳格な運用手順に基づいて行われなければならない。外部から持ち込むデータやメディアは、まず隔離された別の検証用環境でマルウェアスキャンを徹底的に実施し、安全性が確認されたものだけを使用する。データの移動は許可された特定の担当者のみが行い、いつ、誰が、何を、どのシステム間で移動させたかといった作業記録を厳密に管理することが求められる。

エアギャップは万能の解決策ではなく、いくつかの重大なリスクや運用上の課題が存在する。最大の脅威は、前述した物理メディアを介したマルウェアの侵入である。過去には、重要インフラを標的として開発されたマルウェアが、汚染されたUSBメモリを介してエアギャップで保護された環境に侵入し、深刻な被害を引き起こした事例も報告されている。また、悪意を持った内部関係者や、セキュリティ意識の低い従業員が、意図的または偶発的に不正なメディアを接続することも重大なリスクとなる。これを防ぐためには、USBポートを物理的に塞ぐ、あるいはソフトウェアで書き込みを禁止するといった技術的な対策に加え、厳格な持ち込み・持ち出しルールの策定と遵守、従業員への継続的なセキュリティ教育が不可欠である。さらに、運用面での負担も大きい。ネットワーク経由での自動化されたパッチ適用やバックアップができないため、すべての保守作業が手動となり、管理コストが増大する。作業が煩雑になることで、ヒューマンエラーを誘発しやすくなるという側面もある。

結論として、エアギャップは、外部からのネットワーク攻撃に対する最も強力な防御策の一つであり、最高レベルのセキュリティが求められる環境において依然として重要な選択肢である。しかし、その有効性を維持するためには、物理メディアの厳格な管理、信頼できる担当者による徹底した運用手順の遵守といった、物理的および人的な対策が一体となって機能することが不可欠である。利便性との大きなトレードオフを十分に理解し、保護対象システムの重要性やリスクを評価した上で、その適用を慎重に検討すべきセキュリティ概念であると言える。

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