InfiniBand(インフィニバンド)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
InfiniBand(インフィニバンド)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
インフィニバンド (インフィニバンド)
英語表記
InfiniBand (インフィニバンド)
用語解説
InfiniBand(インフィニバンド)は、コンピュータやサーバー、ストレージシステム間を相互接続するために設計された、高性能なスイッチドファブリック型の通信規格である。特に、極めて高いスループット(通信帯域幅)と非常に低いレイテンシ(遅延)が求められる環境で利用される。一般的なコンピュータネットワークで広く普及しているEthernet(イーサネット)とは異なり、主にスーパーコンピュータ(HPC:High-Performance Computing)のクラスタや、大規模なデータセンターの内部ネットワークといった、特定の高性能コンピューティング分野で中心的な役割を担っている。その目的は、多数の計算ノード(サーバー)をあたかも一つの巨大なコンピュータシステムであるかのように緊密に連携させ、通信がボトルネックとなることを防ぐことにある。InfiniBandは、単なる物理的なケーブルやコネクタの規格ではなく、ハードウェアからプロトコルスタックまでを含む包括的なアーキテクチャとして定義されている。
InfiniBandアーキテクチャの核心をなすのが、RDMA(Remote Direct Memory Access)と呼ばれる技術である。これは、ネットワークを介して、あるコンピュータのメインメモリから別のコンピュータのメインメモリへ、CPUやオペレーティングシステム(OS)のカーネルを介さずに直接データを転送する仕組みだ。通常のTCP/IP通信では、データ転送の際にCPUが介在し、OS内部で複雑なプロトコル処理やメモリコピーが発生するため、遅延が大きくなりCPU負荷も高くなる。しかしRDMAを利用すると、これらの処理をネットワークアダプタ(InfiniBandではHCA:Host Channel Adapterと呼ばれる)がオフロードし、CPUを介さずにデータ転送を完了させることができる。この「カーネルバイパス」と呼ばれる特性により、マイクロ秒単位の極めて低い遅延が実現され、CPUは本来の計算処理に専念できるため、システム全体のスループットが大幅に向上する。
InfiniBandネットワークは、サーバーに搭載されるHCA、複数のHCAを相互接続するスイッチ、そしてそれらを接続するケーブルから構成される。ネットワークトポロジはスイッチドファブリックと呼ばれ、各ノードがスイッチを介してポイント・ツー・ポイントで接続される。これにより、Ethernetの共有メディア方式とは異なり、高い拡張性と耐障害性を持ちながら、ノード間の帯域を保証することが可能となる。通信プロトコルもInfiniBand独自のものが採用されており、物理層からトランスポート層まで一貫して低遅延と高信頼性を実現するように設計されている。データ転送は信頼性が高く、ハードウェアレベルでパケットの順序性やエラー検出・訂正が行われるため、TCPのような上位プロトコルでの複雑な制御が不要となり、通信オーバーヘッドが最小限に抑えられる。
InfiniBandの通信速度は世代ごとに進化しており、SDR(Single Data Rate)、DDR(Double Data Rate)、QDR(Quad Data Rate)、FDR(Fourteen Data Rate)、EDR(Enhanced Data Rate)、HDR(High Data Rate)、NDR(Next Data Rate)と高速化が進んでいる。これらの規格は、複数の通信レーンを束ねる(x4、x12など)ことで、さらに帯域幅を拡張することができる。例えば、HDRでは1レーンあたり50Gbpsの速度を持ち、4レーンを束ねることで200Gbpsという非常に高い帯域幅を実現する。
主な用途としては、前述のHPC分野が挙げられる。気象予測、ゲノム解析、物理シミュレーションといった大規模な科学技術計算では、数千から数万の計算ノードが並列で処理を行うため、ノード間の高速かつ低遅延な通信が不可欠であり、InfiniBandが標準的に採用されている。近年では、AIや機械学習の分野でもその重要性が高まっている。特に、複数のGPUサーバーを用いて大規模なモデルを学習させる分散学習環境では、GPU間で大量のデータを頻繁にやり取りする必要があるため、InfiniBandの高性能な通信能力が学習効率を大きく左右する。その他、金融取引システムにおける超低遅延の要求や、大規模データベース、高性能ストレージエリアネットワーク(SAN)の構築などにも活用されている。このようにInfiniBandは、汎用的なEthernetとは一線を画し、極限の性能が求められるコンピューティング環境を支えるための専用通信技術として確固たる地位を築いている。