INSネット(インスネット)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
INSネット(インスネット)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
INSネット (インスネット)
英語表記
INS-Net (インスネット)
用語解説
INSネットは、NTTが提供していたISDNサービスのブランド名である。ISDNは「Integrated Services Digital Network」の略称で、日本語では「サービス総合デジタル網」と訳される。これは、従来のアナログ電話回線(メタル回線)をデジタル化し、1本の回線で音声通話、データ通信、FAXなど複数のサービスを統合して利用できるようにした通信技術である。1988年にサービスが開始され、特に1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネットが一般に普及し始めた時期に広く利用された。当時の主流であったアナログモデムによるダイヤルアップ接続に比べ、高速で安定した通信が可能であったため、個人のインターネット利用や企業のデータ通信基盤として重要な役割を担った。しかし、ADSLや光ファイバー(FTTH)といった、より高速なブロードバンド回線が普及するにつれて利用者は減少し、その役割を終え、2024年1月には主要なデータ通信サービスが終了した。
INSネットの技術的な詳細を理解する上で重要なのが、その回線構成である。一般家庭や小規模事業所向けに提供された基本インターフェース(BRI)は、「2B+D」という構成を持っていた。これは、2本のBチャネルと1本のDチャネルから成ることを意味する。Bチャネルは、音声やデータを伝送するための主要な通信路であり、1本あたり64kbpsの通信速度を持つ。これが2本あるため、例えば1本を音声通話に使いながら、もう1本でインターネットに接続するといった同時利用が可能であった。これが、アナログ回線では実現できなかったINSネットの大きな特徴である。また、この2本のBチャネルを束ねて同期させることで、最大128kbpsのデータ通信を行うことも可能であり、当時のインターネット接続環境としては画期的な速度を実現していた。一方、Dチャネルは16kbpsの速度を持ち、主に通信の接続や切断を制御するための信号をやりとりする役割を担っていた。この制御信号専用のチャネルがあることで、Bチャネルの通信に影響を与えることなく、迅速な発信や着信処理が可能となっていた。
INSネットの利用シーンは多岐にわたった。個人の利用では、快適なインターネット接続環境の提供が主であった。アナログモデムのように接続時に特有の電子音が発生せず、接続も比較的速やかに行われた。企業利用においては、その安定性と信頼性から、より重要な業務に活用された。例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットのPOS(販売時点情報管理)システムでは、クレジットカードの信用情報を照会するための通信回線として広く採用された。また、企業間で受発注データなどを電子的に交換するEDI(電子データ交換)システムの通信基盤や、災害時などに備えて主回線が切断された際のバックアップ回線としても重宝された。これらの用途では、高速性よりも確実な接続性が求められたため、デジタル回線であるINSネットは最適な選択肢とされた。
INSネットを利用するためには、専用の機器が必要であった。まず、NTTの回線と宅内設備を接続するDSU(回線終端装置)が設置される。そして、パソコンなどのデジタル機器をISDN回線に接続するために、TA(ターミナルアダプタ)という機器が用いられた。TAには、パソコンを接続するポートの他に、アナログ電話機を接続するためのポートを備えたものも多く、既存の電話機をそのまま利用することができた。
長年にわたり日本の通信インフラを支えてきたINSネットであるが、技術の進歩と利用環境の変化に伴い、サービス形態の大幅な見直しが行われた。背景には、設備の老朽化と、より高速で安価なブロードバンド回線への移行がある。NTTは公衆交換電話網(PSTN)全体をIP網へ移行する計画を進めており、その一環としてINSネットのサービスも整理されることとなった。そして、2024年1月をもって、データ通信で主に利用されてきた「ディジタル通信モード」のサービス提供が終了した。これにより、前述のPOSシステムやEDIなど、特定の業務でINSネットを利用し続けていたシステムは、後継サービスへの移行やシステムの改修を迫られることになった。なお、音声通話で利用される「通話モード」については、IP網上でサービスが継続されている。システムエンジニアを目指す者にとって、INSネットは過去の技術ではあるが、企業の基幹システムや社会インフラの中には、こうしたレガシーな技術が今なお稼働している場合がある。システムの保守や更改に携わる上で、その仕組みやサービス移行の経緯を理解しておくことは、非常に重要であると言える。