LOB(エルオービー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
LOB(エルオービー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
基幹業務 (キカンギョウム)
英語表記
Line of Business (ライン オブ ビジネス)
用語解説
LOBとは、Line of Businessの略称である。直訳すると「事業の系列」や「事業分野」となり、企業が展開する主要な事業部門や、その事業内容そのものを指す言葉だ。元々はビジネス用語として使われていたが、ITの分野、特にエンタープライズシステム(企業向けシステム)の世界では、企業の基幹業務を支えるアプリケーションやシステム群を指す言葉として広く用いられている。システムエンジニアを目指す者にとって、LOBは顧客のビジネスの根幹を理解し、適切なシステムを構築するために不可欠な概念である。
LOBは、企業が収益を生み出すための中心的な活動を意味する。例えば、製造業であれば製品の設計、製造、販売がLOBにあたり、金融機関であれば預金、貸付、為替といった業務がLOBとなる。一方で、人事、総務、経理といった部門は、企業活動に不可欠ではあるものの、直接的に収益を生み出す活動ではないため、バックオフィス業務としてLOBとは区別されることが多い。ただし、どの範囲をLOBと定義するかは企業や文脈によって異なる場合があるため、注意が必要だ。重要なのは、LOBがその企業の「本業」であり、事業の存続と成長に直結する活動であるという点である。
ITの文脈で語られるLOBは、多くの場合「LOBアプリケーション」または「LOBシステム」を指す。これは、前述したような企業の基幹業務をコンピュータ上で実現し、効率化・自動化するために開発された専用のソフトウェアのことだ。LOBアプリケーションは、市販のパッケージソフトウェアをカスタマイズして導入する場合もあれば、企業の独自の業務プロセスに合わせてゼロから開発(スクラッチ開発)される場合もある。これらのアプリケーションは、企業の競争力の源泉となる重要なIT資産と位置づけられる。
LOBアプリケーションの代表例として、ERP(Enterprise Resource Planning)、CRM(Customer Relationship Management)、SCM(Supply Chain Management)などが挙げられる。ERPは、企業の持つ資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を一元的に管理し、経営の意思決定を支援する統合基幹業務システムである。生産、販売、在庫、購買、会計、人事といった企業の様々な業務を統合的に扱うため、最も包括的なLOBアプリケーションと言える。CRMは、顧客情報や商談の進捗、問い合わせ履歴などを管理し、顧客との関係性を強化することで、売上の向上や顧客満足度の向上を目指すシステムである。SCMは、原材料の調達から製品の製造、物流、販売に至るまでの一連の流れ(サプライチェーン)を最適化し、コスト削減やリードタイムの短縮を実現するためのシステムだ。これら以外にも、特定の業界に特化したLOBアプリケーションも数多く存在する。例えば、銀行の勘定系システム、保険会社の契約管理システム、病院の電子カルテシステムなどがそれに該当する。これらのシステムは、それぞれの業界の根幹業務を支えるために不可欠な存在である。
LOBアプリケーションには、一般的なアプリケーションとは異なるいくつかの重要な特徴がある。第一に、極めて高い信頼性と可用性が求められる点だ。LOBアプリケーションが停止することは、企業の主要な事業活動が停止することを意味し、莫大な金銭的損失や信用の失墜につながる。そのため、24時間365日、安定して稼働し続けることが大前提となる。第二に、データの完全性と整合性の担保が不可欠であること。LOBアプリケーションが扱うのは、顧客データ、取引データ、在庫データといった企業の生命線ともいえる情報だ。これらのデータに誤りや矛盾があれば、業務に深刻な支障をきたすため、厳格なデータ管理が求められる。第三に、高度なセキュリティが必要とされる点だ。企業の機密情報や顧客の個人情報を扱うため、不正アクセスや情報漏洩を防ぐための万全な対策が施されなければならない。第四に、業務ロジックが非常に複雑であること。各企業の長年の歴史の中で培われてきた独自の業務ルールや複雑なプロセスをシステムに反映させる必要があるため、その内部構造は複雑化する傾向にある。そして最後に、他のシステムとの連携が必須であること。LOBアプリケーションは単独で機能することは稀で、会計システムやデータ分析基盤、外部のパートナー企業のシステムなど、様々なシステムとデータをやり取りしながら動作する。
システムエンジニアにとって、LOBを理解することは極めて重要だ。LOB関連のシステム開発プロジェクトは規模が大きく、企業のビジネスに与える影響も甚大であるため、多くのエンジニアがキャリアの中で関わることになる。このようなプロジェクトにおいてエンジニアに求められるのは、プログラミングやデータベースといった技術的なスキルだけではない。顧客がどのような事業を行い、どのようにして収益を上げているのか、その業務プロセスにはどのような課題があるのかといった、ビジネスそのものへの深い理解、すなわち「ドメイン知識」が不可欠となる。顧客の業務を理解して初めて、真に価値のあるシステム要件を定義し、最適な設計を行い、品質の高いアプリケーションを構築することができる。LOBの概念を正しく把握することは、技術者として顧客のビジネスに貢献し、信頼されるパートナーとなるための第一歩なのである。