【ITニュース解説】Deployments in the Agentic Era
2025年09月17日に「Dev.to」が公開したITニュース「Deployments in the Agentic Era」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
AI製品が機密データを扱う「エージェント時代」では、データの安全管理と信頼が最重要だ。顧客はAI製品を自社クラウドで動かし、セキュリティを管理したいと考える。Defangは、AIアプリを顧客クラウドへ自動で安全に展開し、データ主権を尊重。信頼されるAI導入を可能にし、これがAI普及の鍵となる。
ITニュース解説
ソフトウェア業界はこれまで、製品がどのように提供され、どのように信頼されるかについて、いくつかの大きな変化を経験してきた。これらの変化は、私たちが日々利用するアプリケーションの形態と、それらが企業や個人のデータをどう扱うかに直接影響を与えてきた。
まず、2000年頃の「クライアント・サーバー時代」を振り返る。この頃の代表的なアプリケーション、例えばSAPやPeopleSoftのようなものは、顧客が自社のデータセンターやオフィス内にサーバーや関連機器を購入し、そこにソフトウェアをインストールして運用していた。この方式では、顧客自身がすべてのインフラを管理し、システムの運用責任を負っていた。ハードウェアの調達から、システムのセットアップ、ソフトウェアの導入まで、多岐にわたる複雑な作業を自社で行う必要があったが、その反面、データは自社の管理下にあり、強いコントロール感があった。
次に、2010年代に入ると、「SaaS(Software as a Service)時代」が到来する。SalesforceやWorkdayのようなアプリケーションがその代表で、これらのソフトウェアはプロバイダー(サービス提供者)が管理するクラウド上で動作し、ユーザーはWebブラウザを通じてアクセスするだけで利用できるようになった。このSaaSモデルは、顧客側がシステムの運用やメンテナンスを行う必要がなくなるため、非常に便利だった。しかし、顧客のデータはすべてプロバイダーのクラウド環境に保存されるため、データの所有権や利用ルールが不明確になるという課題も生まれた。顧客は便利さを享受する一方で、データの管理に関するコントロールの一部を手放すことになったのだ。
そして現在、私たちは「エージェンティック時代」と呼ばれる新たな時代へと足を踏み入れている。この時代を特徴づけるのは、AI(人工知能)プロダクトの進化だ。これらのAIプロダクトは、これまでにないほど生産性を向上させる可能性を秘めているが、そのために必要とするのは、企業の最も機密性の高いデータ、例えば日々の会話記録、重要な文書、意思決定プロセスに関する情報などである。顧客は、このような極めて重要なデータを、見知らぬ外部プロバイダーの環境に預けることには強い抵抗を感じる。代わりに、彼らはAIプロダクトが、自分たちの管理するクラウドアカウント(AWS、GCP、Azureなど)の中で動作し、自社のセキュリティ基準やコンプライアンス(法令遵守)要件の下で運用されることを強く求めるようになった。
これは単なる小さな調整ではなく、次世代のソフトウェアがどのように信頼され、普及していくかの根本的な基盤となる考え方である。AIプロダクトは、単にワークフローを管理するSaaSツールとは性質が異なる。これらは企業の「宝物」とも言える重要なデータを取り込み、それに基づいて能動的に行動するため、デプロイ(配置・運用)のルールが大きく変わる。
エージェンティック時代において、AIプロダクトが成功するためには、三つの条件を満たす必要がある。第一に、顧客の機密データは、その顧客の環境から外に出ることなく、常に顧客の管理下に留まらなければならない。これは情報漏洩のリスクを防ぎ、顧客の信頼を得る上で不可欠だ。第二に、AIプロダクトは、AWS、GCP、Azureといった特定のクラウド環境に依存するのではなく、顧客が利用しているあらゆるクラウド上で動作できる柔軟性を持たなければならない。第三に、システムの導入当初から、アクセス管理、ネットワーク設定、セキュリティポリシーといったセキュリティとコンプライアンスに関する仕組みが適切に組み込まれている必要がある。これらは技術的な詳細というよりも、AIプロダクトがそもそも社会に受け入れられるかどうかの「信頼の土台」を形成する要素である。
具体的な事例として、「ekai」というAIデジタルツインがある。これは会議の記録から重要なタスクを抽出し、チャットツールと連携して生産性向上を支援するプロダクトだ。ekaiが顧客から信頼されるためには、その顧客自身のクラウドアカウント内で動作することが絶対条件だった。ekaiの開発チームは、どのクラウド環境でも一貫した信頼性の高い運用を可能にするデプロイソリューションを必要としていた。しかし、顧客ごとに異なるAWS、GCPといった環境に合わせて、個別のデプロイ設定を何週間もかけて手作業で行うのは現実的ではなかった。
そこで登場したのが「Defang」というサービスだ。Defangを利用することで、ekaiの開発チームはDocker Composeという共通の記述形式を使って、アプリケーションの構成を一度だけ定義する。Defangはこの定義をもとに、顧客自身のクラウドアカウント内に、本番運用に適した環境を自動的に準備する。具体的には、アプリケーションを動かすための計算資源(コンピュート)、データを保存する場所(ストレージ)、ネットワークの設定、誰が何にアクセスできるかを管理する権限(IAMロール)、外部からの不正アクセスを防ぐための設定(セキュリティグループ)、さらには大規模言語モデル(LLM)の利用環境までが、各クラウドの最適な方法に従って自動的に構築される。これまで何週間もかかっていた作業が、Defangを使うことで数時間に短縮され、しかもデプロイされた環境は、常にセキュアでコンプライアンスに準拠し、顧客自身の管理下にあるものとなる。
ekaiの事例は、エージェンティック時代が何を求めているのかを示す一例に過ぎない。AIプロダクトが企業のより中核的な業務に入り込むにつれて、製品の機能だけでなく、それが「どのようにデプロイされるか」が、そのプロダクトが採用されるか否かを決定する。Defangは、この新しい時代の要求に応えるために存在している。Defangは、CrewAI、LangGraph、AutoGenといった様々なAIアプリケーションフレームワークで開発されたアプリを、一度の定義で、どのクラウドにも単一のステップでデプロイすることを可能にする。これにより、顧客データは常に顧客の環境内に留まり、クラウドの特性を最大限に活かした最適な運用が自動的に行われる。
かつてSaaSプラットフォームがクラウド利用の拡大を後押ししたように、Defangは「顧客が主導権を持つAI」の普及を支える基盤となる。エージェンティック時代においては、プロダクトの機能の素晴らしさだけでなく、いかに「信頼」を築くかが製品の価値を決定する。データの所有権を尊重し、セキュアでクラウドの特性を活かしたデプロイメントを提供できる企業だけが、顧客の信頼を勝ち取り、成長していくことができるだろう。そうでない企業は、この新たな流れから取り残されてしまうかもしれない。Defangは、まさにこのエージェンティック時代を陰で支える重要なインフラなのである。