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【ITニュース解説】The AI That Learns Without Labels

2025年09月09日に「Medium」が公開したITニュース「The AI That Learns Without Labels」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

AIが正解ラベルなしで学習する新技術「グラフ対照学習」が注目されている。データ間の関係性を比較し、似ている点や違う点を見つけ出すことで、AIが自ら複雑な構造を理解する手法だ。

出典: The AI That Learns Without Labels | Medium公開日:

ITニュース解説

従来の人工知能(AI)開発において主流であったのは、「教師あり学習」と呼ばれる手法だ。これは、AIに学習させたいデータに対して、人間が一つひとつ「これは猫の写真です」「この文章は肯定的な意見です」といった正解ラベルを付け、その大量のラベル付きデータを学習させる方法である。このアプローチは高い精度を実現する一方で、ラベル付けの作業に膨大な時間と人件費がかかるという大きな課題を抱えていた。現実世界に存在するデータの大部分はラベルが付いていないため、その豊富な情報を活用しきれていないという問題もあった。

この課題を克服するため、ラベルのないデータからAIが自律的にパターンや構造を見つけ出す「教師なし学習」というアプローチが注目されている。その中でも特に大きな可能性を秘めているのが、「グラフ対照学習(Graph Contrastive Learning, GCL)」という技術だ。世の中の多くの事象は、個々の要素(ノード)とそれらの関係性(エッジ)で表現される「グラフ構造」として捉えることができる。例えば、ソーシャルネットワークにおけるユーザーと友人関係、化学における原子と分子結合、交通網における都市と道路網などがこれにあたる。グラフ対照学習は、こうした複雑な関係性を持つラベルなしのグラフデータから、AIがその本質的な意味を理解するための画期的な手法である。

グラフ対照学習の基本的な考え方は、「意味的に似ているものは近くに、似ていないものは遠くに配置する」という原則に基づいている。AIは、グラフの各要素やグラフ全体を、コンピュータが処理しやすい数値の集まり(ベクトル表現)に変換する。その上で、関連性の高いデータ同士のベクトルが似た値になるように、逆に関連性のないデータ同士は全く異なる値になるように学習を進めていく。

しかし、正解ラベルがない状態で、どのようにして「似ている」と「似ていない」を判断するのだろうか。ここにグラフ対照学習の核心がある。まず、元のグラフデータに対して、一部のノードやエッジをランダムに削除したり、少しだけ構造を変えたりといった軽微な変更を加え、元のデータと似ているが完全には同一ではない、複数の「ビュー(視点)」を人工的に生成する。この処理はデータ拡張と呼ばれる。元のデータから派生したビューは、本質的には同じものを表しているため、「似ているペア(正例)」と見なすことができる。一方で、全く異なるグラフデータから生成されたビュー同士は「似ていないペア(負例)」として扱う。

次に、グラフニューラルネットワーク(GNN)のようなモデルを使い、生成した各ビューを数値ベクトルに変換する。そして、「対照損失」という指標を用いてモデルの学習を行う。この指標は、正例ペアのベクトル表現同士の差が小さく(距離が近く)なるように、そして負例ペアのベクトル表現同士の差が大きく(距離が遠く)なるようにモデルのパラメータを調整する役割を担う。この「近づける・遠ざける」というプロセスを大量のデータで繰り返すことにより、AIは人間が正解を与えなくても、グラフのどの部分が構造的に重要なのか、どのノードが似た役割を担っているのかといった、データの内在的な特徴を自ら学んでいくことができるのである。

この技術がもたらす最大の利点は、データ準備のコストを劇的に削減できることだ。人間によるラベル付けが不要になるため、これまで活用が難しかった膨大な量のグラフ構造データをAIの学習に利用できるようになる。また、この方法で学習したモデルは、特定のタスクに限定されない汎用的な特徴を獲得しているため、その後の様々な応用タスク、例えば特定のノードの分類、未知の関係性の予測、あるいはグラフ内のコミュニティ検出などに、少ない追加学習で対応することが可能だ。

グラフ対照学習の応用範囲は非常に広い。創薬の分野では、化合物の分子構造をグラフとして分析し、薬効を持つ可能性のある構造的特徴を学習させることで、新薬開発の効率を大幅に向上させることが期待されている。金融業界では、取引ネットワークをグラフとして捉え、不正取引やマネーロンダリングに繋がりうる異常なパターンを自動で検出することに応用できる。その他にも、精度の高い推薦システムやソーシャルネットワークの分析など、複雑な関係性が存在するあらゆる領域での活用が見込まれている。このように、グラフ対照学習は、AIがより自律的に世界の構造を理解するための重要な技術であり、今後のAI技術の発展と応用範囲の拡大を牽引していく存在と言えるだろう。

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