【ITニュース解説】Why AWS diagrams don’t work

2025年09月09日に「Medium」が公開したITニュース「Why AWS diagrams don’t work」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

従来のAWS構成図は、個々のサービスに焦点が当たりすぎ、システム全体の繋がりやビジネス文脈が不明確になる。また、手動更新のため陳腐化しやすいという課題がある。抽象度を分けた図で管理する手法が有効だ。

出典: Why AWS diagrams don’t work | Medium公開日:

ITニュース解説

クラウドサービス、特にAWS(Amazon Web Services)を利用してシステムを構築する際、その構成を図に描いて示すことは、チーム内での情報共有や設計のレビューにおいて不可欠な作業である。しかし、従来の静的な構成図は、現代の複雑で変化の速いシステム開発において、多くの課題を抱えている。これらの課題は、システムの正しい理解を妨げ、開発の効率を低下させる原因となりうる。なぜ従来のAWS構成図は十分に機能しないのか、そして今後どのようなアプローチが求められるのかを解説する。

第一に、構成図がすぐに古くなる「陳腐化」の問題がある。システムは一度構築したら終わりではなく、機能追加やパフォーマンス改善、セキュリティ強化などのために、そのインフラ構成は日々変化する。手作業で作成された構成図は、こうした変更が発生するたびに手動で更新する必要があるが、開発のスピードが優先される現場では、ドキュメントの更新は後回しにされがちである。その結果、構成図と実際のシステムの状態との間に乖離が生まれ、図は信頼性を失ってしまう。新しいメンバーがチームに参加した際、古い構成図を渡されることで、システムについて誤った理解をしてしまうリスクも高まる。

第二に、見る人の立場によって必要な情報の粒度が異なるという問題がある。例えば、プロジェクトマネージャーや経営層は、システム全体の構成やサービス間の関連性といった高レベルな視点を求める。一方で、開発者やインフラ担当者は、特定のサーバーのスペックやネットワーク設定、データベースのパラメータといった詳細な情報を必要とする。これら全ての情報を一枚の図に詰め込もうとすると、線やアイコンが密集し、極めて複雑で理解しにくいものになる。逆に、全体像を重視して詳細を省略すると、技術的な議論や問題解決の役には立たない、内容の薄い図になってしまう。全ての関係者を満足させる「万能な一枚の図」を作成することは、事実上不可能なのである。

第三に、構成図には「なぜ」その構成になっているのかという文脈、すなわちコンテキストが欠けていることが多い。図は、どのサービスがどこに配置されているかという「何があるか」は示してくれるが、「なぜそのサービスが選ばれたのか」「ビジネス上のどの要求を満たすためにそのように設計されたのか」といった背景情報までは表現できない。このコンテキストが欠落していると、システムの設計思想や意図が伝わりにくくなる。特に、システムの保守・運用を後から引き継いだ担当者にとっては、各コンポーネントの役割を正しく理解することが困難になり、適切な改修やトラブルシューティングの妨げとなる。

第四に、従来の構成図は情報伝達が一方通行であるという限界を持つ。静的な画像や文書として作られた図は、基本的に閲覧者が受け身で情報を得るためのツールである。図を見ていて「このAPIゲートウェイはどのLambda関数を呼び出しているのか」「このデータベースのバックアップ設定はどうなっているのか」といった疑問が浮かんでも、その図からさらに情報を深掘りすることはできない。結局、別のドキュメントを探したり、詳しい人に直接質問したりする必要があり、効率的な情報収集とは言えない。

これらの課題を克服するため、静的な「図」を作成するのではなく、動的で対話的な「モデル」としてシステムを捉える新しいアプローチが求められている。このアプローチの核心は、システム構成を常に正確かつ多角的に把握できるようにすることにある。その実現にはいくつかの重要な要素がある。

一つ目は、実際の環境との自動的な同期である。手作業での更新による陳腐化を防ぐため、TerraformやCloudFormationといったIaC(Infrastructure as Code)のコードを直接解析し、そこから構成モデルを自動的に生成・更新する仕組みが重要となる。コードは常にシステムの「正」となる情報源であるため、そこからモデルを生成することで、ドキュメントと実際の環境との乖離を根本的になくすことができる。これにより、誰もが常に最新かつ正確なシステム構成を把握することが可能になる。

二つ目は、異なる抽象度でシステムを可視化できる多層的なビューの提供である。全ての情報を一枚に押し込めるのではなく、ユーザーが必要に応じて情報の粒度を自由に切り替えられる機能が求められる。例えば、最初はシステム全体のサービス連携を示す高レベルなビューから始め、関心のある特定のサービスをクリックすると、その内部コンポーネントのビューに切り替わり、さらにドリルダウンすると個別のリソースの詳細設定まで確認できる、といった具合である。これにより、経営者から開発者まで、それぞれの目的に応じて最適なレベルでシステムを理解できるようになる。

三つ目は、コンテキストの付与と探索可能性の実現である。モデル内の各要素に対して、その役割や設計意図、関連するドキュメントへのリンク、担当チームといった付加情報を記録できるようにする。これにより、単なる構成の羅列ではなく、システムの背景にある思想まで含めた深い理解が促進される。さらに、モデル上のある要素をクリックすると、それに関連する情報がハイライトされたり、接続先の要素へジャンプしたりといった、能動的に情報を探索できるインタラクティブな機能も不可欠である。これにより、受動的に図を眺めるのではなく、自らシステムを探検するようにして理解を深めていくことが可能になる。

現代のクラウドシステムはますます複雑化し、その変化のスピードも加速している。このような環境において、手作業で作成・更新される静的な構成図は、その役割を十分に果たせなくなりつつある。これからのシステム開発と運用においては、実際のコードと連動して常に最新の状態を保ち、様々な立場の人々がそれぞれの視点から対話的に探索できる「生きたドキュメント」としてのシステムモデルが不可欠となる。システムエンジニアを目指す者として、単に図を描くスキルだけでなく、こうした新しいツールや考え方を理解し、活用していく能力が、効率的な開発とチーム全体の共通理解を築く上で極めて重要になっていくだろう。