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【ITニュース解説】Clojure's Solutions to the Expression Problem

2025年09月12日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Clojure's Solutions to the Expression Problem」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

Clojureは、プログラミングにおける「Expression Problem」に対し、独自の解決策を提示している。これは、既存のコードに影響を与えずデータ型や操作を柔軟に追加できる機能で、システムの拡張性を高めるのに役立つ。

ITニュース解説

システムエンジニアを目指す初心者の皆さんにとって、プログラミングの世界で頻繁に耳にする概念の中に、「Expression Problem(表現の問題)」というものがある。これは、プログラムを構成する二つの主要な要素、すなわち「データ型」と「操作」を拡張していく際に、どちらか一方の拡張は容易でも、もう一方の拡張が困難になるという、ソフトウェア設計上の普遍的な課題を指すものだ。

具体的に考えてみよう。プログラムを作る際、我々はまず扱う「モノ」、つまりデータの種類を定義する。例えば、数値や文字列、あるいはより複雑な「ユーザー」や「商品」といったオブジェクトだ。そして、これらのデータに対して行う「コト」、つまり操作や処理を定義する。例えば、数値を足し合わせる、ユーザー情報を表示する、商品をデータベースに保存するといった操作がそれに当たる。

このデータ型と操作という二つの軸でプログラムを拡張していくとき、しばしばトレードオフに直面する。伝統的なオブジェクト指向プログラミング(OOP)では、新しいデータ型(クラス)を追加することは比較的容易だ。新しいクラスを作成し、既存のデータ型を壊すことなく、新しい「モノ」をプログラムに組み込める。しかし、既存のデータ型に対して新しい操作を追加しようとすると、話は難しくなる。例えば、既存の全てのクラスに新しいメソッドを追加する必要が生じ、これはコードの広範囲な変更を伴い、手間もバグのリスクも増大させる。

一方で、関数型プログラミング(FP)のアプローチでは、この状況は逆転する。関数型プログラミングでは、操作(関数)が中心的な役割を果たす。新しい操作を追加することは、新しい関数を作成するだけで済むため、非常に容易だ。しかし、新しいデータ型を追加しようとすると、既存の多くの関数が、その新しいデータ型を適切に処理できるように修正する必要が生じる。これもまた、広範囲なコード変更を意味し、新たな課題を生み出す。

つまり、Expression Problemとは、新しい「モノ」(データ型)を追加するのも、新しい「コト」(操作)を追加するのも、どちらも柔軟に、かつ安全に行いたいという理想に対し、特定のプログラミングパラダイムでは片方の拡張しか得意ではないというジレンマなのだ。

Clojureは、このExpression Problemに対して、複数の強力な解決策を提供している。ClojureはLisp系の関数型言語でありながら、Java仮想マシン(JVM)上で動作するため、オブジェクト指向的な側面も持ち合わせている。このハイブリッドな性質と、独自の設計思想が、問題解決の鍵となる。

Clojureが提供する主要な解決策の一つは、「プロトコル(Protocols)」である。プロトコルは、特定の操作の集合を定義するもので、Javaのインターフェースに似ている。しかし、決定的に異なるのは、プロトコルを既存のデータ型に「後から」実装できる点だ。通常のオブジェクト指向では、クラスを作成する際にそのクラスが実装するインターフェースを指定する必要があるが、Clojureのプロトコルは、既存のクラスやClojureのデータ構造(マップ、ベクターなど)に対して、新たに定義したプロトコルを実装できる。これにより、プログラムのソースコードを修正することなく、新しい操作を既存のデータ型に適用することが可能になる。これは、オブジェクト指向の弱点、すなわち新しい操作の追加の困難さを克服する強力な手段となる。新しい操作が必要になった際に、既存のデータ型の定義に手を加えるのではなく、その操作を定義するプロトコルを作成し、既存の型に適用するだけで済むのだ。

二つ目の重要な解決策は、「マルチメソッド(Multimethods)」だ。通常のプログラミング言語におけるメソッドは、通常、レシーバオブジェクト(メソッドを呼び出す対象のオブジェクト)の型に基づいてどの実装を使うかを選び出す(これを「単一ディスパッチ」と呼ぶ)。しかし、マルチメソッドは、複数の引数の型や値に基づいて、どの実装を実行するかを決定できる。例えば、ある操作が二つの異なるデータ型を引数として受け取る場合、その二つの型の組み合わせによって実行されるロジックを分岐させることができるのだ。これは、特定のデータ型に強く結びついた操作ではなく、複数のデータ型やその複雑な組み合わせに対して柔軟な操作を定義したい場合に非常に有効だ。マルチメソッドは、データ型と操作の分離を促進し、特定の型に縛られずに新しい操作を追加できるため、関数型プログラミングの弱点、すなわち新しいデータ型の追加の困難さに対処する一助ともなる。

そして、これらの機能の根底には、Clojureの「データ指向プログラミング」という思想がある。Clojureは、データそのものを中心に考える。データは、シンプルなマップ、リスト、ベクターといった普遍的な構造で表現される。これらのデータ構造は「オープン」であり、自由に拡張したり、異なる方法で解釈したりできる。操作もまた「オープン」な関数として定義され、特定のデータ型に強く結びつくことなく、汎用的にデータを処理できる。データと操作を明確に分離し、それぞれの独立性を高めることで、Clojureは、新しいデータ型が必要になったときも、新しい操作が必要になったときも、既存のコードに与える影響を最小限に抑えながら、柔軟にプログラムを拡張できる環境を提供する。

Clojureのプロトコル、マルチメソッド、そしてデータ指向プログラミングの組み合わせは、Expression Problemに対する多角的かつ強力なアプローチを提供している。これにより、システムエンジニアを目指す皆さんが将来直面するであろう、プログラムの拡張性と保守性に関する課題を、より効率的かつエレガントに解決するための道筋を示してくれるだろう。データと操作の拡張性を両立させるClojureの設計は、現代の複雑なソフトウェア開発において非常に価値のあるものとなっている。

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