【ITニュース解説】Data Silos: Why Teams Keep Drowning in Their Own Information
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「Data Silos: Why Teams Keep Drowning in Their Own Information」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
「データサイロ」は、部署ごとにデータがバラバラに保管される問題だ。情報の重複や不整合を招き、生産性を低下させる。解決するには、S3バケット等の保管場所を一つに定め(Source of Truth)、アクセス権限を管理し、データを一元化することが重要となる。
ITニュース解説
ある企業のサポート担当者が、顧客から過去の請求書を求められたとしよう。担当者はいつも使っているデータ保管場所を探すが、目当てのファイルが見つからない。慌てて財務部門や開発部門に問い合わせると、それぞれが別の保管場所を持っており、どこに最新かつ正確なデータがあるのか誰も即答できない。このような事態は、多くの組織で起こりうる問題であり、その根本原因は「データサイロ」と呼ばれる現象にある。データサイロとは、組織内の部署やチームがそれぞれ独自にデータを管理し、その情報が他の部署と分断され、孤立してしまっている状態を指す。データがサイロ(穀物を貯蔵する塔)のように縦割りで保管され、横の連携が取れていない状況である。この問題は、システムの性能不足ではなく、データの管理方法、つまり組織のプロセスに起因することが多い。
データサイロが存在すると、企業活動に多くの弊害をもたらす。まず、同じ情報が複数の場所に重複して存在することになる。これにより、どれが最新で正しいバージョンなのかが分からなくなり、誤ったデータに基づいて業務を進めてしまうリスクが高まる。また、各部門でデータの管理形式、例えばファイルに付与するメタデータ(作成日や担当者などの付帯情報)の付け方が異なると、データを横断的に検索したり分析したりすることが困難になる。さらに、どのデータが公式なものかという責任の所在が曖昧になり、データの品質を誰も保証できなくなる。こうした混乱は、業務の非効率化を招き、多くの時間とコストを浪費させる。エンジニアは重複したデータの整理に追われ、経営層は信頼性の低いデータしか得られないため、的確な経営戦略を立てることが難しくなる。最終的には、顧客への対応が遅れたり、誤った情報を提供してしまったりすることで、企業全体の信頼を損なうことにもつながる。
今回の事例では、Amazon Web Services (AWS) が提供するクラウドストレージサービスである「S3バケット」がデータの保管場所として使われていた。S3バケットは、インターネット上にファイルやデータを安全かつ大量に保管できるサービスであり、現代のシステム開発において非常に広く利用されている。しかし、この便利なツールも、使い方を誤るとデータサイロを生み出す原因となりうる。問題の解決策は、技術的なツールそのものではなく、その使い方にある。ここで重要になるのが、「信頼できる唯一の情報源(Source of Truth)」という考え方だ。これは、ある特定のデータについて、組織内で「これが正しく、公式なデータである」と定められた唯一の場所やバージョンを指す。すべての人がこの情報源を参照することで、データの重複や不整合を防ぎ、常に正確な情報に基づいた意思決定や業務遂行が可能になる。データサイロを解消するためには、まずこの「信頼できる唯一の情報源」を組織として明確に定義することが第一歩となる。
データサイロを解消し、信頼できる唯一の情報源を確立するためには、体系的なアプローチが必要だ。まず初めに、組織内にどのようなS3バケットが存在し、それぞれに何が保管されているのかを完全に把握する「棚卸し」を行う。これにより、データの散在状況を可視化する。次に、その中から一つのS3バケットを公式なデータの保管場所、つまり「信頼できる唯一の情報源」として指定し、その決定を組織全体で共有する。方針が固まったら、各所に散らばっているデータを、定義した唯一の保管場所に集約する「移行作業」を実施する。この際、重複しているデータについては、更新日時や業務ルールに基づいてどちらを残すかを判断し、整理する必要がある。データ集約が完了したら、今後再びサイロが生まれないようにするための再発防止策を講じる。具体的には、S3バケットのアクセスポリシーを設定し、新しいバケットを自由に作成できる権限を制限したり、公式な保管場所以外へのデータ保存を禁止したりするルールを設ける。最後に、データの安全性を確保し、継続的に管理していくための仕組みを整える。ファイルの変更履歴を追跡できるバージョニング機能を有効にしたり、誰がいつデータにアクセスしたかを記録するログを取得したりする。また、災害対策やデータの可用性を高めるために、データを別の地域(リージョン)に自動で複製する設定を施すことも有効な手段である。
S3バケットのような便利なクラウドサービスが、データサイロ問題の直接的な原因ではない。問題の本質は、各チームが組織全体の視点を持たず、自身の問題を個別に解決しようとした結果、データの管理が分断されてしまったことにある。解決策は、より多くのストレージを用意することではなく、組織としての連携を強化し、データ管理に関する統一された方針を確立することだ。信頼できる唯一の情報源を定め、明確なアクセスポリシーを適用し、継続的な監視を行うことで、データは組織内をスムーズに流れ始め、業務効率とデータの信頼性は劇的に向上する。システムエンジニアには、単に技術を導入するだけでなく、このような組織のプロセスに潜む課題を発見し、技術を用いて解決に導く能力が求められている。データサイロの問題を理解し、その解決策を実践することは、エンジニアとしての価値を高める重要なスキルと言えるだろう。