【ITニュース解説】Extractly - Turn PDFs into Data
2025年09月15日に「Dev.to」が公開したITニュース「Extractly - Turn PDFs into Data」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
AIプラットフォーム「Extractly」は、PDFからテキスト、表、グラフを正確なフォーマットで抽出する。特に複雑な財務資料などで崩れやすい表構造も忠実に再現。これにより、企業は高品質なデータを効率的に取得でき、AI開発やデータ分析の基盤を強化し、信頼性の高いシステム構築に貢献する。
ITニュース解説
Extractlyは、PDF形式の文書からテキスト、テーブル、グラフといった情報をAI(人工知能)の力を使って正確に抽出し、その元のフォーマットや表現をそのまま保つことを目的とした画期的なプラットフォームだ。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この技術がどのような課題を解決し、どのような可能性を秘めているのかを理解することは非常に重要だ。
私たちが日常的に目にするPDFファイルは、見た目には整っていても、その中身の情報をコンピューターが直接理解できる「構造化されたデータ」として取り出すのは非常に難しい。特に、金融機関の開示書類、企業の財務報告書、法務関連の契約書、あるいは医療機関の研究データといった複雑なPDFは、多くの挑戦を伴う。これらの文書には、多数の表やグラフ、そして複雑なレイアウトが用いられており、通常のオープンソースライブラリや一般的な抽出ツールでは、セルの結合が崩れたり、数値の並びがずれたり、さらには文書全体の意味が失われたりすることが頻繁に発生する。これは、情報を誤って解釈してしまうことにつながり、その後のデータ分析や意思決定に深刻な影響を及ぼしかねない。
Extractlyは、まさにこの問題を解決するために開発された。このプラットフォームの最大の特長は、複雑なテーブル構造や書式設定を驚くほど正確に維持できる点にある。例えば、金融関連の表でわずかな数値のずれや列の不整合があっただけでも、その表が示す意味合いは大きく変わってしまう。このようなデータの「忠実性」を保つことは、特に、その抽出されたデータをもとに次の処理を行うアプリケーション、例えばRAG(Retrieval Augmented Generation)システムのようなAIシステムにとっては極めて重要だ。RAGシステムは、与えられた質問に対して、関連する情報を大量のデータの中から探し出し(Retrieval)、それに基づいて回答を生成する(Generation)システムであり、入力されるデータが正確でなければ、出力される回答の品質も当然ながら低下してしまう。
Extractlyを利用することで、企業や組織はいくつかの大きなメリットを得られる。まず、複雑な表や構造化されたデータを、元の内容を損なうことなく確実に抽出できる。次に、抽出されたデータは、大規模言語モデル(LLM)が学習したり、RAGパイプラインに組み込んだりするのに最適な「クリーン」な状態で提供される。LLMは人間が使う自然言語を理解し、生成するAIモデルであり、その性能は学習データの品質に大きく左右される。最後に、Extractlyは、ドキュメントが意図された通りの意味で理解される、本番運用に耐えうる(プロダクショングレードの)AIシステムを構築することを可能にする。
つまり、Extractlyは、読みにくいPDFと、AIが活用できる正確な構造化データの間のギャップを埋める役割を果たしている。これにより、重要な文書を取り扱う際の信頼性、精度、そして使いやすさが格段に向上するのだ。
この技術は、現実世界で幅広い分野に大きな影響を与えている。金融・コンプライアンスの分野では、SEC(米国証券取引委員会)の開示書類のような複雑な文書からの正確な情報抽出が可能になり、これまで何時間もかかっていた手作業での確認作業を大幅に削減できる。法律・契約の分野では、契約書に記載された表の情報を正確に保持することで、交渉過程で意味が失われるリスクを防ぐことができる。ヘルスケア・研究分野では、複雑な形式の実験結果や治験データを高い精度で抽出できるようになる。そして、AIやRAGパイプラインの分野では、Extractlyが生成するクリーンで信頼性の高いデータが、情報検索の精度向上やその後のデータ分析の質を高めることに直結する。
Extractlyの開発過程では、Google AI Studioという開発環境が活用された。これは、開発者が自身のバックエンドシステムを短時間で機能的なアプリケーションに変えるための強力なツールだ。具体的には、Gemini 2.5 ProというAIコードアシスタントを使い、Extractlyのバックエンドと接続し、ユーザーインターフェース(UI)を生成し、必要なコネクタを数分で設定できたという。さらに、開発者は「プロンプトエンジニアリング」という技術を応用し、コードアシスタントに対して適切な指示を与えることで、よりインタラクティブなUIに改善したり、ファイルダウンロードオプションを追加したり、抽出結果をアプリケーション内で直接表示させたりするなど、ユーザー体験を最適化した。Google AI Studioを活用することで、フロントエンド(ユーザーが直接触れる部分)を一から構築する手間と時間を大幅に削減しつつ、アプリの流れやデザインを自由に形成できたことは、効率的な開発の好例と言える。
Extractlyの中核技術の一つに、Gemini 2.5 Proの「マルチモーダル機能」がある。マルチモーダルとは、複数の異なる種類の情報(モダリティ)を同時に処理できる能力を指す。この場合、PDFは単なる文字の羅列ではなく、テキスト、テーブル、画像といった多様な要素が混在するオブジェクトとして扱われる。Gemini 2.5 Proは、PDFのコンテンツだけでなく、そのレイアウトや構造も同時に分析できるため、Extractlyは次のようなことが可能になる。
まず、テーブルや複雑な構造を持つ部分を、書式が崩れたりセルが結合されたりすることなく、正確にキャプチャできる。次に、金融や法律文書のように、元の文書の表現の忠実性を保つことが極めて重要な場合でも、その意味を損なうことなくデータを抽出できる。そして、テキストだけでなく、構造化されたデータ(表など)や視覚的な情報(グラフなど)といった複数のモダリティを同時に抽出することで、より豊かで使いやすい出力を生成できる。
このように、ExtractlyはPDFを単なるテキストファイルとしてではなく、「テキスト」と「レイアウト」と「構造」からなるマルチモーダルなオブジェクトとして扱うことで、ユーザーが複雑な文書を扱う際に意味や文脈を失うことなく、安心してデータを活用できるようにしている。これにより、手作業でのデータクリーンアップに時間を費やすことなく、抽出されたデータがLLMの利用に適しており、一貫性があり、本番環境で通用する品質であることを保証するのだ。Extractlyは、PDFが持つ膨大な情報を、現代のAI技術が真に活用できる形で変換する、強力なツールと言える。