【ITニュース解説】Isn’t Kubernetes enough?

2025年09月10日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Isn’t Kubernetes enough?」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Kubernetesはコンテナ管理に強力だが、多数のマイクロサービスを運用するには不十分な場合がある。外部からのリクエストを捌くAPIゲートウェイや、サービス間の通信を制御するIstio等のサービスメッシュを組み合わせることで、複雑なシステムを安定稼働させられる。

出典: Isn’t Kubernetes enough? | Reddit /r/programming公開日:

ITニュース解説

現代のアプリケーション開発において、コンテナ技術とそれを管理するKubernetesは、システム構築の標準的な基盤となりつつある。コンテナはアプリケーションを実行環境ごとパッケージ化する技術であり、Kubernetesは多数のコンテナを効率的に配置、運用、拡張するためのオーケストレーションツールである。この強力な組み合わせにより、開発者はインフラの複雑な管理から解放され、迅速なサービス提供が可能になった。しかし、特に独立した小さなサービスを連携させて一つの大きなアプリケーションを構築する「マイクロサービスアーキテクチャ」を採用する場合、「Kubernetesさえあれば全て解決するのか」という問いが生まれる。結論から言えば、Kubernetesは極めて重要な基盤であるが、それだけでは現代的なマイクロサービスアプリケーションの全ての要求を満たすことは難しい。その不足を補うために、APIゲートウェイとサービスメッシュという二つの技術が重要な役割を担う。

まず、Kubernetesが担う中心的な役割は、コンテナのライフサイクル管理である。どのサーバーにどのコンテナを配置するかを決定し、必要に応じてコンテナの数を自動で増減させ、障害が発生したコンテナを検知して自動的に再起動するなど、コンテナ群が健全な状態を保ち続けるための機能を提供する。これは、いわばアプリケーションが稼働するための「インフラストラクチャの司令塔」としての役割だ。しかし、Kubernetesが主眼を置くのは個々のコンテナの管理であり、アプリケーションの外部からやってくるリクエストをどのように受け付け、サービス間でどのように通信を行うかといった、より上位の通信制御に関する機能は限定的である。

ここで登場するのがAPIゲートウェイである。APIゲートウェイは、マイクロサービスアプリケーション全体の唯一の入り口として機能するコンポーネントだ。外部のクライアント、例えばウェブブラウザやスマートフォンアプリからのリクエストは、全てまずAPIゲートウェイに送られる。APIゲートウェイは、受け取ったリクエストの内容を解析し、それを処理するべき適切な内部のマイクロサービスへと振り分ける役割を担う。この機能により、クライアントは多数のマイクロサービスの個々のアドレスを知る必要がなくなり、システムの内部構造が隠蔽されるため、セキュリティが向上し、将来的な構成変更も容易になる。さらに、APIゲートウェイは認証や認可、リクエスト数の制限(レートリミット)、ロギング、キャッシュといった、複数のサービスで共通して必要となる横断的な処理を一手に引き受けることができる。これにより、個々のマイクロサービスは自身のビジネスロジックの実装に専念でき、開発効率が大幅に向上する。このように、APIゲートウェイは主にシステムの「外部」と「内部」との通信(North-Southトラフィック)を管理し、システムの堅牢性と保守性を高めるために不可欠である。

一方、アプリケーションが複雑化し、内部のマイクロサービスの数が増えてくると、サービス「間」の通信(East-Westトラフィック)の管理が新たな課題となる。あるサービスが他のサービスを呼び出す際に、通信経路の暗号化はされているか、呼び出し先のサービスが応答しない場合にどう対処するか、特定のバージョンのサービスにだけ通信を流すといった高度な制御をどう実現するか、といった問題である。これらの課題を解決するのが、Istioに代表されるサービスメッシュである。サービスメッシュは、アプリケーションのコードを変更することなく、サービス間の全ての通信を透過的に制御するための専用のインフラ層を提供する。各マイクロサービスに「サイドカー」と呼ばれるプロキシを配置し、サービス間の通信をこのプロキシ経由で行わせることで、高度な制御を実現する。具体的には、サービス間の通信を自動的に暗号化してセキュリティを確保したり、障害発生時に自動でリトライ処理を行ったり、システムに過剰な負荷がかかるのを防ぐサーキットブレーカー機能を提供したりする。また、どのサービス間でどれくらいの通信が行われ、どの程度の遅延が発生しているかといった詳細な情報を収集し、システム全体の可観測性を劇的に向上させる。これにより、問題発生時の原因特定やパフォーマンスのボトルネック発見が容易になる。

要するに、Kubernetes、APIゲートウェイ、サービスメッシュは、それぞれ異なるレイヤーで問題を解決し、互いに補完し合う関係にある。Kubernetesはコンテナを動かすための安定した「基盤」を提供する。APIゲートウェイは外部からのリクエストを整理し、安全に内部へ案内する「玄関」としての役割を果たす。そしてサービスメッシュは、システム内部のサービス間の複雑な通信を円滑かつ安全に制御する「神経網」として機能する。これらを適切に組み合わせることで初めて、大規模で複雑なマイクロサービスアプリケーションを、安全、効率的、かつ安定的に運用管理することが可能になる。したがって、「Kubernetesだけでは十分ではない」という問いに対する答えは、現代のマイクロサービスが直面する多様な課題に対応するためには、それぞれの役割に特化したツールを連携させることが不可欠である、ということになる。