【ITニュース解説】How a NullPointerException Almost Crashed Our Production System
2025年09月08日に「Medium」が公開したITニュース「How a NullPointerException Almost Crashed Our Production System」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Javaで頻発するNullPointerException(NPE)が原因で、本番システムがクラッシュ寸前になった事例が報告された。NPEは、値がnull(空)の変数を参照しようとすると発生するエラーで、システム全体に影響を及ぼす危険がある。
ITニュース解説
システム開発、特にJava言語を用いた開発において、最も頻繁に発生するエラーの一つに「NullPointerException」がある。これは「NPE」と略されることもあり、多くの開発者が一度は経験する基本的なエラーだ。しかし、この一見単純なエラーが、システムの安定稼働を脅かし、大規模な障害を引き起こす引き金になることがある。本稿では、ある本番システムでNullPointerExceptionが原因で発生した重大なインシデントを基に、そのメカニズムと、エンジニアが学ぶべき教訓について解説する。
まず、NullPointerExceptionがどのようなエラーであるかを理解する必要がある。プログラミングにおいて、変数には様々なデータが格納されるが、時には「値が存在しない」状態を示す特別な値「null」が格納されることがある。これは、意図的に設定される場合もあれば、処理の過程で結果的にそうなってしまう場合もある。「null」は「空っぽの箱」のようなものだと考えればよい。NullPointerExceptionは、この「空っぽの箱」である変数に対して、中身があることを前提とした操作、例えば、何らかの処理を命令したり(メソッド呼び出し)、内部の情報を参照したり(フィールドアクセス)しようとした際に発生する。「存在しないものに命令するな」というコンピュータからの悲鳴である。
今回取り上げる事例のシステムでは、ある機能が外部のAPIを呼び出してユーザーのプロフィール情報を取得していた。APIとは、他のシステムやサービスと連携するための窓口のようなものである。このAPIは、指定されたユーザーIDに対応するプロフィール情報(名前、年齢などを含むデータのかたまり)を返す設計になっていた。開発チームは、このAPIが常に有効なプロフィール情報を返すと想定してプログラムを実装した。しかし、APIの仕様では、該当するユーザーが存在しない場合や、何らかの理由で情報を取得できなかった場合に、プロフィール情報の代わりに「null」を返す可能性があった。
問題のコードでは、APIから受け取ったプロフィール情報が「null」である可能性を全く考慮していなかった。つまり、返ってきた値が「null」かどうかを確認する、いわゆる「nullチェック」と呼ばれる基本的な安全対策が欠落していたのだ。その結果、存在しないユーザーの情報を取得しようとしたリクエストが発生した際にAPIは「null」を返し、システムは「null」に対してプロフィール情報を取得しようと試み、見事にNullPointerExceptionを発生させた。
ここまでの話であれば、単なる一つのリクエストがエラーで失敗するだけで、システム全体への影響は限定的に思えるかもしれない。しかし、このエラーがシステム全体をクラッシュ寸前にまで追い込んだのには、より深刻な理由があった。第一に、発生したNullPointerExceptionがプログラム内で適切に処理されていなかったことだ。エラーが発生した際に、それを検知して安全な処理に移行させる仕組みを「例外処理」と呼ぶ。この例外処理が不十分だったため、エラーを検知できず、処理を担当していたプログラムの実行単位である「スレッド」が異常終了してしまった。
第二に、この問題のあるコードは、非常に多くのユーザーが利用するシステムの中心的な機能に含まれていた。そのため、エラーを引き起こす条件を満たすリクエストが断続的に発生し、そのたびにスレッドが一つ、また一つと異常終了を繰り返した。アプリケーションサーバーは、リクエストを処理するためにあらかじめ一定数のスレッドを用意しているが(これをスレッドプールと呼ぶ)、エラーによってスレッドが次々と失われていった。最終的に、サーバーは処理に使えるスレッドをすべて使い果たしてしまい、新たなリクエストを一切受け付けられないリソース枯渇の状態に陥った。これにより、システム全体が応答不能となり、サービスが停止する一歩手前の状態となった。
このインシデントから、システムエンジニアを目指す者は多くの重要な教訓を学ぶことができる。最も重要なのは「防御的プログラミング」の姿勢である。これは、自身が作成するプログラムの外部から与えられるデータ、例えばユーザーからの入力や、今回のような外部APIからの応答は、常に期待通りであるとは限らないという前提に立つ考え方だ。常に「もし予期せぬ値が来たらどうなるか」を想定し、値が「null」でないか、想定内の形式であるかなどを検証するコードを組み込む必要がある。
具体的な対策として、まず基本となるのが「nullチェック」の徹底だ。オブジェクトを利用する前には「if (object != null)」といった条件分岐で、その存在を確認する習慣を身につけることが不可欠である。さらに、近年のJavaでは「Optional」という仕組みが提供されている。これは、「null」の可能性がある値を包み込むためのもので、値が存在する場合としない場合で処理を明確に書き分けることを促す。これにより、開発者は「null」の可能性を意識せざるを得なくなり、チェック漏れという単純なミスを未然に防ぎやすくなる。
また、適切な例外処理の実装も欠かせない。予期せぬエラーが発生した場合でも、それがシステム全体の停止につながらないよう、「try-catch」構文を用いて例外を捕捉し、エラーログを記録した上で、処理を安全に中断したり、代替の処理を行ったりするべきだ。これにより、一部の機能でエラーが発生しても、他の機能やシステム全体への影響を最小限に食い止めることができる。
最後に、このような問題を防ぐためには、個人の注意深さだけに頼るのではなく、チームとしての開発プロセスを強化することも重要である。コードレビュー、つまり他の開発者がコードをチェックする習慣を取り入れることで、自分では気づきにくい単純なミスや設計上の問題点を指摘してもらえる。また、正常なケースだけでなく、意図的にエラーを引き起こすような異常系のテストを記述し、実行することで、本番環境で問題が表面化する前にバグを発見できる可能性が高まる。
NullPointerExceptionは初歩的なエラーと見なされがちだが、その背後にはシステムの可用性を脅かす深刻なリスクが潜んでいる。安定したシステムを構築するためには、あらゆる入力と外部からの応答を疑い、エラーが発生することを前提として堅牢なコードを記述するという、防御的な思考がすべてのエンジニアに求められる。