【ITニュース解説】Observability for Databases in CI/CD
2025年09月08日に「Dev.to」が公開したITニュース「Observability for Databases in CI/CD」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
CI/CDではデータベースの変更が見過ごされがちだが、影響が大きくロールバックも困難だ。開発の早い段階からスキーマ変更やクエリ性能を監視する「オブザーバビリティ」を導入することで、高速で安全なリリースが実現できる。(119文字)
ITニュース解説
近年のソフトウェア開発では、CI/CDという手法が広く採用されている。これは、プログラムの変更からテスト、そしてユーザーが利用する本番環境へのリリースまでの一連のプロセスを自動化し、開発サイクルを高速化するための仕組みである。この高速な開発を支える上で、「可観測性(Observability)」という考え方が極めて重要になる。可観測性とは、システムが外部に出力するデータ、例えばログや性能指標などから、その内部で何が起きているのかをどれだけ正確に把握できるかを示す能力のことである。しかし、多くの開発現場ではアプリケーション本体のコードに対する可観測性には注意が払われる一方で、システムの根幹を成すデータベースの可観測性が見過ごされがちであるという課題がある。
なぜデータベースの可観測性が特別に重要視されるべきなのか。その最大の理由は、データベースへの変更が、アプリケーションのコード修正とは比較にならないほど高いリスクを伴うからだ。アプリケーションのコードに不具合が見つかった場合、多くは以前の正常なバージョンに戻す「ロールバック」という作業で迅速に対応できる。しかし、データベースの構造、すなわちスキーマに対する変更は、データの形そのものを不可逆的に変えてしまうことがある。例えば、テーブルから特定の列を削除する命令を実行してしまえば、そのデータを元に戻すことは非常に困難であり、バックアップからの全面的な復旧作業が必要になる場合もある。これは、長時間のサービス停止につながる重大な事態である。また、パフォーマンスへの影響も無視できない。データベースの構造をわずかに変更しただけで、特定のデータ検索処理(クエリ)の応答速度が著しく低下することがある。この問題はリリース直後には発覚せず、数日経ってからシステム全体の遅延として表面化することも少なくない。その時、原因となったデータベースの変更箇所を特定するのは非常に困難だ。データベースの可観測性が確保されていれば、いつ、どの変更がパフォーマンスの低下を引き起こしたのかを迅速に突き止め、的確な対策を講じることが可能となる。CI/CDの目的である開発の迅速性と、システムの安定性という二つの要素を両立させるためには、データベースの状態を常に監視し、フィードバックを得る仕組みが不可欠なのである。
データベースの可観測性を実現しようとすると、アプリケーションとは異なる特有の課題に直面する。まず、データベースのスキーマ変更作業である「マイグレーション」が、実行したら終わりの一方通行な処理として扱われがちな点だ。これにより、マイグレーションが失敗した際に、その原因を究明する手がかりが乏しく、調査が長期化しやすい。次に、開発環境や本番環境など、複数の環境でデータベースの構造が意図せず異なってしまう「ドリフト」という問題がある。この状態は、開発環境では正常に動作したものが本番環境ではエラーになるといった、予測不能なトラブルの原因となる。さらに、監視すべき情報もCPU使用率やメモリといった一般的な指標だけでは不十分だ。クエリの実行時間、インデックスの利用効率、データのロック競合など、データベース固有の専門的かつ詳細な指標を監視する必要がある。しかし、既存のアプリケーション監視ツールとデータベース監視ツールは連携がスムーズでないことが多く、得られる情報が分断され、全体像を把握しにくいという問題も存在する。
これらの課題を克服するためには、可観測性を開発プロセスの後半、つまり運用段階で付け足すのではなく、より早い段階から設計に組み込む「シフトレフト」というアプローチが有効である。具体的には、データベースへの変更を本番環境に適用する前に、スキーマの互換性などを自動で検証するチェック機構をCI/CDパイプラインに組み込む。マイグレーションを実行する際には、その処理時間、変更前後のスキーマ状態、実行ログなどをすべて記録し、後から追跡できるようにする。デプロイ後も、クエリのパフォーマンスをリアルタイムで監視し、性能の劣化を即座に検知する。そして、環境間のスキーマの差異を定期的に自動比較し、ドリフトが発生した場合には警告を発する仕組みを導入する。これらの仕組みを通じて得られた情報を開発者とデータベース管理者が共有できるダッシュボードを整備することで、チーム全体でデータベースの品質と安定性に対する責任を持つ文化を醸成できる。データベースの可観測性に投資することは、デプロイに対するチームの自信を高め、深刻な障害を未然に防ぎ、結果としてより安全で迅速なソフトウェアリリースを実現する。これは、ビジネスの成長と顧客体験の向上に直接的に貢献するのである。現代の高速な開発サイクルにおいては、データベースもまた俊敏でなければならない。そのための鍵となるのが、データベースの可観測性なのだ。