【ITニュース解説】Show HN: Semantic grep for Claude Code (local embeddings)
2025年09月07日に「Hacker News」が公開したITニュース「Show HN: Semantic grep for Claude Code (local embeddings)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
AIが生成したコードに対し、文字列の一致ではなく意味の近さで検索できるツール「ck」が公開。従来のgrepコマンドのように使えるのが特徴。データは外部に送信せず、手元のPC(ローカル環境)で完結するため安全に利用できる。
ITニュース解説
この解説では、GitHubで公開された「ck」というツールの機能について、システムエンジニアを目指す初心者の皆さんにも分かりやすく説明する。このツールは「Semantic grep for Claude Code (local embeddings)」と題されており、従来のコード検索を大きく進化させる可能性を秘めている。
まず、従来のコード検索について考えてみよう。多くのシステムエンジニアが日常的に利用する「grep」というツールがある。これは、指定した文字列やパターンがコードの中に含まれているかを探し出す非常に便利なコマンドだ。例えば、「user_login」という関数名を検索すれば、その名前が使われている箇所を全て見つけ出せる。しかし、このgrepには限界がある。もし、同じログイン機能を持つコードでも、開発者によって「authenticate_user」や「login_check」といった別の名前が付けられていたらどうだろうか。grepでは、それぞれの名前で検索しないと見つけることができない。さらに、特定の処理内容、例えば「データベースからユーザー情報を取得する処理」を探したい場合、その処理のコードがどのような記述になっているかを知らなければ、適切な文字列パターンを指定するのは非常に難しい。異なる記述方法で書かれた、しかし機能としては同じコードを見つけ出すのは、従来のgrepではほぼ不可能だった。
ここで登場するのが、「Semantic grep」、つまり「意味的な検索」だ。このckツールは、単なる文字列の一致ではなく、コードが持つ「意味」や「機能」を理解して検索を行う。例えば、「ファイルを読み込む処理」を探したいとき、たとえコードの記述方法が「read_file()」であっても、「open()関数とread()メソッドの組み合わせ」であっても、あるいは「特定のライブラリを使ったファイル入力処理」であっても、それらが意味的に同じ「ファイルを読み込む」という機能を持つと判断し、関連するコードを提示してくれる。これは、人間がコードを読んで「この部分はこういう機能を持っているな」と理解するのと同じような感覚で、コンピューターがコードを分析しているということだ。
なぜこのような「意味的な検索」が今、特に重要になっているのだろうか。それは、近年急速に発展しているAI、例えばAnthropic社が開発したAIアシスタント「Claude」がコードを生成する機会が増えているからだ。AIが生成するコードは、人間が書くコードとは異なる書き方や構造を持つことがある。また、AIは大量のコードを短時間で生成できるため、プロジェクト内にAIが生成したコードが蓄積されていくと、その中から特定の機能を持つ部分を探し出したり、既存のコードと重複していないか確認したりする作業が非常に困難になる。ckは、このようなAI生成コード(記事では「Claude Code」と表現されている)に対しても、その意味を正確に把握し、効率的に検索することを可能にする。これにより、AIの力を借りて開発されたコードを、より効果的に管理し、再利用できるようになるわけだ。
この「Semantic grep」を実現するために、ckツールが採用している重要な技術が「local embeddings」、つまり「ローカルな埋め込み」だ。ここで言う「埋め込み(embeddings)」とは、テキストやコードのような人間が理解できる情報を、コンピューターが計算しやすい「数値の羅列」、もう少し専門的に言えば「ベクトル」という形に変換する技術のことを指す。この数値の羅列は、元のテキストやコードが持つ意味や文脈を数学的に表現しており、意味的に似ているコードは、変換された数値も互いに「近く」なる。コンピューターは、この数値の「近さ」を計算することで、コードの意味的な類似性を判断できるようになるのだ。
そして、「local」という点がポイントだ。通常、このような高度な埋め込みの計算は、大量のデータや複雑な計算能力が必要となるため、インターネット経由で高性能なクラウドサービス(GoogleやOpenAIなどが提供するAPIなど)に依頼することが多い。しかし、ckツールはこれを「ローカルで」実行する、つまり、ユーザー自身のパソコンや手元のサーバー上でこの埋め込み計算を行う。これにはいくつかの大きなメリットがある。
一つ目は「データのプライバシー保護」だ。外部のサービスにコードを送信する必要がないため、企業秘密や個人情報を含む可能性のあるコードが、第三者のサーバーに渡るリスクを回避できる。これは、セキュリティ要件が厳しい開発現場において非常に重要な要素となる。二つ目は「コスト削減」だ。クラウドサービスのAPIを利用する場合、通常は利用量に応じた費用が発生するが、ローカルで処理を行えばその費用はかからない。三つ目は「処理速度の向上」だ。外部サービスとの通信にかかるネットワーク遅延がないため、手元の環境の性能が許せば、より高速に処理を進められる可能性がある。さらに、インターネット接続がないオフライン環境でも、コードの検索と分析が可能になるという利点もある。
具体的にckがどのように動作するかというと、まず検索対象となるコード群をすべて「埋め込み」の形式に変換し、保存しておく。そして、ユーザーが検索したいコード片(クエリコード)を入力すると、そのクエリコードも同様に「埋め込み」に変換される。最後に、このクエリコードの埋め込みと、保存されているすべてのコードの埋め込みを比較し、数値的に「近い」もの、つまり意味的に類似しているコードを結果として提示する仕組みだ。これにより、従来の文字列検索では不可能だった、コードの意図に基づいた高度な検索が実現する。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このようなツールの登場は、開発の未来を考える上で非常に示唆に富んでいる。AIがコード生成の主流になりつつある現代において、AIが書いたコードを効率的に理解し、管理し、再利用するスキルは今後ますます重要になるだろう。ckのような「Semantic grep」ツールは、大規模なコードベースを扱う際の生産性を劇的に向上させ、既存のプロジェクトにAI生成コードを統合する際の障壁を低減させる。また、ローカルでAI関連の処理を実行できる技術の発展は、開発者にとっての自由度とコントロールを高め、新しいワークフローを可能にする。この技術は、単なる検索ツールに留まらず、未来のソフトウェア開発のあり方を変える一歩と言えるだろう。