【ITニュース解説】Tailscale on Azureでオンプレミスとの閉域接続を月1,000円で実現する
2025年09月08日に「Zenn」が公開したITニュース「Tailscale on Azureでオンプレミスとの閉域接続を月1,000円で実現する」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
VPNサービス「Tailscale」を使い、クラウドのAzureと自宅や社内ネットワークを安全に接続する手法。高価な専用サービスを使わず、月1,000円程度の低コストで閉域網のようなプライベート接続を構築できる。
ITニュース解説
クラウドサービス、特にMicrosoft Azureのようなプラットフォームを利用してシステムを構築する際、クラウド上の仮想ネットワークと、自宅や会社といった物理的な場所にあるプライベートネットワーク、いわゆるオンプレミス環境とを安全に接続する必要が生じることがある。例えば、クラウド上に構築したアプリケーションサーバーから、社内にあるデータベースサーバーにアクセスしたい場合や、開発者が自宅のPCからクラウド上の開発環境へ安全に接続したいといったケースが考えられる。従来、このような接続を実現するためには、Azureが公式に提供する「Azure VPN Gateway」や「ExpressRoute」といったサービスを利用するのが一般的だった。しかし、これらのサービスは非常に高機能で信頼性が高い反面、導入コストや月額利用料が高額になりがちで、設定も複雑なため、特に個人での学習や小規模な開発プロジェクトにとってはハードルが高いという課題があった。
このコストと複雑さの課題を解決する手段として、近年注目されているのが「Tailscale」というVPNサービスを活用する方法である。Tailscaleを利用することで、月額1,000円程度の低コストで、Azureの仮想ネットワークとオンプレミス環境を、あたかも専用線で結ばれているかのように安全に接続することが可能になる。
Tailscaleは、モダンで高速なVPNプロトコルである「WireGuard」をベースに開発されたサービスだ。VPNとは「Virtual Private Network」の略で、インターネットなどの公共のネットワーク上に、暗号化などの技術を用いて仮想的なプライベートネットワークを構築する技術全般を指す。Tailscaleの最大の特徴は、その設定の容易さにある。「ゼロコンフィグVPN」とも呼ばれ、利用者は複雑なIPアドレスの管理やファイアウォールのポート開放設定などをほとんど意識することなく、手持ちのPCやサーバーを数ステップで安全なプライベートネットワークに参加させることができる。
Azureとオンプレミス環境を接続する具体的な仕組みは、「サブネットルーター」という機能が中心となる。まず、Azureの仮想ネットワーク内にLinuxなどのOSが動作する仮想マシンを一台構築する。そして、この仮想マシンにTailscaleをインストールし、「サブネットルーター」として動作するように設定する。この設定により、この仮想マシンはAzure仮想ネットワーク全体の代表として、他のTailscaleデバイスとの通信を中継するゲートウェイの役割を担うことになる。同様に、接続したいオンプレミス環境、例えば自宅のネットワーク内にも、PCや小型コンピューターなどにTailscaleをインストールし、こちらも「サブネットルーター」として設定する。
この2つのサブネットルーターを、個人のGoogleアカウントやMicrosoftアカウントで認証された自分だけのTailscaleネットワークに参加させ、管理画面上でそれぞれのルーターが代表するネットワーク範囲(例えばAzure側は「10.0.0.0/16」、オンプレミス側は「192.168.1.0/24」といったIPアドレスの範囲)をお互いに利用することを承認する。これだけで、Tailscaleは複雑なルーティング情報を自動的に生成し、ネットワークに参加している全てのデバイスに配布してくれる。
ただし、このままではAzure仮想ネットワーク内でTailscaleが直接インストールされていない他の仮想マシンは、オンプレミス環境と通信することができない。そこで、Azureの「ユーザー定義ルート(UDR)」という機能を追加で設定する。これは、仮想ネットワーク内の通信経路を管理者が明示的に指定するための機能だ。具体的には、「オンプレミスネットワーク宛の通信は、すべて先ほど構築したTailscaleサブネットルーター用の仮想マシンを経由させる」というルールを追加する。この設定によって、Azure仮想ネットワーク内のすべてのリソースが、特別な設定なしにオンプレミス環境と安全に通信できるようになる。
この接続方法は、物理的な専用回線を使うわけではなく、インターネットを経由する。しかし、Tailscaleによって全ての通信はWireGuardを用いてエンドツーエンドで強力に暗号化される。また、Tailscaleネットワークには認証されたデバイスしか参加できないため、第三者による盗聴や不正アクセスのリスクは極めて低い。この高い安全性から、物理的な閉域網ではないものの「閉域的」な接続と表現される。この構成の最大のメリットは、Azureの公式サービスに比べて圧倒的に低コストである点だ。必要な費用は、基本的にAzure上で24時間稼働させるサブネットルーター用の小規模な仮想マシンの料金のみであり、Tailscale自体は個人や小規模なチームであれば無料プランの範囲で十分に利用できる。これにより、システムエンジニアを目指す学習者やスタートアップ企業が、コストを抑えながら本格的なハイブリッドクラウド環境を体験し、実践的なスキルを習得することが可能になる。