【ITニュース解説】The Birth of Python
2025年09月07日に「Dev.to」が公開したITニュース「The Birth of Python」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
1989年、Guido van Rossumは既存言語の不便さから、初心者にも扱いやすく柔軟な新言語の開発を始めた。読みやすさ、楽しさ、システム連携を兼ね備えたPythonは、1991年にリリースされ急速に普及。プログラマーを幸せにする目標のもと、今や世界で最も人気のある言語となった。
ITニュース解説
1980年代後半のコンピューター業界では、多くのプログラマーが複雑で扱いにくいプログラミング言語に苦戦していた。当時、ソフトウェア開発は高度な技術と忍耐を要する作業であり、利用できる言語はしばしば、専門家でなければ理解が難しい、限られた機能しか持たないものだった。そうした状況の中、オランダの研究所で働いていたギード・ヴァン・ロッサムは、既存の言語の限界に不満を感じていた。彼は、より良いプログラミング環境を求めていたのである。
ギードが当時使用していたプログラミング言語の一つに「ABC」というものがあった。ABCは、その設計において非常に優れた概念を持っていた。例えば、プログラミング初心者でも学習しやすいように、コードが直感的で分かりやすく記述できる点が特徴だった。文法は簡潔でクリーンであり、一見すると理想的な言語のように思われた。しかし、ABCには決定的な欠点があった。それは、柔軟性の欠如である。
ABCは、特定の目的に特化して作られていたため、その枠組みから外れるような拡張を行うことが極めて困難だった。例えば、新しい機能を追加しようとしても、言語の構造上、簡単に組み込むことはできなかった。また、コンピューターの基本的な機能や、オペレーティングシステムが提供する機能(システムコール)と連携しようとしても、そうした接続性がほとんど提供されていなかった。ギードはABCの持つ「分かりやすさ」という精神は高く評価していたが、現実世界で直面する多様な問題を解決するためには、より高い柔軟性と汎用性を持つ言語が必要だと強く感じていた。
このような背景から、ギードは自身が本当に望むプログラミング言語の構想を温めていた。そして1989年のクリスマス休暇、多くの人々が休暇を楽しみ、プレゼントを開けたりクリスマスキャロルを歌ったりする中で、彼は自身の理想を追求するプロジェクトに着手した。それが、後のPythonとなる新しいプログラミング言語の開発だった。
ギードがこの新しい言語に求めたのは、主に以下の三点だった。第一に、コードがまるで平易な英語を読むかのように、簡単に理解できること。これにより、プログラマーは言語の複雑さに煩わされることなく、問題解決そのものに集中できるようになる。第二に、ABC言語が持っていたような「楽しさ」や「分かりやすさ」を維持しつつも、その制限的な側面を取り除くこと。つまり、初心者にも親しみやすく、かつ高度な開発にも対応できるようなバランスを目指した。第三に、システムの基盤となる機能と強力に連携できること。これにより、現実世界の多岐にわたる課題に対応できる実用性を確保しようとしたのである。
この新しい言語の名前は、ギードのユーモアのセンスから、当時彼がファンだったイギリスのコメディ番組「モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス」にちなんで名付けられた。当初は「Monty Python」という名称も検討されたが、最終的にはより簡潔な「Python」に落ち着いた。この名前には、プログラミング言語としての厳格さの中にも、遊び心や親しみやすさを持ち続けたいというギードの思いが込められていると言える。
クリスマス休暇中に始まったこのささやかなプロジェクトは、ギードの予想を超えて急速に成長していった。数ヶ月後には、単なる個人の趣味の域を超え、本格的な開発へと発展した。そして1991年には、Pythonの公式リリースバージョン0.9.0が公開された。この初期バージョンには、関数、例外処理、モジュールといった、今日のプログラミングにおいて不可欠とされる基本的な機能がすでに搭載されていた。
Pythonがリリースされると、その独特の使いやすさと柔軟性から、すぐに多くのプログラマーの支持を集めることになった。当時の他のプログラミング言語が、専門的な知識を前提とした記述を求める中で、Pythonはより直感的で、まるでコンピューターと直接対話しているかのようにプログラミングできる感覚を提供した。それは、シンプルでありながらも高度な問題を解決できる柔軟性を持ち合わせており、決して単純なだけの言語ではなかった。
ギード・ヴァン・ロッサムのクリスマスの一時的な実験は、やがて世界中で最も愛され、広く利用されるプログラミング言語の一つへと発展した。現在では、写真共有サービスのInstagramのバックエンドを支えたり、NASAの宇宙ミッションにおけるデータ分析や制御システムに利用されたり、あるいは人工知能(AI)開発の中核言語として活躍したりと、Pythonはテクノロジーのほとんどあらゆる分野に深く浸透している。その人気は目覚ましく、2024年には一部の調査でJavaScriptがわずかに先行するものの、世界で最も人気の高いプログラミング言語の一つにまで成長した。
Pythonの成功の裏には、ギードが当初から大切にしていた哲学がある。それは、プログラミング言語は機械の都合に合わせるのではなく、「プログラマーが幸せになる」ためにあるべきだという考え方だ。Pythonは、その設計思想において、常に人間中心のアプローチを追求してきた。コードの読みやすさ、書きやすさ、そして学習のしやすさは、この哲学が色濃く反映された結果である。Pythonは、誕生から時を経ても、この「人間らしさ」を失うことなく、今日に至るまで多くの開発者に愛され続けているのだ。