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MIPS(ミップス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

MIPS(ミップス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

百万命令毎秒 (ミリオンオペレーションズパーセカンド)

英語表記

MIPS (ミップス)

用語解説

MIPS(ミップス)は、コンピュータの頭脳である中央処理装置(CPU)の設計思想の一つである「アーキテクチャ」の名称であり、またそのアーキテクチャに基づいて作られたマイクロプロセッサ自体を指す。特に「RISC(Reduced Instruction Set Computer)」と呼ばれる種類のアーキテクチャの代表格として知られる。MIPSという名称は「Microprocessor without Interlocked Pipeline Stages」の頭文字から来ており、パイプライン処理と呼ばれるCPU内部の効率的な処理方式に特化した設計思想を持つことを示している。

MIPSは、非常にシンプルな命令セットと、それらの命令を並行して処理する「パイプライン処理」を効率良く行うことを重視して設計された。これにより、命令ごとの処理は単純でも、全体として高い性能を発揮できるように工夫されている。複雑な命令を一つ一つ実行するよりも、ごく基本的な命令を多数並行して、かつ高速に処理する方が、現代のコンピュータの性能向上には適しているという思想に基づいている。そのシンプルさと効率性から、かつては高性能ワークステーションから家庭用ゲーム機、ルーターなどの組み込みシステムまで、幅広い分野で採用された実績を持つアーキテクチャである。

MIPSアーキテクチャは、1980年代初頭にスタンフォード大学のジョン・ヘネシー教授(後にGoogle会長)の研究チームによって開発された。当時、CPUの主流は「CISC(Complex Instruction Set Computer)」アーキテクチャであり、多種多様で複雑な命令セットを特徴としていた。しかし、ヘネシー教授の研究チームは、命令セットを大幅に簡素化することで、高速なパイプライン処理を実現するという、全く新しいアプローチを提唱した。この研究は、その後のRISCプロセッサ開発の基礎を築き、コンピュータ産業に大きな影響を与えた。1984年にはMIPS Computer Systems(後のMIPS Technologies)が設立され、商用プロセッサとしてMIPSアーキテクチャが広く普及し始めた。

MIPSが採用するRISCアーキテクチャの最大の特徴は、命令セットが非常に少ない点にある。CISCプロセッサが多くの複雑な命令を持ち、一つの命令でメモリからのデータ読み込み、計算、結果の書き込みといった複数の処理をこなそうとするのに対し、RISCプロセッサは、ごく基本的な命令のみを提供する。例えば、メモリからデータを読み込む「ロード」命令、計算を行う「算術演算」命令、メモリにデータを書き込む「ストア」命令などはそれぞれ独立している。これらの命令はすべて同じ長さ(固定長)であり、CPUが命令を処理するのにかかる時間もほぼ一定であるため、CPU内部で複数の命令を同時に処理する「パイプライン処理」を非常に効率良く行うことができる。

パイプライン処理とは、工場での流れ作業のように、命令の実行をいくつかの段階(フェッチ、デコード、実行、メモリアクセス、ライトバックなど)に分け、異なる命令が同時に異なる段階を進むことで、全体のスループットを高める技術である。MIPSの名称に含まれる「without Interlocked Pipeline Stages」は、命令の実行ステージ間でデータの依存関係などによる停止(インターロック)を極力発生させない設計思想を指す。これは、プログラムのソースコードをMIPSの命令に変換する「コンパイラ」と呼ばれるソフトウェアが、命令の実行順序を最適化し、依存関係による停止を避けるよう工夫することで実現される。例えば、ある命令がメモリからデータを読み込んでいる間に、次の命令がそのデータを必要とする場合、通常はデータが揃うまでパイプラインが停止してしまう。MIPSでは、このような遅延をコンパイラが予測し、データとは無関係な別の命令をその間に挿入したり、命令の順序を入れ替えたりすることで、パイプラインの停止を最小限に抑え、ハードウェアが複雑な停止制御回路を持つ必要をなくした。これにより、CPUの設計がシンプルになり、より高速な動作と低消費電力を可能にした。

MIPSアーキテクチャは、その優れた性能と設計の柔軟性、そして低消費電力という特性から、多様な分野で採用された。初期には、高性能な3Dグラフィックス処理を可能にしたSilicon Graphics(SGI)社のワークステーションに搭載され、グラフィック業界に大きな影響を与えた。また、家庭用ゲーム機としては、ソニーのPlayStationやPlayStation 2、任天堂のNintendo 64などに採用され、これらのゲーム機の高性能化に貢献した。さらに、ネットワーク機器(ルーターやモデム)、デジタルテレビのセットトップボックス、レーザープリンター、デジタルカメラといった、多岐にわたる組み込みシステムの中核としてもMIPSプロセッサが広く利用された。シンプルな設計思想が、コストと消費電力の制約が厳しい組み込み用途に非常に適していたためである。

MIPSは長らく主要なCPUアーキテクチャの一つとして活躍してきたが、2000年代以降は、スマートフォンなどのモバイル分野で急成長したARMアーキテクチャや、パソコン・サーバー市場で圧倒的なシェアを持つx86アーキテクチャとの競争が激化した。MIPS Technologies社は2013年にImagination Technologiesに買収され、その後も複数回の所有者変更を経て、MIPSアーキテクチャ自体のオープンソース化や、次世代のオープンソースRISCアーキテクチャであるRISC-Vへの移行といった動きが見られる。MIPSは、現代の高性能プロセッサの基礎となったRISCの概念を確立し、その普及に大きく貢献した歴史的な意義を持つアーキテクチャであり、特に組み込みシステムにおけるその実績は非常に大きい。今日のシステムエンジニアを目指す上では、MIPSが示したシンプルさと効率性を追求する設計思想が、現在の多くのプロセッサに受け継がれていることを理解することが重要である。

MIPSはその名前が示す通り、パイプライン処理の効率を最大限に引き出す設計によって、命令数の少なさからは想像できないほどの高い処理能力を実現し、コンピュータの発展に不可欠な役割を果たした。その技術的遺産は、現代の様々な高性能プロセッサの基盤となっている。