MRTG(エムアールティージー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
MRTG(エムアールティージー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
マルチプレックス・ルーティング・ルーチン・ジェネレーター (マルチプレックス・ルーティング・ルーチン・ジェネレーター)
英語表記
MRTG (エムアールティージー)
用語解説
MRTG(Multi Router Traffic Grapher)とは、ネットワーク機器やサーバーなどのトラフィック量やその他のリソース使用状況を継続的に監視し、そのデータを時系列のグラフとして可視化するオープンソースのツールだ。主にネットワークの帯域幅使用状況を把握するために開発されたが、その後、様々なシステムリソースの監視にも応用されるようになった。システム管理者がネットワークの状態を把握し、ボトルネックの特定、問題発生時の原因究明、将来のキャパシティプランニングを行う上で重要な役割を果たすツールの一つとして、長年にわたり活用されてきた。
MRTGがどのような課題を解決するために登場したのかを理解することは重要だ。かつて、ネットワークの状態をリアルタイムに、かつ時系列で詳細に把握することは容易ではなかった。ネットワーク機器の稼働状況やトラフィック量を目視で確認するのは現実的ではなく、データが蓄積されないため、過去の傾向を分析することも困難だった。MRTGは、このような状況を改善し、定期的にデータを収集して分かりやすいグラフとして提供するという画期的な手法を導入し、ネットワーク監視の分野に大きな影響を与えた。
MRTGの基本的な動作原理は、ネットワーク機器やサーバーが提供する情報を「SNMP」(Simple Network Management Protocol)というプロトコルを使って定期的に取得することにある。SNMPは、ネットワーク上のデバイスを管理・監視するための標準的なプロトコルであり、デバイスのインターフェースの状態、送受信トラフィック量、CPU使用率、メモリ使用量などの情報にアクセスする仕組みを提供する。MRTGは、SNMPエージェントが動作しているデバイスに対し、一定間隔(デフォルトでは5分ごと)でSNMPクエリを送信し、必要なデータを取得する。このデータ取得の行為を「ポーリング」と呼ぶ。
取得されたデータは、MRTGによって処理され、HTML形式のウェブページに埋め込まれるGIFまたはPNG形式のグラフとして表示される。グラフは、過去数時間、過去1日、過去1週間、過去1ヶ月、過去1年といった異なる時間スケールで表示され、ユーザーはネットワークの使用状況やシステムの負荷変動を直感的に把握できる。MRTGは、生のデータをそのまま無期限に保存するのではなく、古いデータほど平均化して保存する仕組みを持っている。これは、長期的なデータを効率的に保存し、データベースの肥大化を防ぐための工夫であり、MRTGが利用する「RRDtool」(Round Robin Database tool)の基本的な設計思想に由来する。RRDtoolは、時系列データを効率的に管理するためのデータベースツールであり、MRTG自身も初期のバージョンでは独自のデータ保存機構を持っていたが、後にRRDtoolの堅牢な機能を取り入れるようになった。
MRTGで監視できるデータの種類は多岐にわたる。最も基本的なのは、ルーターやスイッチなどのネットワークインターフェースにおける送受信トラフィック量だ。これにより、特定のポートがどれくらいの帯域幅を使用しているか、ボトルネックになっていないかなどを視覚的に確認できる。さらに、適切なSNMPエージェントが設定されていれば、LinuxやWindowsサーバーのCPU使用率、メモリ使用量、ディスクI/O、プロセス数なども監視対象とすることが可能だ。これは、MRTGが単なるネットワークトラフィック監視ツールとしての枠を超え、汎用的なシステムリソース監視ツールとしても活用できることを意味する。
MRTGの設定は、主に設定ファイル(mrtg.cfg)を編集することで行う。このファイルには、監視対象とするデバイスのIPアドレス、SNMPコミュニティ文字列(SNMPアクセス認証用のパスワードのようなもの)、監視したいインターフェースのインデックス番号、グラフのタイトルなどの情報が記述される。設定ファイルを作成した後、MRTGのデータ収集とグラフ生成を行うプログラム(mrtgコマンド)を定期的に実行するためのスケジューリング(Linuxシステムでは通常cronジョブを使用)を設定すれば、自動的に監視が開始される。生成されたウェブページとグラフは、Apacheなどのウェブサーバーと連携させることで、ウェブブラウザ経由でどこからでも閲覧できるようになる。
運用面では、MRTGは比較的軽量であり、古いハードウェア環境でも動作する利点を持つ。また、設定がシンプルで、特にネットワークトラフィック監視においては手軽に導入できるため、小規模なネットワーク環境や特定の用途に特化した監視に今でも利用されることがある。しかし、多数のデバイスを監視するようになると、設定ファイルの管理が複雑になることや、グラフ表示が基本的なものに限られるといった限界もある。また、MRTGはデータをポーリングして可視化するツールであり、設定された閾値を超えた場合に自動でアラートを発する機能は標準では持っていない。そのため、より高度な監視やアラート機能が必要な場合は、MRTGと他の監視ツールを組み合わせるか、ZabbixやNagiosのような統合的な監視ソリューションの導入を検討することになる。
MRTGは、今日の統合監視ツールにその地位を譲りつつあるが、ネットワーク監視の分野に大きな足跡を残したツールであることは間違いない。そのシンプルながら効果的な可視化アプローチは、現在の多くの監視ツールの基礎となっている。システムエンジニアを目指す者にとって、MRTGの基本的な概念と動作原理を理解することは、ネットワークやシステムの監視という重要な分野の理解を深める上で非常に有益である。
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