MSISDN(エムエスアイエスディーエヌ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

MSISDN(エムエスアイエスディーエヌ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

エムシスイスン (エムシスイスン)

英語表記

MSISDN (エムエスアイエスディーエヌ)

用語解説

MSISDNは、移動体通信網において特定の加入者、つまり携帯電話やスマートフォンなどのモバイルデバイスを識別するために使われる国際的な標準番号である。これは、私たちが日常的に「電話番号」と呼ぶものと非常に近い概念であり、あるユーザーが別のユーザーのモバイルデバイスに電話をかけたり、ショートメッセージサービス(SMS)を送信したりする際にダイヤルする番号そのものを指す。MSISDNという略称は「Mobile Station International Subscriber Directory Number」の頭文字から来ており、移動体通信の世界における加入者の国際的なディレクトリ番号、言い換えれば「電話帳に載せるような番号」としての役割を明確に示している。

この番号は、モバイルデバイスがどの国で、どの通信事業者によってサービスが提供されているかを識別し、最終的に特定の加入者へと通信をルーティングするために不可欠な情報を提供する。例えば、日本から海外の携帯電話に電話をかける場合、まず相手の国の国コードをダイヤルし、次にその国の通信事業者を識別する番号、そして最後に特定の加入者を識別する番号をダイヤルする。この一連の番号全体がMSISDNである。

MSISDNは国際電気通信連合(ITU)によってE.164勧告で定義されており、その構成は大きく三つの要素から成る。一つ目は「国コード」(Country Code: CC)であり、これは電話番号が属する国を識別する。例えば、日本の国コードは「81」、米国の国コードは「1」である。二つ目は「国内宛先コード」(National Destination Code: NDC)で、これは国コードに続いて、その国の中でどの通信事業者がサービスを提供しているか、あるいはどの地域に属するかを識別するために使われる。携帯電話の初期の番号では、このNDCが特定の事業者に割り当てられることが多かったが、番号ポータビリティの導入により、NDCと事業者の直接的な関連性は以前よりも緩やかになっている。三つ目は「加入者番号」(Subscriber Number: SN)であり、これはNDCに続いて、特定の加入者を一意に識別する番号である。このSNは通信事業者内で重複しないように管理され、個々のモバイルデバイスに割り当てられる。これらCC、NDC、SNの三つの要素が結合されることで、世界中のあらゆるモバイルデバイスを唯一無意に識別するMSISDNが完成する。

MSISDNの役割は、単に電話をかけるためだけにとどまらない。ショートメッセージサービス(SMS)の送信先指定、データ通信のためのアクセスポイントの設定、各種モバイルアプリケーションでの認証、さらには銀行サービスやSNSでの本人確認など、モバイルデバイスを利用したあらゆるサービスの基盤となる識別子として機能する。ユーザーが意識することなく利用している多くのサービスが、内部的にはMSISDNを用いて通信のルーティングやユーザー認証を行っているのである。

ここで、MSISDNとよく比較される重要な識別子に「IMSI」(International Mobile Subscriber Identity)がある。IMSIもまた、移動体通信における加入者を識別するための番号だが、その使われ方と役割はMSISDNとは根本的に異なる。MSISDNが「外部からユーザーを呼び出すための番号」、つまり公衆電話網や他の携帯電話網から着信するために使われる番号であるのに対し、IMSIは「モバイルネットワーク内部で加入者を識別するための番号」である。IMSIはSIMカード(Subscriber Identity Module)に記録されており、携帯電話がネットワークに接続する際に、ネットワークがこのSIMカードを搭載したデバイスが正当な加入者であるかどうかを認証するために使用される。

具体的には、IMSIは「MCC」(Mobile Country Code:国)、「MNC」(Mobile Network Code:通信事業者)、および「MSIN」(Mobile Subscriber Identification Number:加入者識別番号)の三つの要素から構成される。このIMSIは、ネットワークのコア要素であるHSS(Home Subscriber Server)やVLR(Visitor Location Register)などのデータベースで加入者情報を検索するために使われる。MSISDNは公衆に公開される可能性のある「電話番号」であるのに対し、IMSIはネットワークの内部でのみ使用される「秘密のID」のようなものだと言える。

一般的に、一つのMSISDNは一つのSIMカード(すなわち一つのIMSI)と関連付けられている。しかし、技術的には一つのSIMカード(IMSI)に複数のMSISDNを割り当てることや、複数のSIMカード(IMSI)が一つのMSISDNを共有する(これは稀なケースである)といった柔軟な運用も可能である。例えば、デュアルSIM対応のスマートフォンでは、一つのデバイスが二つのSIMカードを持ち、それぞれ異なるIMSIとMSISDNを持つことが一般的だ。また、番号ポータビリティ制度の導入により、ユーザーは通信事業者を変えてもMSISDNを変更することなくサービスを継続できるようになった。この場合、MSISDNは変わらないが、それに紐づくIMSI(SIMカード)や内部的なルーティング情報が新しい通信事業者のものに更新される。

MSISDNは、国際ローミング時にも重要な役割を果たす。ユーザーが海外に渡航し、現地の通信事業者ネットワークを利用する場合、そのユーザーのMSISDNは引き続き変わらない。訪問先のネットワークは、そのMSISDNと元のホームネットワーク(ユーザーが契約している通信事業者のネットワーク)との間で通信を確立し、サービスを提供する。この際、IMSIはホームネットワークで認証され、MSISDNを通じて発着信が行われる。

システムエンジニアを目指す上で、MSISDNはモバイル通信システムの設計、開発、運用において常に意識すべき重要な要素である。課金システムの構築、ユーザーデータベースの管理、ネットワークルーティングの設定、API連携など、様々な局面でMSISDNの正確な理解が求められる。例えば、アプリケーションがユーザーの電話番号を識別子として利用する場合、それは通常MSISDNを指す。この番号が国際的な標準に基づいていることで、世界中のモバイルデバイスとの相互接続性が保証され、グローバルな通信インフラが成り立っているのである。