【ITニュース解説】Chapter 2: Architecting Cloak UI —Monorepos, Turborepo, and Frontend Patterns

ソフトウェア開発において、特にUIライブラリのような再利用を前提としたコンポーネント群を構築する際、初期段階でのアーキテクチャ、つまりシステムの基本的な設計や骨格が極めて重要となる。これは、単にボタンや入力フォームといった個々の部品を作ること以上に、プロジェクト全体の将来性を左右する決定である。優れたアーキテクチャは、将来の変更に柔軟に対応できる「柔軟性」、新しい機能を追加してもシステムが破綻しない「拡張性」、そして多くの開発者が円滑に協力できる「協業のしやすさ」を担保する。今回解説するUIライブラリ「Cloak UI」は、特定のデザインシステムに縛られることなく、開発者が自由にUIを構築できる環境を提供することを目指しており、その実現のためにアーキテクチャ設計に細心の注意が払われている。

フロントエンド開発の世界には、いくつかの代表的なアーキテクチャが存在する。例えば、全ての機能を一つの巨大なプログラムとして開発する「モノリシックアーキテクチャ」は、小規模なプロジェクトやプロトタイプの開発には適しているが、規模が大きくなるにつれてコードが複雑に絡み合い、保守が困難になるという欠点を持つ。一方で、巨大なアプリケーションを独立した複数の小さなアプリケーションの集合体として開発する「マイクロフロントエンド」は、大規模な組織での並行開発には有効だが、UIライブラリのような比較的小規模で密接に連携するコンポーネント群には過剰な仕組みである。Cloak UIでは、これらの選択肢を検討した結果、現代のフロントエンド開発の主流である「コンポーネントベースアーキテクチャ」を基本としつつ、関連機能を独立したモジュールとして管理する「モジュラーアーキテクチャ」の考え方を組み合わせる手法が採用された。これにより、UI部品としての再利用性を高めながら、トークンやユーティリティといった関連機能が互いに干渉することなく、独立して進化できる構造を実現している。

次に、プロジェクト全体のソースコードをどのように管理するかという課題に対して、二つの主要なアプローチが比較検討された。一つは、機能ごとにリポジトリを分割する「マルチレポ」方式である。これは一見すると整理されているように思えるが、実際には複数のリポジトリ間で設定ファイルをコピーしたり、バージョン管理が複雑化したりと、開発プロセス全体で見ると非効率な面が多い。もう一つのアプローチが、関連する全てのパッケージやアプリケーションを一つのリポジトリで管理する「モノレポ」方式である。モノレポでは、設定やツール、型定義などを共有しやすく、開発者はプロジェクトの全体像を一度に把握できる。また、変更が複数のパッケージにまたがる場合でも、一度のコミットで対応できるため、整合性を保ちやすい。Cloak UIでは、開発効率とコードの一貫性を重視し、このモノレポ方式が選択された。これにより、コントリビューターが参加しやすく、メンテナンスも容易な開発環境の基盤が築かれた。

モノレポを採用すると、次にその巨大なリポジトリをいかに効率的に管理するかという課題が生じる。この課題を解決するためのツールとして、いくつかの選択肢が存在する。代表的なものに、npmやyarnに標準で備わっている「workspaces」機能や、高機能なビルドシステムである「Nx」がある。しかし、workspacesは基本的なパッケージ間の連携機能しか持たず、ビルドのキャッシュといった高度な機能は提供されない。一方でNxは非常に強力だが、その分多機能で重量級であり、学習コストも高い。Cloak UIが目指す、誰もが気軽に参加できるオープンソースプロジェクトの思想とは必ずしも合致しない。そこで採用されたのが「Turborepo」である。Turborepoは、軽量でありながら、ビルド結果をキャッシュして再利用することでビルド時間を劇的に短縮する機能や、タスクの依存関係を定義して効率的に実行するパイプライン機能など、モノレポ管理に不可欠な機能を備えている。この選択により、開発者は変更した部分だけを高速にテスト・ビルドできるようになり、開発サイクル全体の生産性が向上した。

もちろん、優れたアーキテクチャやツールを選択したからといって、開発が順風満帆に進むわけではない。モノレポ環境の構築には、特有の技術的な課題が伴う。例えば、TypeScriptを利用する際、パッケージ間でモジュールを正しく参照するためのパス設定に苦労することがある。また、全てのパッケージで一貫したコーディングスタイルを維持するためのESLintやPrettierといったツールの設定も、一元管理しようとすると複雑になりがちである。さらに、テスト、ビルド、公開といった一連のプロセスを自動化するCI/CDパイプラインの構築も、モノレポの依存関係を考慮しながら設定する必要があるため、試行錯誤が求められた。これらの課題は、設定ファイルを工夫したり、ルートで共通設定を管理しつつパッケージごとに上書きするなどの手法で解決された。この経験は、アーキテクチャが一度構築して終わりではなく、プロジェクトの成長に合わせて継続的に改善していく必要があることを示している。これらの設計上の決定と課題解決の積み重ねが、Cloak UIの堅牢な土台を形作っているのである。