【ITニュース解説】DEBIX SOM A Testing TSN Clock Synchronization with PTP
2025年09月15日に「Dev.to」が公開したITニュース「DEBIX SOM A Testing TSN Clock Synchronization with PTP」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
DEBIX SOM AデバイスとPTPという高精度な時刻同期技術を用いて、TSN環境でのクロック同期テストを行った。2台のデバイス間でサブマイクロ秒レベルの正確な時刻合わせを実現し、ログから時刻のずれや通信遅延が極めて小さいことを確認した。
ITニュース解説
この内容は、DEBIX SOM Aという組み込みボードが、TSN(Time-Sensitive Networking)という次世代のネットワーク技術環境下で、PTP(Precision Time Protocol)という高精度な時刻同期プロトコルを使って、どれだけ正確に時間を合わせられるかを検証したテストについて解説している。システムエンジニアを目指す上で、このような産業用IoTデバイスやリアルタイム通信、高精度な時刻同期の概念は非常に重要であり、具体的なテスト内容と結果を通じて、これらの技術の理解を深めていくことができる。
まず、DEBIX SOM Aは、産業用途や組み込みシステム向けの小型コンピューターボードである。スマートフォンや一般的なパソコンと異なり、特定の機能に特化し、過酷な環境下でも安定して動作するように設計されていることが多い。このようなボードは、工場での自動化システムやロボット制御、医療機器など、さまざまな分野で利用される。
次に、TSNについて理解する必要がある。一般的なイーサネットは、データを送受信する際に、いつデータが届くか、どれくらいの時間がかかるかが保証されない「ベストエフォート型」の通信である。しかし、工場でロボットを正確に制御したり、自動運転車が瞬時に判断したりするようなシステムでは、データが「いつまでに」届き、「どれくらいの時間で」処理されるかといった、リアルタイム性が極めて重要となる。TSNは、このリアルタイム性をイーサネット上で実現するための技術群の総称である。TSNを使うことで、データの優先順位付けや通信経路の予約が可能になり、予測可能な低遅延でのデータ通信が保証されるようになる。
そして、PTP(Precision Time Protocol、IEEE 1588としても知られる)は、ネットワークに接続された複数のデバイス間で、非常に高い精度で時刻を同期させるためのプロトコルである。GPSなどの衛星測位システムは広範囲での時刻同期に使われるが、LANのような限られたネットワーク内で、ナノ秒(10億分の1秒)レベルの精度で時刻を合わせるにはPTPが非常に有効である。TSNのようなリアルタイム性が求められるシステムでは、各デバイスが同じ正確な時刻を共有していることが、協調動作を行う上で不可欠となるため、PTPが重要な役割を果たす。
今回のテストの目的は、DEBIX SOM Aという特定のハードウェアが、TSNに対応したイーサネットポートを通じて、PTPを使ってどれほど高精度に時刻を同期できるかを実際に確認することだった。この検証が成功すれば、DEBIX SOM AがTSN環境下でのリアルタイム制御システムに適用可能であることが示される。
テスト環境は、最新のソフトウェア構成で準備された。Linuxの開発環境としてYocto 5.0(scarthgap)が使われ、これは組み込みシステム向けのカスタムLinuxディストリビューションを構築するためのツールである。U-Boot 2024.04は、システム起動時に最初に実行されるブートローダーであり、Linux Kernel 6.6.36はLinuxオペレーティングシステムの核となる部分である。これらは、最新の機能と安定性を提供するために選ばれた。
実際のテストでは、2台のDEBIX SOM A本体と、それらを動かすためのIOボードが使用された。これらの2台のボードは、お互いのETH1インターフェース、つまりTSN対応のイーサネットポートを直接イーサネットケーブルで接続した。テスト手順は非常にシンプルで、まず2台のボードを起動し、それぞれのデバイスのコンソール(コマンド入力画面)に入った。そして、DebixVersionコマンドでデバイスの基本情報を確認した後、いよいよ時刻同期のコマンドを実行する。
片方のDEBIX SOM Aを時刻の「マスター(親)」、もう一方を「スレーブ(子)」として設定し、それぞれにptp4lというコマンドを実行する。ptp4lはLinux上でPTPプロトコルを実装するデーモン(常にバックグラウンドで動作するプログラム)であり、このコマンドによってデバイス間の時刻同期が開始される。マスター側では時刻を供給する役割を担い、スレーブ側ではマスターの時刻に合わせて自身の時刻を調整する役割を担う。コマンドの-i ens33という部分は、イーサネットインターフェースとしてens33(ETH1ポートに対応)を使用することを指定している。-sオプションはスレーブとして動作させることを意味する。
テストが開始されると、スレーブデバイスのコンソールには、マスターデバイスの時刻と自身の時刻の差や調整状況を示すログメッセージが連続して表示される。記事に示されたログの最終エントリは、「ptp4l[882.689]: master offset 12 s2 freq -8638 path delay 747」というものである。この1行には、時刻同期の精度とネットワークの状態を示す重要な情報が詰まっている。
まず、「master offset: 12」について。これは、スレーブデバイスの現在の時刻と、マスターデバイスの時刻との差を示している。単位はナノ秒である。ここで「12」という値は、スレーBデバイスの時計がマスターデバイスの時計よりも12ナノ秒だけ遅れていることを意味する。1秒は10億ナノ秒なので、この12ナノ秒という差は、極めて高い精度で時刻が同期されていることを示している。人間には感知できない差であるが、リアルタイム制御システムにおいては、このような微小なずれもシステムの誤動作につながる可能性があるため、この精度は非常に重要である。
次に、「s2 freq: -8638」について。これは、スレーブデバイスの時計の周波数(時間の進み方)をどれだけ調整する必要があるかを示している。単位はppb(parts per billion、10億分の1)である。この値は、スレーブデバイスがマスターデバイスに時刻を合わせるために、自身の時計の進み具合を調整する際に使用される。今回の「-8638」という値は、スレーブデバイスの時計の周波数を8638 ppbだけ遅くする必要があることを意味している。つまり、スレーブデバイスの時計は、元々マスターデバイスよりも少し速く進んでいたが、この調整によって正確な速度に修正されるということである。この調整は、Linuxカーネルの時計制御機能や、ハードウェアクロックとシステムクロックを同期させるphc2sysという別のツールに伝えられ、実行される。
最後に、「path delay: 747」について。これは、マスターデバイスからスレーブデバイスへデータが到達し、再びマスターデバイスへ戻ってくるまでの往復の遅延時間を示している。単位はナノ秒である。この値は、ネットワークケーブルの長さやネットワークデバイスの性能によって変動する。今回の「747」という値は、非常に低い遅延であり、これはDEBIX SOM Aのイーサネットインターフェースが「ハードウェアタイムスタンプ」に対応していることを強く示唆している。ハードウェアタイムスタンプとは、イーサネットコントローラーチップ自体がパケットの送受信時刻を記録する機能であり、CPUによるソフトウェア処理よりもはるかに正確で高速なタイムスタンプが可能となる。もしソフトウェアタイムスタンプの場合、この遅延は数十から数百マイクロ秒(1マイクロ秒は1000ナノ秒)といった大きな値になることが一般的である。この低い遅延は、TSNのリアルタイム性を最大限に引き出す上で非常に有利な要素となる。
このテスト結果は、DEBIX SOM AがTSN環境においてPTPプロトコルを利用することで、非常に高精度な時刻同期を実現できることを明確に示している。ナノ秒レベルでの時刻同期は、産業オートメーションにおけるロボットの協調動作、工場の生産ラインの精密制御、ネットワーク内のセンサーデータの正確なタイムスタンプなど、多くのリアルタイムシステムにおいて基盤となる技術である。システムエンジニアにとって、このような高精度な時刻同期の重要性と、それを実現する技術(TSN、PTP、ハードウェアタイムスタンプなど)の知識は、未来の産業を支える上で不可欠なものとなるだろう。