GPS(ジーピーエス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

GPS(ジーピーエス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

測位衛星システム (ソクイエイセイシステム)

英語表記

GPS (ジーピーエス)

用語解説

GPSは、地球上のどこにいても正確な位置情報を取得できる衛星測位システムである。これはGlobal Positioning Systemの略称であり、アメリカ合衆国国防総省によって開発・運用されている。当初は軍事目的で運用が開始されたが、現在では広く民生利用されており、カーナビゲーションシステムやスマートフォン、ドローン、気象観測、測量、時刻同期など、多岐にわたる分野で社会の基盤技術として活用されている。GPSの基本的な原理は、地球を周回する複数の人工衛星から発信される電波を受信し、その電波が受信機に到達するまでの時間差を利用して受信機の現在位置を特定するというものである。

GPSシステムは、大きく分けて「宇宙セグメント」「制御セグメント」「ユーザーセグメント」の三つの要素で構成されている。

宇宙セグメントは、地球を周回するGPS衛星群を指す。現在、31機以上のGPS衛星が、高度約20,200キロメートルの軌道を約12時間で一周するように配置されている。これらの衛星は、それぞれが非常に精密な原子時計を搭載しており、自身の正確な位置情報(軌道情報)と時刻情報を含む電波信号を常に地球に向けて発信している。この衛星配置は、地球上のどの地点からでも常に最低4機以上の衛星からの電波を受信できることを保証するように設計されている。

制御セグメントは、宇宙セグメントであるGPS衛星群を監視・制御する地上設備である。アメリカ本土にあるマスターコントロールステーションを中心に、世界各地に分散配置された監視局と地上アンテナで構成される。監視局はGPS衛星からの信号を受信して衛星の正確な軌道や搭載されている原子時計の誤差を常時測定し、そのデータをマスターコントロールステーションへ送信する。マスターコントロールステーションは、これらのデータに基づいて衛星の軌道補正情報や時計補正情報を算出し、地上アンテナを介してGPS衛星にアップロードする。これにより、衛星が発信する位置情報や時刻情報の精度が維持される。

ユーザーセグメントは、GPS衛星から発信される電波を受信し、自己の位置を算出するGPS受信機のことである。スマートフォンに内蔵されたGPSモジュールや、カーナビゲーションシステム、航空機・船舶の航法装置、測量機器などがこれに該当する。受信機は、複数の衛星から送られてくる電波を受信し、その信号に含まれる衛星の識別情報、軌道情報、送信時刻情報を解析する。

GPSによる位置特定の原理は、三辺測量に似た「三球測量」という考え方に基づいている。受信機が自己の位置を特定するためには、最低でも4機のGPS衛星からの信号が必要となる。

まず、GPS受信機は各衛星から発信される電波信号を受信する。この電波信号には、その信号が衛星から送信された時刻と、その衛星の正確な位置情報が含まれている。受信機は信号を受信した時刻と、信号に含まれる送信時刻との差から、電波が伝播するのにかかった時間を算出する。電波の速度は既知である光速であるため、「距離 = 速度 × 時間」の計算式を用いて、受信機から各衛星までの距離をそれぞれ求めることができる。この距離を「擬似距離(Pseudorange)」と呼ぶ。なぜ擬似距離というかというと、受信機の時計と衛星の時計には微細な誤差があり、この誤差が距離計算に影響を与えるためである。

仮に受信機の時計が完全に正確であったとすれば、3機の衛星からの距離情報があれば、3つの球面が交わる点で受信機の位置(X, Y, Z座標)を一意に特定できる。しかし、現実のGPS受信機の時計は衛星の原子時計ほど高精度ではないため、受信機の時計にも誤差が含まれる。この受信機の時計誤差が距離計算にそのまま反映されてしまう。この受信機側の時計誤差も未知数であるため、位置の三次元座標(X, Y, Z)に加えて、受信機側の時計誤差というもう一つの未知数を解決する必要がある。このため、最低でも4機の衛星からの擬似距離情報が必要となる。4つの擬似距離情報と4つの未知数(X, Y, Z, 受信機時計誤差)を用いて連立方程式を解くことで、受信機の正確な位置と受信機の時計誤差が同時に求められるのである。

GPSの測位精度に影響を与える要因は複数存在する。主なものとして、電波が地球の大気を通過する際の遅延が挙げられる。特に電離層や対流圏は電波の速度を変化させるため、これが測距誤差を生じさせる。また、都市部の高層ビルや山岳地帯などでは、GPS衛星からの直接波だけでなく、建物や地面に反射した電波(マルチパス)も受信してしまうことがあり、これが誤差の原因となる。衛星側の要因としては、搭載されている原子時計のわずかな誤差や、衛星の軌道情報の誤差も測位精度に影響を与える。

これらの誤差を軽減し、測位精度を向上させるための技術も開発されている。その一つが「差動GPS(DGPS)」である。これは、正確な位置が既知である基準局を設置し、基準局で計測されたGPS信号の誤差を算出し、その誤差情報を移動局(ユーザー受信機)に補正データとして送信することで、測位精度を高める手法である。また、「衛星航法補強システム(SBAS: Satellite-Based Augmentation System)」も精度向上に寄与する。これは、地上局でGPS衛星からの信号を監視し、誤差情報を補正データとして静止衛星経由でユーザー受信機に提供するシステムである。日本の準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」もSBASの一種であり、高精度な測位補強サービスを提供している。最近では、複数の異なる衛星測位システム(GPS、GLONASS、Galileo、BeiDouなど)の信号を同時に利用する「GNSS(Global Navigation Satellite System)」受信機が普及しており、これにより利用可能な衛星数が増え、測位の信頼性と精度がさらに向上する。

GPSは、単なる位置情報を提供するだけでなく、高精度な時刻同期の基準としても非常に重要である。金融取引システム、電力網の制御、通信インフラ、コンピューターネットワークなど、正確な時刻情報が不可欠な分野において、GPS衛星から供給される原子時計レベルの時刻情報が広く活用されている。このように、GPSは私たちの日常生活から社会インフラまで、多岐にわたるシステムを支える不可欠な技術となっている。システムエンジニアを目指す者にとって、この技術の基本的な理解は、位置情報サービスを扱うアプリケーション開発やIoTシステムの設計、高精度な時刻同期が求められるインフラ構築など、多くの場面で役立つだろう。

関連コンテンツ

関連ITニュース