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【ITニュース解説】JEP 401: Value Classes and Objects (Preview)

2025年09月12日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「JEP 401: Value Classes and Objects (Preview)」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

JEP 401は、Javaに新しいオブジェクトの扱い方「値クラス」を導入する提案だ。参照ではなく、そのオブジェクトが持つ「値」自体を直接扱うことで、メモリを効率良く使い、プログラムの処理速度向上を目指す。内容は不変で、値が同じなら同じと判断されるようになる。

ITニュース解説

Javaは、その誕生以来、オブジェクト指向プログラミングの主要な言語として、世界中のシステム開発を支えてきた。Javaが提供するオブジェクト指向の考え方は、現実世界の事柄を「オブジェクト」として捉え、それらを組み合わせてシステムを構築するというもので、複雑なソフトウェア開発をより扱いやすくしてきた。しかし、Javaのオブジェクトモデルには、その設計思想に起因するいくつかの課題も存在する。JEP 401「Value Classes and Objects (Preview)」は、これらの課題を解決し、Javaの未来をさらに進化させるための重要な提案だ。

現在のJavaでは、開発者が作成するほとんど全てのオブジェクトは「ヒープ」と呼ばれるメモリ領域に割り当てられる。ヒープは、プログラム実行中に動的にメモリを確保・解放するための領域で、オブジェクトはそこに「参照」を通じてアクセスされる。この参照渡しは柔軟なプログラミングを可能にするが、同時にいくつかのオーバーヘッドも生み出す。例えば、全てのオブジェクトには、その状態(フィールド)のデータ以外に、ガベージコレクション(GC)のための情報や、ロックなどの管理情報といった「オブジェクトヘッダー」が伴う。小さなオブジェクトであってもこのヘッダーが付くため、多数のオブジェクトを扱う際には、そのデータ量に比べて余分なメモリ消費が発生してしまう。

また、オブジェクトがヒープ上のどこにでも配置されうるため、メモリ上に散らばってしまうことがある。CPUは、メモリからデータを読み込む際に「キャッシュ」という高速な一時記憶領域を活用するが、データが散らばっているとキャッシュが効率的に使われず、プログラムのパフォーマンスが低下する原因となる。これを「メモリ局所性の低下」と呼ぶ。さらに、Javaにはintのようなプリミティブ型とIntegerのようなオブジェクト型(ラッパー型)があり、これら二つの型の間にはパフォーマンスとメモリ効率の面で大きな隔たりがある。プリミティブ型は値そのものであり、効率的に扱われる一方、ラッパー型はヒープに確保されるオブジェクトであり、前述のオーバーヘッドを伴う。

JEP 401が提案する「Value Class」と「Value Object」は、これらの課題に対する抜本的な解決策を目指すものだ。Value Classは、これまでのJavaのオブジェクトモデルとは異なる、新しい種類のクラスの概念を導入する。最も重要な特徴は、Value Classが「アイデンティティ」を持たないという点だ。従来のオブジェクトは、たとえ中身のデータが全く同じであっても、それぞれが異なる存在として識別される(例えば、同じ名前と年齢を持つ二人の人間は、それぞれ異なる個人として識別される)。しかし、Value Classでは「値が同じならば同じもの」とみなされる。例えば、座標を表すPointクラスで、Point(x=1, y=2)Point(x=1, y=2)の二つのValue Objectがあった場合、これらは全く同じ「値」を持つため、区別されない。

この「アイデンティティを持たない」という特性と密接に関わるのが「不変性」だ。Value Objectは一度作成されると、その中身のデータ(状態)を後から変更することはできない。もし変更が必要な場合は、新しいValue Objectを作成する必要がある。これにより、プログラムの安全性が高まり、特に並行処理において、複数のスレッドが同時に同じValue Objectを扱っても予期せぬ問題が発生しにくくなる。

そして、Value Classの最大のメリットは、そのメモリ配置の最適化にある。アイデンティティを持たず、不変であるという特性から、Java仮想マシン(JVM)はValue Objectをヒープに個別のオブジェクトとして割り当てる必要がなくなる可能性がある。代わりに、Value Objectは「インライン化」されたり、「スタック」と呼ばれるより高速なメモリ領域に直接配置されたりする可能性が出てくる。インライン化とは、例えば、あるクラスのフィールドがValue Classの場合、そのValue Objectのデータが、フィールドを持つクラスのメモリ領域に直接埋め込まれることを指す。これにより、オブジェクトヘッダーのオーバーヘッドが削減され、メモリ局所性が大幅に向上する。データがメモリ上で連続して配置されるため、CPUキャッシュが効率的に使われ、プログラムの実行速度が向上するのだ。

Value Classは、intIntegerのギャップを埋める存在としても期待されている。例えば、座標を表すPointクラスをValue Classとして定義すれば、これはintのように効率的に扱いつつ、xyといった複数のフィールドを持つ複合的な「値」を表現できるようになる。これは、プリミティブ型では表現できないが、従来のオブジェクトのように重くしたくない、といった場合に非常に有効な選択肢となる。

JEP 401が「Preview」とされているのは、この機能がまだ実験段階であり、将来のJavaバージョンで変更される可能性があることを意味する。これは、Javaコミュニティからのフィードバックを受けて、設計をさらに洗練させるための期間だ。しかし、この提案がJavaにもたらす可能性は計り知れない。特に、大量のデータ処理を行うアプリケーション、科学技術計算、ゲーム開発など、パフォーマンスとメモリ効率が非常に重要となる分野において、Value Classは大きな恩恵をもたらすだろう。

Value Classの導入は、Javaのプログラミングモデルに大きな変化をもたらす可能性を秘めている。開発者は、従来の「アイデンティティを持つモノ」としてのオブジェクトと、新しく加わる「アイデンティティを持たない値」としてのValue Objectを適切に使い分けることで、より高速でメモリ効率の高い、そしてより安全なシステムを構築できるようになるだろう。これは、Javaがその進化を止めることなく、現代のコンピューティングが求める高度な要求に応え続けようとする姿勢の現れだと言える。

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