【ITニュース解説】Microsoft's cloud service restored after reports of cut cables in the Red Sea

2025年09月08日に「Engadget」が公開したITニュース「Microsoft's cloud service restored after reports of cut cables in the Red Sea」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

紅海で海底ケーブルが切断され、MicrosoftのクラウドサービスAzureで遅延などの障害が発生した。Microsoftは通信経路を迂回させることでサービスを復旧。クラウドも物理的なインフラに支えられていることがわかる。(117文字)

ITニュース解説

先日、マイクロソフトが提供する世界最大級のクラウドプラットフォーム「Azure」において、一部サービスが利用しにくくなる障害が発生した。この障害の原因は、中東の紅海の海底に敷設されている通信ケーブルが切断されたことによるものであった。この出来事は、私たちが日常的に利用しているクラウドサービスが、実は物理的なインフラに深く依存しているという事実を改めて浮き彫りにした。

まず、クラウドサービスと海底ケーブルの関係について理解する必要がある。クラウドと聞くと、データが無線で空中を飛び交っているような漠然としたイメージを持つかもしれないが、実際には、世界中のデータセンターが物理的なケーブルで結ばれている。特に大陸間を結ぶデータの大部分は、海底に敷設された光ファイバーケーブル網によって伝送されている。この海底ケーブルは、いわばインターネットの世界的な背骨(バックボーン)であり、国際間の高速・大容量通信を支える極めて重要なインフラである。Azureのようなグローバルなクラウドサービスは、この巨大なケーブル網を利用して、世界中のユーザーにサービスを提供している。

今回の障害は、この重要なインフラの一部である紅海の海底ケーブルが切断されたことで発生した。これにより、特に中東地域のユーザーがAzureのサービスにアクセスする際の通信経路に問題が生じた。マイクロソフトの報告によると、この影響でユーザーは「レイテンシの増加」を経験した可能性があるとされている。レイテンシとは、データ通信における「遅延時間」を指す。つまり、ユーザーが何か操作をしてから、システムが応答を返すまでの時間が通常よりも長くなってしまう現象だ。ウェブサイトの表示が遅くなったり、オンラインサービスの反応が鈍くなったりといった形で体感される。ケーブル切断によって最適な通信経路が使えなくなり、データが遠回りせざるを得なくなった結果、このような遅延が発生したと考えられる。

この障害に対し、マイクロソフトは迅速な対応を行った。切断されたケーブルを経由していた通信トラフィックを、正常に機能している別の経路へ切り替える「リルート(経路変更)」を実施したのだ。これは、主要な高速道路が事故で通行止めになった際に、交通を別の高速道路や一般道へ迂回させる交通整理に似ている。現代のクラウドサービスは、このような不測の事態に備え、あらかじめ複数の通信経路を確保する「冗長性」という設計がなされている。一つの経路に障害が発生しても、ただちに別の経路に切り替えることで、サービス全体の停止を防ぎ、影響を最小限に抑えることができる。この耐障害性の高さこそが、クラウドプラットフォームに求められる重要な品質の一つである。マイクロソフトの対応により、障害は発生当日の夕方には解消され、サービスは正常な状態に復旧した。

一方で、なぜ海底ケーブルが切断されたのかという背景も重要だ。海底ケーブルは、大型船が投下した錨(いかり)によって偶然損傷することもあるが、意図的な破壊行為の対象となることもある。今回の件についてマイクロソフトは原因を特定していないが、報道によれば、イエメンのフーシ派による関与が指摘されている。これは、地政学的な紛争が、私たちの利用するITインフラに直接的な影響を及ぼすリスクを示唆している。デジタル化が進んだ現代社会において、通信インフラの物理的な安全性確保は、サイバーセキュリティ対策と同様に極めて重要な課題となっている。

今回の事例から、システムエンジニアを目指す者は多くのことを学べる。第一に、クラウドやネットワークは魔法ではなく、物理的な基盤の上に成り立っているという事実である。ソフトウェアだけでなく、その土台となるハードウェアやインフラの仕組みを理解することは、安定したシステムを構築する上で不可欠だ。第二に、障害は常に起こりうるという前提に立ち、システムを設計する必要があるということだ。冗長性の確保や、迅速な切り替えを可能にする仕組みは、サービスの継続性を担保するための基本となる。マイクロソフトが「切断されたケーブルの修理には時間がかかる可能性がある」と述べたように、物理的なインフラの復旧は容易ではない。その間もサービスを維持し続けるためには、ソフトウェアとインフラの両面から、障害に強いシステムを設計・運用する技術が求められるのである。この事件は、システムエンジニアが向き合うべき課題の広さと奥深さを示す、貴重なケーススタディと言えるだろう。

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