【ITニュース解説】欧米で急速に進みつつある製品セキュリティの法整備
2025年09月08日に「ZDNet Japan」が公開したITニュース「欧米で急速に進みつつある製品セキュリティの法整備」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
欧米では、インターネットにつながる製品のセキュリティに関する法整備が急速に進んでいる。これは、IoTの普及により物理空間とサイバー空間が融合し、新たなリスクが増大しているためだ。米国や欧州は、こうしたリスクに対応するための法的枠組みを構築している。
ITニュース解説
現代社会では、スマートフォンやパソコンといった情報機器だけでなく、家電製品、自動車、医療機器、産業機械など、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT(Internet of Things)」が急速に進んでいる。この技術革新は私たちの生活を格段に便利にする一方で、新たなリスクも生み出している。物理的なモノとインターネット上の情報が密接に結びつき、互いに影響し合う「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」の時代において、もしこれらの製品にセキュリティ上の欠陥(脆弱性)があれば、サイバー攻撃によって私たちの身体や財産に直接的な被害が及ぶ可能性が出てきているのだ。
例えば、ネットワークにつながったスマートロックのセキュリティが甘ければ、外部から不正に解錠され、家の中に侵入される恐れがある。自動運転車がハッキングされ、遠隔で操作を乗っ取られれば、重大な事故につながる可能性も否定できない。医療機器のシステムが攻撃を受ければ、患者の命に関わる事態になりかねない。このような現実的な脅威から消費者を守り、社会全体の安全と信頼を確保するために、欧米諸国では製品のセキュリティに関する法的な枠組み、すなわち「製品セキュリティの法整備」が急速に進められている。これは、製品が市場に出る前からセキュリティを考慮し、販売後も適切な対策を講じることを企業に義務付ける動きである。
米国では、サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ強化に重点が置かれている。特に、製品に含まれるソフトウェアの構成要素をリスト化した「SBOM(Software Bill of Materials)」の義務化に向けた動きが活発だ。SBOMは、製品がどのようなソフトウェア部品(ライブラリやフレームワークなど)で構成されているかを詳細に記載したもので、もしこれらの部品に脆弱性が見つかった場合、その製品にどのような影響があるかを素早く特定し、対応するための基盤となる情報である。政府は、重要インフラに関わる製品においてSBOMの活用を推奨、あるいは義務付けることで、攻撃者が狙うソフトウェアの弱点を早期に発見し、サプライチェーン全体のリスクを低減しようとしている。これにより、製品開発者は、自社が開発したコードだけでなく、利用するオープンソースソフトウェアや外部のコンポーネントについても、そのセキュリティ状態を把握し、説明できる責任が求められるようになる。
一方、欧州連合(EU)では、より包括的な「サイバーレジリエンス法案(CRA: Cyber Resilience Act)」が提案され、製品セキュリティに対する厳格な要件を導入しようとしている。この法案は、IoTデバイスを含む、デジタル要素を持つすべての製品を対象とし、市場に出荷される製品が満たすべきセキュリティ基準を定めている。CRAの主要な目的は、製品のライフサイクル全体にわたるセキュリティを確保することにある。具体的には、製品の設計段階からセキュリティを考慮する「セキュリティ・バイ・デザイン」の原則を義務付け、脆弱性が発生しにくい安全な設計を求める。これは、製品の機能やコストだけでなく、最初からセキュリティを最優先事項として組み込むことを意味する。
CRAはまた、製品が市場に出た後も、発見された脆弱性に対して迅速なパッチ(修正プログラム)の提供やセキュリティアップデートを行うことを企業に義務付ける。さらに、製品が販売されてから一定期間(例えば5年間など)、継続的なセキュリティサポートを提供することも要求している。これは、古い製品がセキュリティ対策のないまま放置され、全体のサイバーセキュリティリスクを高めることを防ぐための重要な措置である。この法案の対象となる製品は非常に広範で、スマート家電、産業用制御システム、ネットワーク機器、オペレーティングシステム、さらにはセキュリティソフトウェア自体も含まれる。
CRAは、製品の「製造者」だけでなく、「輸入者」や「流通業者」にも責任を課している点も特徴だ。これにより、製品を市場に提供するサプライチェーン全体でのセキュリティ確保が強く促される。欧州市場で製品を販売するためには、現在、安全性や健康、環境保護などに関する基準を満たしていることを示す「CEマーク」の貼付が義務付けられているが、将来的にはCRAのセキュリティ要件を満たすこともCEマーク取得の条件となる見込みである。もし、これらの要件を満たさない製品が流通した場合、企業には多額の罰金が課される可能性があり、欧州市場への参入自体が困難になる恐れもある。
これらの法整備は、単に企業の負担を増やすだけでなく、製品開発のあり方を根本から変えるものとなる。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、これは非常に重要な変化だ。これからのシステム開発においては、製品の機能要件と同じくらいセキュリティ要件が重視されるようになり、開発の初期段階からセキュリティ対策を組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方が不可欠となる。また、製品が完成した後も、継続的な脆弱性管理やセキュリティアップデートの提供が求められるため、製品のライフサイクル全体を見据えた開発・運用能力が重要となる。
さらに、自社が開発する製品だけでなく、サプライチェーンを構成する様々な部品や外部のソフトウェアのセキュリティにも目を配り、全体としての安全性を確保する視点が必要になるだろう。欧米のこうした動きは、世界中の製品セキュリティ基準を引き上げるものであり、日本を含む他の国々も同様の法整備に追随する可能性が高い。システムエンジニアとして成功するためには、これらの法規制の動向を理解し、セキュリティを最優先する意識とスキルを身につけることが、ますます重要になってくる。セキュリティは、もはや後付けの機能ではなく、製品の品質と信頼性を左右する最も基本的な要素の一つとして位置づけられるようになるのだ。