Lossless JPEG(ロスレスジェイペグ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

Lossless JPEG(ロスレスジェイペグ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

ロスレスJPEG (ロスレスジェイペグ)

英語表記

Lossless JPEG (ロスレスジェイペグ)

用語解説

Lossless JPEGは、デジタル画像の圧縮フォーマットの一種であり、その名称が示す通り、「Lossless(無損失、可逆)」な圧縮を行うJPEG規格である。一般的に広く知られているJPEGは、非可逆圧縮方式を採用しており、ファイルサイズを大幅に削減できる反面、元の画像データを完全に復元することはできず、画質が劣化する。これに対し、Lossless JPEGは、圧縮処理によって画質が一切劣化しないという特徴を持つ。圧縮されたデータを展開すると、元の画像データと完全に同一の情報が復元される。この特性から、可逆圧縮JPEGとも呼ばれる。システム開発において画像データを扱う際、用途に応じて非可逆圧縮と可逆圧縮を適切に選択する必要があり、その選択肢の一つとしてLossless JPEGの原理を理解することは重要である。

通常の非可逆JPEGとLossless JPEGの最も大きな違いは、その圧縮アルゴリズムにある。非可逆JPEGでは、画像を小さなブロックに分割し、それぞれに離散コサイン変換(DCT)を適用する。この処理により、画像データは空間周波数成分に分解される。人間の視覚は細かい模様や色の変化といった高周波成分の変化に鈍感であるため、この高周波成分の情報を大幅に削減(量子化)することで、高い圧縮率を実現する。この量子化の過程で情報が失われるため、非可逆となる。一方、Lossless JPEGはDCTを用いない。代わりに、予測符号化と呼ばれる技術を主に使用する。これは、画像内のある画素(ピクセル)の値を、その周辺にある画素の値から予測するという手法である。例えば、画像の左隣の画素の値や真上の画素の値などから、現在の画素の値を予測する。そして、実際の画素の値と予測値との「差分(予測誤差)」のみを記録する。画像の大部分は隣接する画素と似た色を持つため、この差分はゼロに近い小さな値になることが多い。小さな値のデータは、大きな値のデータよりも少ないビット数で効率的に符号化できるため、結果としてデータ量を圧縮できる。この差分情報と予測方法が分かっていれば、展開時に完全に元の画素値を計算し直すことが可能である。これが、Lossless JPEGが可逆圧縮である理由である。

このアルゴリズムの違いは、圧縮率と画質のトレードオフに直結する。Lossless JPEGの圧縮率は、一般的に元の画像のファイルサイズの2分の1から3分の1程度であり、非可逆JPEGの10分の1以下という高い圧縮率には遠く及ばない。画質を完全に維持するという制約があるため、圧縮性能には限界がある。この低い圧縮率と、当時対応するソフトウェアが非常に少なかったことから、Lossless JPEGはWeb画像や一般的なデジタル写真の分野で普及することはなかった。PNGやTIFF(LZW圧縮)、GIFといった、より広くサポートされた他の可逆圧縮フォーマットがその役割を担うことが多かった。しかし、その完全な可逆性から、特定の専門分野では重要な役割を果たしてきた。その代表例が医療分野である。CTスキャンやMRIなどの医療用画像は、医師が正確な診断を下すための重要な情報源であり、圧縮によってわずかでも情報が失われることは許されない。そのため、医療用画像の標準規格であるDICOMでは、圧縮方式の一つとしてLossless JPEGが採用されている。同様に、科学技術分野においても、衛星画像や天体写真、電子顕微鏡で撮影された画像など、精密なデータ分析が求められる場面で、元情報を損なわずにファイルサイズを削減する手段として利用されることがある。また、一部のデジタルカメラのRAWフォーマットでは、撮像素子から得られた生データを保存する際に、内部的にLossless JPEGの技術に基づいた可逆圧縮アルゴリズムが使用されることがある。これは、現像処理で最大限の画質を引き出すために、撮影時の情報を一切失いたくないという要求に応えるためである。

Lossless JPEGはJPEG規格の一部として標準化されたものの、普及面や性能面での課題があったため、その思想を受け継ぎ、より高性能な規格が後に開発された。例えば、Lossless JPEGよりも高い圧縮率を目指して設計された可逆圧縮専用のJPEG-LSや、ウェーブレット変換という新しい技術を用いて非可逆と可逆の両方で高い性能を発揮するJPEG 2000などが存在する。近年では、既存のJPEGからの移行も考慮しつつ、高い圧縮率と高速な処理を実現するJPEG XLといった次世代フォーマットも登場している。これらの新しい規格は、Lossless JPEGが確立した「JPEGの枠組みにおける可逆圧縮」という概念を、より洗練された技術で実現しようとする試みと捉えることができる。システムエンジニアとしては、単にLossless JPEGという一つの規格を知るだけでなく、画像圧縮における可逆と非可逆の基本的な違いと、それぞれの技術がどのような要求を満たすために存在し、どのように進化してきたのかという文脈を理解しておくことが、適切な技術選定につながるだろう。

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