LSD(エルエスディー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

LSD(エルエスディー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

エルエスディー (エルエスディー)

英語表記

LSD (エルエスディー)

用語解説

LSDはLog-structured designの略称であり、日本語ではログ構造化設計と訳される。これは、データストレージにおける設計思想の一つで、データの更新を従来の上書き方式ではなく、ログファイルのように常に末尾に追記していく方式を指す。この設計の主な目的は、書き込み処理の性能を最大化することにある。特に、ランダムな書き込み要求をシーケンシャルな書き込みに変換することで、ハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)といった記憶装置の物理的な特性に起因する性能上のボトルネックを解消する。この思想は、現代の多くのデータベースシステムやファイルシステム、さらにはSSDの内部制御など、幅広い分野で採用されている。

LSDの利点を理解するためには、まず従来のデータ更新方式である上書き方式の問題点を把握する必要がある。HDDのような回転式磁気ディスクでは、データの読み書きを行うために磁気ヘッドを目的のデータが記録されている物理的な位置まで移動させる必要がある。このヘッドの移動時間をシークタイムと呼び、ディスクの回転を待つ時間を回転待ち時間と呼ぶ。データを上書きする場合、まず更新対象のデータがどこにあるかを探し、ヘッドをその位置まで移動させてから書き込みを行う。この一連の動作、特にランダムな場所へのアクセスが頻発すると、シークタイムと回転待ち時間が積み重なり、システム全体の性能を著しく低下させる原因となる。一方、半導体メモリであるSSDでは、HDDのような物理的な可動部品は存在しないため、シークタイムは問題にならない。しかし、SSDには別の制約が存在する。SSDの基本単位であるNANDフラッシュメモリは、データを直接上書きすることができない。データを更新するためには、一度ブロック単位でデータを消去し、その後に新しいデータを書き込むという手順を踏む必要がある。この消去処理は書き込み処理よりも遥かに時間がかかる。さらに、同じブロックに対して頻繁に上書き、すなわち消去と書き込みを繰り返すと、そのブロックの寿命が短くなってしまう。この、実際に書き込みたいデータ量よりも多くの書き込みが内部的に発生する現象を「書き込み増幅(Write Amplification)」と呼び、SSDの性能低下と寿命短縮の大きな要因となる。

LSDは、これらの問題を解決するために考案された。その中核的なアイデアは、全てのデータ変更を「追記」として扱うことである。新しいデータが書き込まれる時も、既存のデータが更新される時も、あるいはデータが削除される時でさえも、その操作はログと呼ばれる連続した領域の末尾に追加される。これにより、書き込みヘッドは常に末尾に移動するだけで済むため、HDDではシークタイムがほぼ発生しないシーケンシャル書き込みとなり、SSDでは消去処理を伴う上書きを回避し、効率的な書き込みが可能となる。データの読み出し時には、どのデータが最新であるかを知る必要がある。そのため、LSDを採用したシステムでは、データの物理的な位置情報を持つインデックス(索引)を別途メモリ上などに保持する。読み出し要求があると、まずこのインデックスを参照して最新データの格納場所を特定し、その場所に直接アクセスしてデータを取得する。この追記方式は書き込み性能を劇的に向上させる一方で、新たな課題も生む。追記のみを繰り返していくと、ログの中には更新前の古いデータや、削除されたことを示す情報だけが残り、実体は不要となったデータ、いわゆる「ガベージ(ごみ)」が蓄積していく。これにより、ストレージの容量が無駄に消費されてしまう。この問題を解決するために、LSDを採用するシステムは「コンパクション(Compaction)」や「クリーンアップ(Cleaning)」と呼ばれるバックグラウンド処理を定期的に実行する。この処理では、ログの中から有効なデータ(最新版のデータ)だけを抽出し、新しいログ領域に詰めてコピーする。そして、有効なデータがなくなった古いログ領域は解放され、再利用可能な空き領域となる。このコンパクション処理によって、ストレージの使用効率を維持することができる。ただし、この処理はバックグラウンドで行われるとはいえ、一定のI/O負荷とCPUリソースを消費するため、システムの全体的な性能に影響を与える可能性がある。

LSDの思想は、多くの実用的なシステムで採用されている。その代表例が、多くのNoSQLデータベースで利用されているデータ構造である「Log-Structured Merge-Tree(LSM-Tree)」である。LSM-Treeでは、書き込みデータをまず高速なメモリ上のソート済みテーブルに書き込む。このメモリ上のテーブルが一定のサイズに達すると、その内容を不変のファイルとしてディスクにシーケンシャルに書き出す。ディスク上には複数の不変ファイルが生成され、これらをバックグラウンドでマージ(コンパクション)することで、古いデータを削除し、読み込み効率を最適化する。GoogleのBigtableやApache Cassandra、RocksDBなどがこのLSM-Treeアーキテクチャを採用しており、高い書き込みスループットを実現している。また、SSDの内部で動作するファームウェアであるFTL(Flash Translation Layer)も、論理的なアドレスと物理的なアドレスのマッピングを管理し、書き込みを物理的に分散させることでウェアレベリング(摩耗平準化)を行うなど、LSDと同様の思想に基づいた制御を行っている。このように、LSDは書き込み処理が多発する現代のシステムにおいて、ストレージデバイスの性能を最大限に引き出すための重要な設計思想となっている。