MS-CHAP(エムエスチャップ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
MS-CHAP(エムエスチャップ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
エムエスチャップ (エムエスチャップ)
英語表記
MS-CHAP (エムエスチャップ)
用語解説
MS-CHAP(エムエス チャップ)とは、Microsoft社が開発したチャレンジハンドシェイク認証プロトコル(CHAP)の拡張版であり、主にリモートアクセスサービスや仮想プライベートネットワーク(VPN)接続におけるユーザー認証に使用される認証プロトコルである。このプロトコルは、ユーザーがネットワークリソースにアクセスする際に、その正当性を検証するために用いられる。特にWindowsベースのシステムにおいて広く採用されてきた。
MS-CHAPの基本的な考え方は、CHAPと同様に、認証情報をネットワーク上で平文(暗号化されていない状態)で送受信することなく、認証を完了させる点にある。これにより、通信を傍受されてもパスワードそのものが盗まれるリスクを低減できる。
詳細を説明する。まず、MS-CHAPを含む多くの認証プロトコルが採用する「チャレンジ-レスポンス方式」について理解すると、その仕組みがわかりやすい。この方式では、認証を行うサーバー(認証者)がクライアント(要求者)に対して「チャレンジ」と呼ばれるランダムなデータを送信する。クライアントは、そのチャレンジデータと自身のパスワードを組み合わせて特定の計算(ハッシュ化)を行い、「レスポンス」としてサーバーに送り返す。サーバーは、自身のデータベースに保存されているクライアントのパスワード情報を用いて、全く同じ計算を行い、クライアントから送られてきたレスポンスと自身の計算結果を比較する。両者が一致すれば、クライアントは正当なユーザーであると判断され、認証が成功する。この方法の利点は、チャレンジデータが毎回異なるため、たとえ過去のレスポンスが傍受されたとしても、そのレスポンスをそのまま再利用して認証を突破する「リプレイアタック」を防げることにある。
MS-CHAPには主に二つのバージョンが存在する。MS-CHAP v1とMS-CHAP v2である。
MS-CHAP v1は、CHAPをMicrosoftのWindows NTドメイン環境での利用に最適化したものである。CHAPがMD5(Message Digest Algorithm 5)というハッシュ関数を使用するのに対し、MS-CHAP v1では主にNTLMハッシュというWindows独自のパスワードハッシュ形式が利用される。これにより、Windows NTのドメインコントローラーが持つユーザー認証情報との連携が容易になった。また、MS-CHAP v1には、認証後にパスワードを変更する機能がサポートされていた。しかし、MS-CHAP v1のパスワードハッシュ生成アルゴリズムにはセキュリティ上の脆弱性があり、傍受されたレスポンスから比較的容易にパスワードを推測できるリスクが指摘された。特に、ブルートフォースアタック(総当たり攻撃)や辞書攻撃に対する耐性が低いという問題があったため、現在では利用が推奨されない。
これらのセキュリティ問題を改善するために開発されたのがMS-CHAP v2である。MS-CHAP v2は、v1の脆弱性に対処するために複数の改良が加えられた。最も重要な改良点の一つは、「相互認証(Mutual Authentication)」の導入である。v1ではクライアントがサーバーに対して自身を認証する一方通行のプロセスであったが、v2ではクライアントがサーバーを認証すると同時に、サーバーもクライアントに対して自身の正当性を証明する。これにより、悪意のある偽のサーバーが正規のサーバーになりすましてユーザーの認証情報を騙し取る「中間者攻撃(Man-in-the-Middle attack)」のリスクを大幅に低減できるようになった。
さらに、MS-CHAP v2では、認証プロセス中に生成される情報を用いて、その後のデータ通信を暗号化するためのセッションキーを生成する機能が強化された。このセッションキーは、MPPE(Microsoft Point-to-Point Encryption)などのデータ暗号化プロトコルと組み合わせて利用されることで、認証後の通信内容の機密性を保護する。また、パスワードからレスポンスを生成するハッシュ化アルゴリズムも、v1よりも複雑で堅牢なものが採用された。具体的には、クライアントとサーバーの両方から提供されるチャレンジ値を組み合わせてハッシュを生成することで、セキュリティを一層強化している。
MS-CHAP v2は、かつてVPN接続やリモートアクセスにおいて広く利用されたが、現代のセキュリティ要件から見ると、完全に安全であるとは言えない。特に、パスワードが短かったり単純であったりする場合、総当たり攻撃によってレスポンスが解析され、パスワードが解読される可能性が指摘されている。これは、MS-CHAP v2の認証アルゴリズムが、現代の高速な計算能力を持つコンピューターにとっては解析可能になってきたためである。
現在では、より高度な認証プロトコルへの移行が推奨されている。具体的には、EAP(Extensible Authentication Protocol)フレームワークを利用し、その中のEAP-TLSやPEAP(Protected EAP)といったプロトコルが推奨される。これらのプロトコルは、サーバー証明書を用いた強力な相互認証や、より強固な暗号化技術を統合しており、MS-CHAP v2よりも高いセキュリティレベルを提供する。システムエンジニアを目指す上では、MS-CHAPが過去に果たした役割と、現代における限界、そしてより安全な代替技術の存在を理解しておくことが重要である。