【ITニュース解説】39 New Methods That Compromise Passkey Authentication
2026年09月04日に「BleepingComputer」が公開したITニュース「39 New Methods That Compromise Passkey Authentication」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
パスワードに代わるPasskey認証は多くの攻撃を防ぐが、新たに39種の攻撃手法が発見された。これらはFIDO2暗号を破らず、認証時のプロンプトや登録、回復プロセスなどを悪用し、Passkey認証を侵害するものだ。
ITニュース解説
近年、インターネットサービスへのログイン方法として、従来のパスワードに代わる「パスキー(Passkey)」が注目されている。パスキーは、パスワードが抱える多くのセキュリティ上の課題、例えばフィッシング詐欺やパスワードの使い回しによる情報漏洩といった問題を根本的に解決すると期待されている技術だ。
パスワード認証では、ユーザーは事前に登録した文字列をサーバーに送信し、サーバーがその文字列が正しいかを確認することでログインが許可される。しかし、この仕組みは、ユーザーがフィッシングサイトにパスワードを入力してしまったり、どこかから漏洩したパスワードリストが不正アクセスに使われたりするリスクを常に抱えている。パスワードを複雑にし、定期的に変更するといった対策も存在するが、ユーザーの負担が大きく、根本的な解決には至っていなかった。
そこで登場したのがパスキーである。パスキーは、FIDO2(Fast IDentity Online 2)という国際的な認証標準に基づいており、公開鍵暗号方式という高度な暗号技術を利用する。ユーザーがアカウントを作成する際、利用しているデバイス(スマートフォンやPCなど)上で「秘密鍵」と「公開鍵」という二つの鍵のペアが生成される。秘密鍵はデバイス内に安全に保管され、決して外部に送られることはない。一方、公開鍵はサービスを提供するサーバーに登録される。
ログイン時には、ユーザーがデバイス上で生体認証(指紋や顔認証)やPINコードといった方法で本人確認を行うと、デバイス内の秘密鍵を使って認証情報が生成され、それがサーバーに送られる。サーバーは登録されている公開鍵を使って、送られてきた認証情報が正しいかどうかを検証する。この一連のプロセスで、パスワードのように「秘密の文字列」がネットワーク上を流れることはなく、フィッシングサイトにだまされて秘密鍵が盗まれることもない。なぜなら、各デバイスごとに固有の鍵ペアが生成され、その鍵はデバイスから離れることがないためだ。また、秘密鍵が盗まれるリスクも極めて低い。これにより、パスキーは従来のパスワード認証に比べて、はるかに高いセキュリティを実現すると考えられている。
しかし、最新の研究報告では、このパスキー認証にも39の新たな攻撃手法が存在することが明らかになった。このニュースは、パスキーがすべてのセキュリティ問題を解決する「銀の弾丸」ではないことを示唆している。重要な点は、これらの攻撃手法がパスキーの根幹であるFIDO2暗号化技術そのものを破るものではないということだ。つまり、公開鍵暗号の数学的な安全性や、デバイス内で秘密鍵が保護される仕組み自体は依然として堅牢である。
では、どのような形で攻撃が行われるのか。これらの39の手法は、FIDO2暗号化の「周り」にある、人間が関わるプロセスやシステム間の信頼関係、実装上の設計を悪用するものが多い。具体的な攻撃のカテゴリとしては、「認証プロンプトの悪用」「同期された資格情報の悪用」「登録プロセスの悪用」「回復プロセスの悪用」、そして「その他の信頼境界の悪用」が挙げられている。
「認証プロンプトの悪用」とは、ユーザーが認証操作を行う際に表示される画面やメッセージをだまし取る手法を指す。例えば、巧妙に作られた偽のウェブサイトやアプリが、あたかも正規のサービスであるかのように振る舞い、ユーザーにパスキー認証を促す。ユーザーはそれが偽物だと気づかずに生体認証などを行ってしまうと、実際には攻撃者の意図する認証操作を許可してしまうことになる。これはパスワードの場合のフィッシング詐欺と似ているが、パスワードそのものを入力させるのではなく、認証プロセスを偽装する点が異なる。
次に、「同期された資格情報の悪用」は、パスキーが複数のデバイス間で同期される仕組みを狙うものだ。多くのパスキーの実装では、ユーザーが複数のデバイス(例えば、スマートフォンとPC)で同じアカウントにログインできるよう、パスキー情報がクラウドサービスなどを介して安全に同期される機能が提供されている。攻撃者がもし、ユーザーのクラウドストレージアカウントへのアクセス権を不正に取得した場合、同期されているパスキーを不正なデバイスに引き継いでしまい、そのパスキーを使ってサービスにログインできてしまう可能性がある。これは、デバイスの盗難やクラウドサービスアカウントの乗っ取りといった、パスキーそのものではない部分のセキュリティが重要になることを示している。
「登録プロセスの悪用」は、攻撃者が不正なデバイスを正規のデバイスとして、ユーザーのアカウントに登録させてしまう手法だ。例えば、ユーザーがデバイスを新しく購入し、パスキーをセットアップする際に、攻撃者がそのプロセスに介入し、自身のデバイスをユーザーの正規のデバイスであるかのように登録させてしまうシナリオが考えられる。これにより、攻撃者はその不正に登録されたデバイスを使って、いつでもユーザーのアカウントにログインできるようになる。
「回復プロセスの悪用」は、ユーザーがデバイスを紛失したり、パスキーを誤って削除してしまったりした場合に、アカウントへのアクセスを回復するための手順を狙うものだ。多くの場合、アカウント回復プロセスは、メールアドレスや電話番号への確認コード送信、またはバックアップコードの利用など、別の認証手段を用いる。攻撃者がこれらの回復手段を乗っ取ることができれば、パスキーがなくてもアカウントを乗っ取ることが可能になる。これは、パスキー認証自体が安全であっても、その「外側」にあるアカウント管理のプロセスが脆弱であれば、全体としてのセキュリティが破られてしまうことを意味する。
「その他の信頼境界の悪用」とは、システムが「信頼できる」と判断する境界線、つまりセキュリティゾーンの設計上の隙を突く攻撃だ。例えば、特定のネットワーク内からのアクセスは信頼する、特定のセッションが確立された後は追加認証を求めない、といったシステム側の判断基準を、攻撃者が騙すことで不正なアクセスを実現する。これは、システム全体のセキュリティ設計や、ユーザーが利用するネットワーク環境の安全性にも関連する。
これらの攻撃手法が示すのは、パスキーが非常に強力な認証技術であることは間違いないが、それが完全に万能ではないという現実だ。パスキーはパスワードが持つ多くの弱点を克服するものの、人間が操作するインターフェース、デバイスの物理的セキュリティ、アカウント回復手順、そしてシステム全体の設計といった、FIDO2暗号化技術以外の部分に脆弱性が存在しうることを浮き彫りにしている。
システムエンジニアを目指す上で重要なのは、単一の技術がすべての問題を解決するわけではないという視点を持つことだ。パスキーのような優れた技術を導入しても、それを取り巻く環境やプロセス全体を考慮した多層的なセキュリティ対策が不可欠である。例えば、デバイス自体のセキュリティを強化する、二段階認証や多要素認証を組み合わせる、そして何よりも、ユーザーが不審なウェブサイトやメッセージに注意し、認証操作を安易に行わないよう啓発することも重要となる。これらの複合的なアプローチこそが、現代のサイバーセキュリティを維持するために求められる考え方である。