【ITニュース解説】I replaced Animal Crossing's dialogue with a live LLM by hacking GameCube memory
2025年09月10日に「Hacker News」が公開したITニュース「I replaced Animal Crossing's dialogue with a live LLM by hacking GameCube memory」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
どうぶつの森のゲーム内会話を、GameCubeメモリハッキングでリアルタイムのLLM(大規模言語モデル)に置き換える技術が開発された。古いゲームの挙動を現代AIで操作する試みだ。
ITニュース解説
このニュース記事は、2001年に任天堂から発売されたゲーム機であるGameCubeのゲーム「どうぶつの森」の会話システムを、最新の人工知能技術である大規模言語モデル(LLM)で置き換えるという野心的なプロジェクトについて解説している。単にエミュレータ上で動かすだけでなく、実際のGameCube本体で動作させることを目指している点が特筆すべき挑戦だ。このプロジェクトは、既存のシステムを深く理解し、改造していくためのシステムエンジニアリングの考え方や技術的なアプローチを学ぶ良い事例となるだろう。
まず、このプロジェクトの根幹にあるのは「どうぶつの森」のゲーム内における会話の仕組みを理解することだ。通常のゲームでは、キャラクターとの会話はあらかじめ決められたテキストデータがゲームのプログラム内に保存されており、特定のイベントや条件に基づいて表示される。しかし、この記事の筆者はこの固定された会話ではなく、AIがその場で生成する自由な会話を実現しようとした。そのために、GameCubeの内部構造、特にメモリの仕組みを深く掘り下げていく必要がある。
GameCubeは20年以上前のハードウェアであり、現代のPCとは比較にならないほど処理能力やメモリ容量が限られている。また、インターネットに常時接続する機能も標準では持っていない。このような制約の多い環境でLLMを動かすことは不可能だ。そこで、筆者はGameCubeが会話を表示する仕組みだけを「ハッキング」することで、外部のLLMと連携させる道を選んだ。ここで言う「ハッキング」とは、悪意のある行為ではなく、システムの内部を詳細に解析し、その動作原理を理解した上で、自身の目的のためにプログラムやデータを変更・利用する「リバースエンジニアリング」の一種と捉えることができる。
具体的な手順としては、まずGameCubeのメモリがどのように使われているかを特定する作業から始まる。ゲームが動作しているとき、プログラムのコードやキャラクターのグラフィックデータ、そして会話のテキストデータなどは、全て一時的にメモリ上に展開される。筆者はエミュレータのデバッグ機能などを活用し、ゲーム内の会話文がメモリ上のどの位置に格納され、そしてどのプログラムがその会話文を読み出して画面に表示しているのかを丹念に調べていった。これは、特定の住所(メモリ番地)に何が置かれているか、そして郵便配達員(プログラム)がその住所から何を取り出してどこへ運んでいるのかを突き止めるような作業だ。
会話表示のプログラム(ルーチン)を特定したら、次にそのプログラムが読み出すべきメモリ上のデータを、あらかじめ決められたテキストではなく、LLMが生成したテキストに置き換える方法を考える。筆者は、GameCubeのメモリに直接データを書き込むことで、この置き換えを実現した。つまり、ゲームが本来表示するはずだったテキストデータのメモリ領域に、外部のLLMが生成した新しいテキストデータをリアルタイムで上書きするように仕向けたのだ。
しかし、GameCube自体にLLMを動かす能力がないため、外部の高性能なPCでLLMを動作させ、その結果をGameCubeに送り込む必要がある。このPCとGameCube間の通信も大きな課題だ。筆者は、GameCubeに拡張されたネットワークアダプタやシリアルポートといった物理的な接続を活用し、独自の通信プログラムを開発した。このプログラムは、LLMが生成したテキストデータを、GameCubeが理解できる形式(文字コードなど)に変換し、GameCubeのメモリ上の適切な位置へ正確に送り込む役割を果たす。さらに、LLMにただ漠然と会話を生成させるのではなく、今ゲーム内でどのキャラクターと話しているのか、プレイヤーはどこにいるのかといったゲームの状況をLLMに伝える仕組みも必要となる。これにより、LLMはより状況に合った自然な会話を生成できるようになる。
このプロジェクトには、文字コードの違いやメモリ容量の制約、LLMの応答速度とゲームの進行タイミングの同期など、様々な技術的課題が立ちはだかった。例えば、日本語の表示では、GameCubeが利用する特定の文字コードにLLMの出力を変換する必要があり、また表示可能な文字数も限られるため、長すぎる会話文は分割したり要約したりする工夫が求められる。これらの課題を一つ一つ解決していく過程は、システムエンジニアが実務で直面する問題解決の連続と本質的に同じだ。
このプロジェクトは、単なるゲームの改造にとどまらない深い意義を持っている。システムエンジニアを目指す人にとって、これはハードウェアの制約、メモリ管理、低レイヤーのプログラミング、リバースエンジニアリング、そして異なるシステム間の連携といった、多岐にわたる基礎知識と実践的な問題解決能力の重要性を示している。既成概念にとらわれず、古い技術と新しい技術を融合させて全く新しい体験を生み出す創造性、そして未知の領域に挑む探求心は、これからのシステムエンジニアにとって非常に重要な資質だと言えるだろう。